2023年09月15日から日本公開が開始された映画『グランツーリスモ』 。
本作は"レースゲーム・Gran Turismoの成績優秀者を選抜しレーシングドライバーを育成する"というNissanとPlayStationの協力によって実現したプロジェクトGT Academyの卒業生でありレーシングドライバーJann Mardenborough の半生を描いた映画です。
ところがこの物語、2022年に公開された映画『ALIVEHOON アライブフーン』 及び、2023年09月04日放送のテレビ朝日系列番組『激レアさんを連れてきた。(冨林勇佑さん出演)』 で扱われた話と似ていた為盗作を疑う声があります。では実際どの様な経緯で制作が進められたのか整理してみましょう。
なお、本記事ではレースゲームとしてのGran Turismoと映画の混同を避ける為、映画を指している場合は'映画『グランツーリスモ』'という表記で統一しています。
映画『グランツーリスモ』の制作経緯 映画『グランツーリスモ』オフィシャルサイトより 映画『グランツーリスモ』の計画がスタートしたのは遅くとも2013年。ハリウッドで"アクション映画"として制作されることが報じられていました。
以下は2013年06月にThe Wrapに掲載された記事からの引用です。
With Universal, DreamWorks and Legendary all laying claim to "fast car" franchises, Sony is wheeling its own onto the track, putting a feature adaptation of the bestselling video game "Gran Turismo" into development, TheWrap has learned. (Universal, DreamWorks, Legendaryが「fast car」フランチャイズを主張する中、Sonyはベストセラービデオゲーム「Gran Turismo」の長編映画を制作中であることがTheWrapの取材で分かった。) "Fifty Shades of Grey" producers Mike De Luca and Dana Brunetti will steer the action movie, which is based on the popular Sony PlayStation game by Kazunori Yamauchi and Polyphony Studios. (Fifty Shades of GreyのプロデューサーMike De LucaとDana Brunettiが山内一典とPolyphonyスタジオによるSonyのPlayStation用人気ゲームを原作とするアクション映画の監督を務める。)
Sony Fires Up 'Gran Turismo' Movie With 'Fifty Shades' Producers (Exclusive) - TheWrap 因みにUniversal, DreamWorks, Legendaryの"「fast car」フランチャイズ" というのはそれぞれ『The Fast and the Furious(邦題:ワイルド・スピード)』『Need for Speed』『Hot Wheels』という各社の自動車に関連した映画のことを指しています。
更に同年、Colliderに掲載された記事でプロデューサーのDana Brunettiから映画『グランツーリスモ』はGT Academyにインスパイアされたものになる旨が提示されていました。
以下は2013年11月にColliderに掲載された記事からの引用です。
“A lot of people are like, ‘How the hell do you make a movie out of a video game that’s basically a driving simulator?’ And actually the story is they did an online competition where they narrowed it down 25,000 people competing online, and then got it narrowed down to 22 people that they took to Silverstone race track basically to see if it was possible to go from virtual to reality. And then they basically put them through a racing boot camp through physical, mental, and technical driving school to train and see who would be the best race car drivers out of that. (「多くの人は、『基本がドライビングシミュレーターであるビデオゲームからどうやって映画を作るんだ?』と思っている。彼らはオンラインコンペティションを行って25,000人がオンラインで競い、参加者を絞り込んだんだ。その後22人に絞り込み、バーチャルから現実に移行できるかどうかを確認するためにシルバーストンのレーストラックに連れて行った。そして彼らは肉体的、精神的、技術的なドライビングスクールを通してレーシングブートキャンプに参加させ、その中から誰が最高のレーシングカードライバーになるかを審査した。」) The top two they then took and put in the 24 hours at Dubai race, and they are now race car drivers… So the movie that we’re gonna do is kind of really a wish-fulfillment fantasy that this kid plays this video game and ultimately goes from this video game to actually racing the race cars.” (その後トップ2名がドバイの24 時間レースに出場し、彼らは今ではレーシングカーのドライバーになっている…。だから、これから作る映画は子供がビデオゲームをプレイして、最終的にはビデオゲームから実際にレーシングカーを走らせるようになるという願いを叶えるファンタジーのようなものなんだ。」)
Producer Dana Brunetti Reveals GRAN TURISMO Movie Story ここでDana Brunettiが触れているのはGT Academyで行なわれた競技内容ですが、完成した映画の一部を大まかに要約したものでもあります。つまり、この記事から2013年の制作初期段階で映画の方向性は大まかに決まっていたことが窺えます。
その後続報が途絶えた期間もありプロジェクトの存続が危ぶまれましたが、現在のJann Mardenborough中心の物語として検討を開始しMardenboroughに打診したのが2017年。これは今年GT Planetに掲載されたMardenborough本人のインタビューから明らかになっています。
Although the Gran Turismo movie has been in the works at least as far back as 2013, Jann was approached in 2017 about the concept of the film being based on his experiences. “When they asked me, I was like ‘why me?’. And also, I didn’t believe it, because they said ‘maybe’ there’s a chance the movie’s gonna be made about you; the key word is ‘maybe’.” (映画『グランツーリスモ』の制作は少なくとも2013年には始まっていたが、Jannは2017年に自身の経験に基づいた映画のコンセプトについて打診された。「彼らが自分に尋ねた時『なぜ僕なの?』と思った。それと、僕はそれを信じていなかった。何故なら彼らは『もしかしたら』君についての映画が作られる可能性がある、と言っていたからだ。キーワードは『もしかしたら』。」)
Jann Mardenborough on Gran Turismo, Racing, and What’s Next for His Career – GTPlanet そして2019年には脚本を用いてのフィードバックセッションが行われるようになります。
こちらはPlayStation.Blog掲載のMardenboroughインタビューから。
Otherwise, I’ve been involved with the project since the first script was written back in 2019, and all of the people I’ve worked with at Sony Pictures have been awesome. The producers have been very generous in involving me and taking my input on each script draft. (それ以外では、2019年に最初の脚本が書かれた時からこのプロジェクトに関わっていて、Sony Picturesで一緒に仕事をした人たちは皆素晴らしい人たちだった。プロデューサーたちはとても寛大に僕を巻き込み、脚本の草案ごとに僕の意見を取り入れてくれた。)
Gran Turismo movie Q&A: Jann Mardenborough’s “gamer to racer” story – PlayStation.Blog 『ALIVEHOON アライブフーン』の制作経緯 では『ALIVEHOON アライブフーン』の制作経緯はどうでしょう。
2022年06月10日掲載、『ロケなび!』インタビューから下山天監督の言葉を引用します。
ドリフトキングの土屋圭市さんが、世界的な作品でもある映画『ワイルドスピード』シリーズの作品も監修していらっしゃいます。元々ドリフトが日本発祥のモータースポーツということもあり、その土屋さんが日本でもドリフト映画を作りたいということが発端でした。これが5年ほど前の話です。その想いがあって、プロデューサーの瀬木さんと僕とが出会って、作品を作りましょうということで動き出したのは3年ほど前です。
「福島から発信したい」地域と共に作り上げる映画で感じた充実を聞く/映画『ALIVEHOON アライブフーン』下山監督と瀬木プロデューサーに「作品のこだわり」や「福島への想い」を聞く | 監督インタビュー | ロケなび! このインタビューが2022年時点のものであると仮定した場合5年前は2017年、3年前は2019年ということになります。
前述した通り2017年は映画『グランツーリスモ』がJann Mardenboroughへアプローチを開始した時期。2019年は最初の脚本を用いてMardenboroughのアイデアを反映させるセッションを始めた時期に当たります。
冨林勇佑さん出演『激レアさんを連れてきた。』 2023年09月04日放送『激レアさんを連れてきた。』より 2023年09月04日放送のテレビ朝日系列『激レアさんを連れてきた。』では2016年に開催された"FIA グランツーリスモ チャンピオンシップ プレシーズン テスト" で優勝した経験を持つレーシングドライバー冨林勇佑 さんがレースの世界へ進む様子が語られました。
放送後、この番組関連のツイートを見ると「グランツーリスモの映画は激レアさんの人がモデル?」といった様な混乱している方の感想が数多くあったほか、「激レアさんを連れてきたに出てた人の話と同じじゃん...むしろこっちがパクリ?w」 といった映画との関係を推察するものがありました。
映画『グランツーリスモ』の主人公として設定されたJann Mardenboroughは2011年のGT Academy優勝者。冨林さんと似た境遇ではありますがレースの世界にデビューしたのは彼の方が先です(冨林さんは2018年からレース活動を開始)。
また、GT Academy卒業生ということもありMardenboroughには早くからチャンスが与えられ、2013年のル・マン24時間レースではLMP2クラスで3位表彰台を獲得することに貢献しています。Sony Picturesがハリウッドで映画化する以上、人種だけではなく成し遂げたことが大きければそれだけ物語にし易いという面も人選に当然関係しているでしょう。
最後に 映画『グランツーリスモ』はプロジェクトの初期段階である2013年時点で既に"ビデオゲームをプレイしていた子供がレーシングカーを走らせる夢を叶える" という大まかな方向性をメディアに明かし、それらは記事になり世界に配信されていました。
ここから『ゲーマーからプロのレーシングドライバーが誕生するサクセスストーリー』 という大まかな物語は発想出来る為、映画『グランツーリスモ』を制作したSony Pictures側が他の創作物に対して盗作疑惑を掛けるならまだしもその逆は余程昔から制作していた旨を証明出来なければ難しいでしょう。
因みに映画の評価について。これまでのところ映画『グランツーリスモ』はレビューサイトRotten Tomatoes 及びIMDb で(批評家からは厳しい評価を受けたものの)ユーザーから好評を博しており、制作費や広告費を回収出来るかは不明ですが「良い映画」という評価で残りそうな見通しです。