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実写版ONE PIECEに於いて空島をスキップするとどうなるか

現在シーズン2の制作がスタートしている実写版ONE PIECEですが、シーズン1制作中からredditで話題にのぼり続けているのが『空島サーガをスキップ(飛ばして制作)するべきか否か』という議論です。

シーズン2で描かれると予想されている範囲はローグタウンからアラバスタ王国決戦までであり、ジャヤ編・スカイピア編を含む空島サーガが扱われるとしてもそれはシーズン3以降になるであろう可能性が高いのですが、不思議と盛り上がってしまう議題なのも事実。

原作漫画の連載では日本でもイーストブルー - アラバスタと駆け抜けた後の『停滞』を少なくない読者が不満として漏らしていた期間ですが、様々な国のファンが集うredditでも「Filler(繋ぎ: 日本で言うところのアニメオリジナル)の様に感じる」「世界の出来事から切り離されている」などを理由に不人気なのが空島サーガです。

更に、島雲や海雲など映像化の際明らかに障壁となりそうな設定が山積していることがスキップ論に拍車をかけています。本記事ではそんな『空島サーガスキップ論』について考えてみたいと思います。

なお、本記事に於けるONE PIECE物語区分は英語圏で浸透しているSaga/Arcに準拠しサーガ/編と変換し用いています。


スカイピアでの冒険を削除した際に生まれる物語の破綻

では実際に空島サーガをスキップしアラバスタ出港後ロビンを仲間に加えそのままロングリングロングランド(こちらの方が大幅な短縮やスキップの対象となりそうなお話ですが)かウォーターセブンに直結した場合何が起こるかというと、それは物語の破綻です。

空島に関連する物語をスキップした場合その後の展開に深刻な問題を引き起こすのです。

それはどういうことか?分かり易い点で言えば二つ、『何故ロビンはウォーターセブン/エニエス・ロビーで自己犠牲を払ってまで麦わらの一味を守ろうとするのか?』『何故麦わらの一味はロビンを助けるために世界政府に戦いを挑むのか?』この展開の説明がつかなくなる訳です。

ロビンの自己犠牲も麦わらの一味の救出劇も、命を賭けたスカイピアでの戦いを共に生き抜いた結果生まれた仲間意識に起因するものです。

ONE PIECEはコンポーネント単位で話が分割して語られ過ぎる為、ONE PIECE自体がひとつなぎの物語であることが忘れられがちです。しかし、実際にはサーガやアークで括られた物語は前後の話と密接に影響し合っているという現実があります。

スカイピアではアラバスタ王国に続いて古代兵器について記述されたポーネグリフを発見し、ロビンがリオ・ポーネグリフの役割に気付き、おでんが刻んだロジャーからの古代文字メッセージを発見し、黄金を回収して一味は初めて貧乏航海から脱しました。そして、"共に空に行った"という事実がゴーイングメリー号のダメージの蓄積を読者に印象付け、クラバウターマンを初めて描くことでそれまであくまでも"乗り物"であったメリー号が麦わらの一味に特別な感情を抱いている『もう一人の仲間』であることを強調したエピソードも含んでいるのです。

それらのエピソードがウォーターセブンでゴーイングメリー号を修復する展開を自然なものにし、スカイピアで回収した金品が後にフランキーを仲間に加えサウザンドサニー号を手に入れる一因となりました。

"黒ひげ"ことマーシャル・D・ティーチの初登場も空島サーガ内。
ONE PIECE 225話より引用

スカイピアという国での物語がそれ程人気がないだとか映像表現に予算が掛かり過ぎるという理由で全体を削除してしまうとこの様にその後の物語と符号しない点が頻出してしまい、破綻を引き起こすことがお分かり頂けると思います。

シーズン1で既に名前が取り上げられているモンブラン・ノーランドもスカイピア編を語る上で欠かせない存在。
ONE PIECE 287話より引用

それでもスカイピアをスキップするのであれば様々な要素を後段の物語と矛盾なく接続するよう移動しなければならない訳ですが、視聴者を満足させながらウォーターセブンやエニエス・ロビーへ違和感なく繋がる物語を新たに書くことは脚本家チームに多大な負担を掛けることになるでしょう。

当初謎だったロジャーのメッセージもおでんの冒険が語られた際に解決。
ONE PIECE 301話より引用

シーズンごとの成績がシリーズ継続の判断材料となることを考えればそこで失敗を犯せば実写版ONE PIECE制作終了を決定付けることになることだってあるかもしれません。

その大きなリスクを犯すくらいならばシリーズ全体での利益を考えたとえCGIなどへ投じる予算がかさんだとしても空島サーガをそのまま描き、原作漫画の不人気箇所を修正しながら魅力的なシーズンを作り出したほうが理にかなっていると言えるのではないでしょうか。

エニエス・ロビーを特別たらしめるのはスカイピア

エニエス・ロビーの物語を実写化する際幾ばくかの取捨選択が必要な中で「生ぎたい!私も一緒に海へ連れてって!」を削除してもいいと云う方は少数派でしょう。シーズン1を例に考えればシーズン2でも物語の大筋はそのままに多くのシーンが再構成される可能性は高い訳ですが、シーズン1では原作に於ける象徴的なシーンの幾つかはそのまま残されていました。このことから、ロビンに関しても屈指の人気を誇るあのシーンは原作に近い形で描かれる可能性は高いと想像出来ます。

しかしあのシーンを感動的なものにする為には前述した通り麦わらの一味やロビンの行動に納得出来る理由を与える必要があり、視聴者にはニコ・ロビンという人物に愛着を持ってもらう必要があります。

ココヤシ村での「助けて…」もそうですが名シーンと呼ばれる瞬間を作り出すには丁寧な下準備が必要です。ナミの場合はオレンジの町やシロップ村で共に戦った様子やルフィらとの楽しげな会話がふんだんに描かれていたからこそ、読者に彼女の苛烈な過去紹介した際に感情を大きく揺さぶることに成功しました。それはロビンについても同じで、オハラ回想からあのシーンに至る間にロビンがルフィらと共に過ごした期間を『思い出』として読者に振り返らせる構造を作り出すことが重要になります。

ガレオン船落下もジャヤも空島に繋がる展開は何もかも失くし、全く新しいエピソードを創出することも可能かもしれません。しかし、漫画・アニメに全く触れたことのない視聴者にエニエス・ロビーでロビンに感情移入してもらえるように準備するのは並大抵のことではありません。

また、そもそもそんな決定を原作者である尾田栄一郎氏は承諾するのか?という疑問も湧きます。実写版に於ける肩書はエグゼクティブ・プロデューサーですが、シーズン1公開前のコメントでは「撮影が終わってからも、世界に配信するには不十分だと僕が感じたため、非常にたくさんのシーンを撮り直してもらいました。」と大きな権限を与えられていたことを明らかにしていたこともあり、大幅な物語改変についても実写版制作の権利契約段階で何らかの制限条項を設けているのではないかと推測することも出来ます。

シーズン1の成功から原作ファンは大枠を維持した上での改変は柔軟に受け入れることが分かっていますが、完全な置き換えとなれば話は別です。

制作チームの意向は

と、ここまで書いて来ましたがこれらはあくまでもファン界隈の議論について論じているだけで実写版ONE PIECE制作チームがそういったことを検討しているなどという情報は全くありません。

寧ろショーランナー(製作総指揮)のマット・オーウェンズ自身はアメリカ人オンラインストリーマーハサン・パイカーとのストリームでスカイピア編をS層に選ぶなど物語を高く評価しています。

また、彼がredditで開催したAMAでは「出来るだけ多くの原作を翻案したいというあなたの願望を本当に刺激する漫画のアーク/サブプロットはありますか?」というユーザーからの質問に対して「スカイピアが楽しみだ。尾田が作った最も創造的な世界の一つで1シーズンを過ごすのはとても楽しいだろうね。」と回答していることもあり、(これはオーウェンズの個人的な意思かもしれませんが)スカイピアの冒険に1シーズンを費やす方針であることも明らかになっているのです。

人気の高いアラバスタサーガとウォーターセブンサーガに挟まれているだけに肩身の狭い思いをしている空島サーガ。しかし、(相対的に)不人気で期待が薄いエピソードであるからこそ実写化で印象を塗り替えるチャンスが眠っているのではないでしょうか。


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