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BACH――フーガの技法-2

2004年12月12日

こうして鑑みるにつくづく、未完フーガの全主題(1・2・3・4)が、このフーガの技法の冒頭主題そのもの=Cp1冒頭自身に既出しており...初めの8小節が、未完フーガの各主題で「出来ている」とさえ云っていい程の精妙なイレコ的事情*...

と先に記した。
そもそも主題同士の関係がそうなっているのが面白い。
というのも最終曲(未完F)第2主題――勿論冒頭から伏線的に登場しているが、とりわけCp9(,a4,alla Duodecima)によってその個性を明確に浮上させられ、未完F第2主題に直結しているパターンであるが、この旋律系――は、同第4主題(冒頭Cp1曲-第1声部、すなわちThe Art of Fugueとしての初発の旋律、Aに同じ)と、もともとぴったりと同時進行しうる(伴奏風旋律としての)素地を持っている。
また未完F第3主題(B-A-C-H)も、第4主題(=Cp1曲-第1声部=A)と同時進行しうると同時にこの拡大Fugueとして2小節遅れで進行するに相応しい素地も備えている。という風に、もともと共鳴する素地同士の精妙な組合せである。
未完F第1主題のみが、強いて言えば、未完Fでの第2・3・4(=A1)主題との遁走のための導入としての役割を果たしているといえる(A1と第3主題=B-A-C-Hとの両面を有し、のちに各々分立・併走する、含みのある旋律として。)が、それでいて4声の大Fugueの一声部としての機能も無論果たす、(最後に展開されるであったろう、予想図に叶う)という具合である。
と同時に、第2主題と第3主題同士も、一見大分個性の違いが見られる主題同士だが、実は同じ発現点を有しており、両旋律の源泉は同じであったと考えられもする。
それを示すものとして まず早々に、冒頭曲(Cp.1番)第6~8小節の第2声部には興味深いものがある。
↑ラー↓ラシドラファー⌒(ファ)
シミー⌒(ミ)ファミレミーファ#ーソ

この、↑ラー↓ラシドラファー は、未完F第2主題の伏線であるが、その後のシミー⌒(ミ)ファミレミーファ#ーソ の半音階処理風ラインは、明らかに第2主題(B-A-C-H)の前兆である。もしこの前兆づくりを意識することなく、第2主題的旋律を押し進めていれば、
↑ラー↓ラシドラファー⌒(ファ)
シミレドシラソ#ラソファミレ...
(実際この種のラインのまま進行している箇所は他にはあるように記憶する)
などとなるはずである。

がバッハに、他ならぬ曲集の「冒頭」で、B-A-C-Hの予告をする必要があったと言うことである。

2004年12月13日

未完F第1主題のみが、強いて言えば、未完Fでの第2・3・4(=A1)主題との遁走のための導入としての役割を果たしているといえる
(A1と第3主題=B-A-C-Hとの両面を有し、のちに各々分立・併走する、含みのある旋律として。)


と記したが、これでは大きな点を欠いている。
つまり、未完F第1主題とは、
第4主題=A1(=Cp1冒頭部)と
第3主題=B-A-C-Hとの両面を有しているばかりでなく、
同時にあの重厚で推進力に充ちた第2主題をも「生み出し」「互いを推し進めて」いくものともなっているからである。

もちろん第2主題を誘発し、生み出すと共に添行しやすい相性のよい系譜として これとの併走遁走(例えば1小節半のズレによる)も、可能 である。

第1主題は――当然のことながら――全てとの併走が可能である。
これは他の全ての主題からも云えるが殊に未完Fに於ては第1主題が他の全主題の現出を巧みに促している…。(導入部とされるのは至当)

未完Fの第1主題は、同第2主題をも「生み出し」「互いを推し進めて」いくもの...

とはどういうことか。
これは「フーガの技法」冒頭(Cp1)の書法からすでにその片鱗が見られる。


2004年12月14日

一昨日記した、Cp1冒頭部(6~8小節)
ラシドラファ⌒(ファ)シミ⌒(ミ)ファミレミ―ファ#―ソ
であるが、
この断続的な、幅のある上昇=ラファ⌒(ファ)シミ⌒(ミ)
の進行パターンに注目しよう。

これはCp1全体に渡ってあり、重々しい主題を邁進させる力の原理となっている。
最初は静かな上昇パターンとして、Cp1テーマ旋律(=未完F第4主題;A,)や半音階進行風旋律(第3主題予兆)に添行しているが、遁走の中で繰り返すうち次第に推進力を増し、
9~11小節 ↑レ↓レ↑レ⌒(レ)ド#ーレラド⌒(ド)ラシ♭⌒(シ♭)ミラ
12~14小節 (ラ)ドーシド⌒(ド)↓レ↑ド⌒(ド)ラシ⌒(シ)ソ#ラ
曲に弾力を与え、加速度的に未完F第2主題にも通じる最初の原理(ソファミレド♭・レドレファミレド、等のパターン:11小節,15小節)を喚起する。

これらの音の飛躍を含む押し上げるような旋律パターンは、高音部での進行と同時に、中~低音部などへも引き継がれると、
(20~30小節などが顕著。各声部にて交換的に行われる)

上記の未完F第2主題に繋がる旋律をも加速度的に次々と促していく、という構造が見える。
これは未完Fの構造そのものである。

未完Fは、まさに導入部(第1主題)のレ_ラ_がすべての跳躍的弾力性を象徴しており、この系譜を継いだ各旋律を通し、プレスト第2主題の出現と併行を喚起するとともに一見対比的にたゆたうようなB-A-C-H(第3主題)の出現という展開を惹起させる。(がよく見るとB-A-C-Hの前兆系譜は未完F曲の全般に渡り第1主題の弾力的系譜に添行していたのである、)という恰好である。

こういう訳で結局の所、未完Fの導入部たる第1主題の系譜は、フーガの技法の冒頭(Cp1)から顔を出している、ということになる。


2004年12月15日

未完Fは、まさに導入部(第1主題)のレ_ラ_がすべての跳躍的弾力性を象徴しており、この系譜を継いだ各旋律を通し、プレスト第2主題の出現と併行を喚起するとともに一見対比的にたゆたうようなB-A-C-H(第3主題)の出現という展開を惹起させる

としたが、ここで「レ_ラ_」が未完F第4主題(=Cp1第1主題=いわゆるA1)と、この未完F第1主題とに共通なことに再度触れなければならない。▼この両者のレ_ラ_の違いは何か。
未完F-4(=Cp1-1=A1)
レ_ラ_ファ_レ_ド#_レミファ_-ソファミ
未完F-1 レ_ラ_-ソファ__ソ__ラ__レ

同じ開始でものちのニュアンスの連れ込みに相違があるのにまず注意する。
上はどちらかというと、のちに続くフレーズは半音階的ニュアンスの濃い浮遊的旋律使いを誘発する。これが、A1であると同時にのちに未完F第3主題(B-A-C-H)をも引き出していく傾向。

が下は、実際の楽譜にも見られるように飛躍のある押し上げ的旋律で弾力を鼓舞するニュアンスの旋律使いが続いていくようになる。
その証に、これを受け継いで展開していくフレーズは以下のような群となっている。

未完F
6~9小節 レ_ファ⌒(ファ)↓シ↑ミ_↓ラ↑レ↑ラソファ↓レ↑シラ...1
2~15小節 レ#ドレラ#シ⌒(#シ)↓ソ↑ド⌒(ド)↓ラ↑レド...
13小節(最低音部) ↓レ__-↑レミ
17~20小節 ファ↓ド↑ファ⌒(ファ)↓レ↑ソ⌒(ソ)↓ミ↑ラソ...

こうしたパターンが諸声部に交代で受け継がれていく。

(この音型を頭に入れると、これよりダイナミズムとしては柔弱だが、その分半音階性への移行可能性をたたえた系譜として、昨日触れたCp1冒頭、以下の小節が浮上する。

9~11小節 ↑レ↓レ↑レ⌒(レ)ド#ーレラド⌒(ド)ラシ♭⌒(シ♭)ミラ
12~14小節 (ラ)ドーシド⌒(ド)↓レ↑ド⌒(ド) ラシ⌒(シ)ソ#ラ

これらの冒頭の系譜は、このことからも弾力の系譜(Cp1:A1→((Cp9:D))→未完F第2主題)と浮遊の系譜(Cp1:A1→未完F第3主題B-A-C-H)、両者をたたえている)

何れにせよ、未完F-1(Cp14:第1主題)のこの弾力が、未完F第1主題それ自身とともに同第2主題のアグレッシブさを触発し、遁走の仕様の中でグイグイと引き出していく傾向。(この未完F-1型は、同第2主題の直接の先駆けとなるCp9-第1主題=Dの跳躍的octv上昇にも、未完F-2(=Cp1-A1)型の側の傾向と共に、絡んでいる。

…D(↓レ↑レ_-ド#シラソファミレド#レミファ...)
この両者の性質が相まって生まれるのが、そもそもフーガの技法冒頭Cp1曲想であり、より弾力的・重厚荘厳な曲想の帰結としては、終曲未完F(Cp14)である。

ところで、他方の浮遊旋律――半音階志向=B-A-C-H型を考えてみると、
B-A-C-Hの音順のままではじぐざぐの蛇行型浮遊に感じられるが、
音順を替えるとこのように並ぶ。(A-B-H-C)
ラ-♭シ-シ-ド
若しくはこれを逆にしたもの。(C-H-B-A)
ド-シ-♭シ-ラ

この微弱な、考えられる限り最も飛躍のない進行パターンも、この曲集の中にちりばめられている。
これも含めて考えると、B-A-C-Hの予備軍乃至空気は曲集の中にあふれている。

これについてはいつかまた触れる。


2004年12月16日

こうして見てきた後、Cp1を大まかに振り返ると、絶筆後想定される未完F第4主題でもあるCp1第1主題=A1を、冒頭の主旋律としながら、遁走形式を通じ次第に被せられていく第2声部,第3声部、第4声部の諸添行旋律が、思えばちょうど未完F-第1主題(導入及びエンタテイメントの役割)に直かに通じるものを備えていくよう計られており、その際、これまで分析したような飛躍的な音の押し上げ(時にCp9-Dへも繋がるoctv押上や6度押上を含)を伴う弾力系譜と、半音階な曖昧(浮遊系譜)とを巧みに融合しながら、時にダイナミック、時に微細にたゆたう陰翳を交互にたたえた可変的副旋律として、Cp1(冒頭主題)-A1に付き添いこれを進展させつつ、同時にそれ自身未完F-第2主題と第3主題、両者に相当する両系譜への伏線へと、最終的にみづからを形勢して行っているのがわかる。
Cp1に頻繁に登場する量系譜の融合的旋律とその遁走群は、既出した
6~9小節 9~11小節 12~14,15小節 13小節-最低音部
17~20小節-第1・第3声部 17~20小節-第4声部

以外には、以下の如くである。
20~22小節-第1・第3声部 20~22小節-第4声部 23小節-第4声部
25小節-第4声部 26~28小節-諸声部(上下行弾力系)
29~30小節-第2声部 (29~31小節-第3・4声部=未完F第2主題へ至る系譜)
(31~34小節-第1・2・3声部=同上) 35~41小節-諸声部 42~43小節-諸声部・未完Fの複合体(原基) 44~47小節-2・3・4声部(上下行弾力系と幾らか柔弱系) 50~53小節-諸声部(融合的押上) (57~59小節-第1声部=未完F第2主題へ至る系譜) (59~62小節-第1声部=未完F第3主題へ至る系譜)
63~66小節第1・第3声部=推進力の形成(未完F第1主題のモチヴェーション) 67~最終小節-諸声部・未完Fの複合体(原基)
という具合に読める気がする。

いずれにせよ、微弱な、乃至弾力的な旋律の押し上げ(とこれに伴う下降=対位法、転回系としての)は、未完Fの導入(第1主題)のありかたと支配力(第2主題・第3主題の喚起・生起と併走交錯、登場するとされる第4主題との相応、etc)を全て決定づけているように思われる。


2004年12月17日

Cp2に就て記す前に、未完の最終楽章を、また何度も聞いてみる。
そして、それぞれに付点が特徴的なCp2,Cp6,Cp7に就て...、それぞれの特徴と質的差異、さらにそれらの構造上の繋がりに就て――当然未完Fを念頭に置きながら――、曲の断片からの閃や想像などを組み立てて、改めて少しずつ形成される思いを馳せていた。

曲集と変奏の始まったばかりである段階のCp2は、仮想の最終構造(つまり未完F)から見た場合、主にA1(Cp1の冒頭主題であるとともに未完Fで予想される第4主題)と、第2主題、第1主題(未完F冒頭出)との掛け合いのための、前哨になっている、と思われる――第3主題(B-A-C-H)は、ここでは未だあまりその片鱗が現れない(皆無ではない)。――
殊に、まずは曲の推進力として重要な、第2主題の生起をより明確化させたステップであるように思われる。(勿論、ステップといっても曲そのものの出来合いとして巧みに自立していることは間違いないが。この曲想は、荘厳さの中に、ある性急さが存り、まるでみづから審判を仰ぎに挑んでいくような様相である)
特徴的な、初めての付点の登場。
つっかけて行くような付点は、どっしりと重厚な曲の全体的な進行の中に或る種の挑戦を見出させ、ぐいぐいと前進するようなアグレッシブな感覚をもたらしている。
アグレッシブ――これは、ちょうど未完Fの中で第2主題がその主な役割を演じているのと同じであるが(但し、未完F第2主題には付点はない)、そもそもその<第2主題的要素>が何処から出現可能であるのか、をよく明かしている部分とも云える。
それは付点の効果により、Cp1より如実に明るみに出されているといってよい。

レ_ラ_ファ_レ_ド#_レ_ミ_ファ__ソファミ..の冒頭主題のうち、最後のファ__ソファミに付点を掛け、後はそのままこのパターンを継承することでみづからは未完F第2主題の特徴の基をやや強調的・弾力的に作り上げ(つまり第2主題はA1自身から生じている!)、他の声部にA1の旋律を交互に絡めさせることでA1と第2主題との遁走をも形成・成立可能にしている。
と同時に、A1~付点効果A2の分岐点とは、これが第2主題生成可能性の地点であると共に、のちのA3
A3(レ_ラ_ソファ_ミレ_)の登場を予告する。
そしてA3+∀3(レ_ラ_ソファ_ミレ_ + ラ_レ_ミファ_ソラ_)というのは、未完F第1主題(レ_ラ_ソファ_ソラ...レ)の基点である。

こういう訳で、Cp2の中には主に、未完Fでいう第1(A3+∀3の予兆)・第2・第4(A1)との遁走が成り立っている。

この後、第2の推進力をより顕著に存在させるCp6を通して、より明確化した第1(A3+∀3)と第2・第4(A1)との遁走を経、再度Cp7を通して、今度はより、残りの第3主題(B-A-C-H)への前哨を所々に散りばめながら、あの未完Fの死への疾駆、はもとより、その前の緊迫した曲の膨張、またその後の不安な明るみ(不安定な諦観)等々に当る部分の暗示を早くも造りあげていく。と言う風に見える。
この後、それぞれに相当する部分を詳述していくつもりである...


2004年12月18日

Cp2に関して記すに当たって、昨日は主に2つの点を指摘した。

  • 第2主題の生起を、(Cp1)よりも明確化させたステップ

  • 同時に、A1~付点効果A2の分岐点とは、これが第2主題生成可能性の地点であると共に、のちのA3(∀3)の登場をも予告する。

第2主題の生起を、(Cp1)よりも明確化させたステップ、とは

主題A1の最後尾に付点処理を施し(=A2)、この付点パターンを以後貫徹することと同時に、同パターン(A2)での他声部との遁走により未完F第2主題の特徴の基をやや強調的・弾力的に作り上げていく、ものである。
尚、第2主題はA1自身の変奏(A2)とその遁走の仕組から生じている。
同時にCp2曲全体としては、A1と第2主題との遁走の成立可能性をすでに証しはじめている。

同時に、A1~付点効果A2の分岐点とは、これが第2主題生成可能性の地点であると共に、のちのA3(∀3)の登場をも予告する、とは

A3=レ_ラ_ソファ_ミレ_
∀3=ラ_レ_ミファ_ソラ_
※合わせて未完F第1主題(レ_ラ_ソファ_ソラ...レ)

である。

このうちまず前者だが、
A1の付点変奏=A2とその遁走が何故、未完F第2主題の前兆となるのかについて。
雰囲気としては掴めることが多いと想うが、説明するのがむずかしい。
だが
未完F(114~小節)
1)ファソファミレ#ド
2)レラレミファミレファ・ミラミファソ[ファミ]ファソ
 (8分音符系列:[ ]内=16分音符)
3)ラソファソラ_ソ#ファソラ#シ_
4)ラソファミレミソファミレドシラシレ...
  ……
Cp2-A2(4~小節)
1)ファソファミ・レミレド・ドレドシ
敢えて付点を外した記し方をすると
ここまでは直線的進行で波がない

(6小節)
2)シラシドレミファレ
ここで幾らか上下の波が生じる
(未完F-レラレミファミレファ、に近い型)
(21~22小節)
2)#ドレファミレソ#ラシドレファ_[ミレ]#ドレ
全体が8分音符+16分音符進行の中、[ミレ]のまとまりは32分音符、こうしたフレーズは、未完F-2)のミラミファソ[ファミ]ファソ、の類型

そして、11小節移行、フレージングに、未完F-3)に近いレガト(息の長さ)が生じる。
これは異声部間とのやりとりを、ひとつのフレーズとして解釈する場合にも、また同一声部内でのフレージングにも、存在。

例(11小節)
3)ラシドレ_

(11~13小節)
3)↓ミ↓レ_↑レミ_ファソ#シラ_ソファ_ソファ_ミレ_ミファ_ソラ_
*この↓ミ↓レ、から↑レの上昇だけは、これまでの付点の巡行性からは異例で、躍動的上下行をする未完F2)の類に近い

ここと並行して
(12小節)
#ドレミファ_
(15~17小節-第3/4声部)
ミファソラ_........#ソラシ#ドレ_..........ラシドレミ_

(19~20小節)
..................ラ#ファソラシ_ラ_#ソ
ファレミファソ_...ドドラシドレ#ドレ_ミ_

(23~24)
#ドミファソラ_
.............ラシ#ドレ_ド_

(27小節)
ソミラソファ__

(28小節)
ミファソラ__
etcetc 多数

未完F-4)パターンに近いフレーズの登場。

(8小節)
4)↓ラ↑ラ#ソラレソ__ファミレ#ド
(29~30小節)
4)#ソシラソファミレソ


明日は、付点変奏(A2)=A3+∀3(→未完F第1主題へ)、について。


2004年12月19日

今日は後者、

A1~付点効果A2の分岐点とは、のちのA3(∀3)の登場をも予告する。
(A3=レ_ラ_ソファ_ミレ_)
(∀3=ラ_レ_ミファ_ソラ_)
※合わせて未完F第1主題(レ_ラ_ソファ_ソラ...レ)

についてであるが、何故
A1旋律尾の付点処理が、A3・∀3の登場に契機を与える のか。

付点が付いても、A1のフレーズとしての音型は変わらない。
レ_ラ_ファ_レ_#ド_レ_ミ_ファ__ソファミ が
レ_ラ_ファ_レ_#ド_レ_ミ_ファ__γソファ_γミ(γ…16分付点のかわり)
となっただけである。
しかし間もなくこの付点パターンを独立的な仕様として無限に繰り返す他声部(交代制)の出現と、両者(4声部)の遁走を行う内に、多声部間のやりとりがひとつの声部のフレージングとして耳に入るようになり、次第に
レ_ラ_ファ_レ_のレガトの間に中間音が介入する仕組みが、おのずと耳の中に蘇生されてくるのである。
何よりまずリズムとしてこの用意が出来る。
またフレーズとしては、間接的に主にこうした箇所に於いて飛躍的に前提が敷かれるような気がする。

(22~23小節) #ドレγファミγレ#ソγラシγドレγファ__γ[ミレ]ドγレ
(31~33小節) ミγファミγレレγミレγ#ドレ
.....................ラシγ#ドレγミファγレミ..................♭シラγソファγミレγ#ドレ

(34~36小節) ラ#ソラレ_ソ_γファミレミ_ラ_ 
........................ドシラソ_ラ_
...........................ソ⌒(ソ)ファミγレミ

(37~37小節) ソ#ミ_レドγシドγレミ_γファミγレラ

このような、中間に音の飛躍のない、細かい動きのフレーズである。

こうした過程を経て
ラ〈シドレ〉ミ_ド_ラ#ソ_ラ_シ_ド...
ラ_ミ〈レ〉ド〈シ〉ラ_#ソ...

などの介入の布石がなされる。

こうして主題A1へ挿入される中間音受け入れの準備(A1→A3・∀3)が出来てくる。

Cp2には、まだあの、曲を不可思議な天上的不安と終末美へと超脱・膨張させていくような、未完F第3主題の暗示性は殆ど登場しない――皆無ではないと思われるが――分、悠長な流れの中にもひたひたと向かっていく。
終末と審判への調べは無いが、そのぶん意志的・雄壮でもある。
それは未だ未完F第3主題(B-A-C-H:半音階調)を含意しない段階での、曲の地上的特徴だろう。
がここで、たしかにフーガの技法のほぼ全般に渡って要求される、推進力(未完F第2主題)の要素が確立されたのである...


2004年12月20日

Cp3、フーガの技法第三曲目であるが、すでに終末的気分の暗示にみち、未完フーガの有つ雰囲気を、曲全体に彷彿させている。

Cp2にて、主に未完F-第2主題の契機が作られ、同-第1主題の大前提(A3+∀3の惹起)がなされていたが、ここCp3は、残り第3主題(B-A-C-H)の成立気分に満ち溢れ、主題である∀1(ラ_レ_ファ_ラ_♭シ_ラ_ソ_ファ_ミファソ)の登場もさることながら、その前口上である冒頭フレーズ∀'1(レ_ラ_ド_ミ_ファ_ミ_レ#ド__ラシ#ド...とそれ以降の半音階調のながれ)そのものが、B-A-C-Hを彷彿させており、そのゆらゆらと続く半音階調が、次に登場する∀1(主題)に併走し、そのまま付帯状況のように付きまとっていく為、未完Fの成立条件を巧みに含意している。


2004年12月20日

またここで新しく登場する主題は先に述べた∀1であるが、半音階進行(細かな中間音介入)に引きずられる曲の進行と共に、Cp2で伏線の作られていたA3・∀3のスタイルが、実際に顔を出しはじめる。
(殊に後半) 24~26,55~56,58~59,63(半音階変奏)小節

よって、ここCp3に於て、B-A-C-H(未完F-第3主題)の前兆とともに、未完F冒頭(第1主題)の具体像が暗黙に展開され始める。(より積極的にはCp5にて)

(※A3・∀3自身が「主題」として展開されはじめるのは、Cp5からである)

次に詳しい分析。
-------------
(未確定項)
ここは非常に語りづらい箇所である。
Cp3と未完F(Cp14)との間には、雰囲気の酷似している点が随所にあるのに、ここがこう、という的確な掴み所がないという気がする。
だが、曲の主題を始終取り巻いているもの、付きまとうものは、少なくとも現時点からもすでに、同じ親から生じる何かだと確信の出来る気がする。

Cp3を通してますます強まる印象は、未完Fに於る、幽玄なB-A-C-H(第3主題)と、勇ましい第2主題とが、ともに同じ起点――最も原基的スタイルとしては、∀1(とそこから派生する付随,併走旋律、としての変奏)――から生じているだろうということである。

そして、この両者を強く結びつけるものは、両者の主題同士、というよりはむしろ、両者の付随旋律の在り様――これの、主題との関係の仕方、また変化・遁走の仕様――といってよいかも知れぬ。

未完F自身、あの4つの主題の現出に至る迄に、さまざまの<伏線>を用意しており、付随旋律・併走旋律とその展開を有している。その間に、それらが或る時はB-A-C-Hの前哨をはったり、推進力ゆたかな第2主題を喚起したり、冒頭第1主題の、或る種の膨張系(一部半音階上昇など)によりB-A-C-Hへの再編を予告したり、という形で暗示的に――弁証法の冒険的に――進んでいくのである。

どの楽章でもそうであるが、Cp3もそうした伏線やら予兆が多々あり、そのことが未完Fの存在(仕様)を身近に暗示させたり或る種のパラレルな関係を垣間見せる。

未完Fに於る幾つもの(各登場主題への)伏線のうち、13~20小節(第3声部)の一連の動きや23~30小節、46~50小節の1・2声部の半音階的動き、また32・33小節に典型的なラ[シ#ド]レ_レ[ミレ]#ド_、等の動きは、そもそもCp3に酷似しないだろうか。
また未完Fに度々訪れているマタイ的な処理――52~55、162~167小節等――と、Cp3の全体的低音処理〔典型的には10~12小節。だが全体にわたってマタイ的(弦楽)処理と思われる〕、旋律的に膨張を引き起こす72~73、79~84、等々の、B-A-C-Hへの変化彷彿の仕様、等々...

また未完F-219~220小節の処理はCp3-26~28小節(trを含む)をひとつの原型として示唆させる。etc...

このように未完Fの旋律処理は何か常にCp3(乃至Cp5=∀1→∀3・A3)の要素とその付帯旋律仕様を多分に含んでいると思われる。


2004年12月18日

Cp2に関して記すに当たって、昨日は主に2つの点を指摘した。


・第2主題の生起を、(Cp1に比し)より明確化させたステップ
・同時に、A1~付点効果A2の分岐点とは、これが第2主題生成可能性の地点

第2主題の生起を、(Cp1に比し)より明確化させたステップ
とは、

主題A1の最後尾に付点処理を施し(=A2)、この付点パターンを以後貫徹することと同時に、同パターン(A2)での他声部との遁走により未完F第2主題の特徴の基をやや強調的・弾力的に作り上げていく。=第2主題はA1自身の変奏(A2)とその遁走の仕組から生じている。同時にCp2曲全体としては、A1と第2主題との遁走の成立可能性をすでに証しはじめている

ところのものである。

同時に、A1~付点効果A2の分岐点とは、これが第2主題生成可能性の地点であると共に、のちのA3(∀3)の登場をも予告する。

とは、

(A3=レ_ラ_ソファ_ミレ_)
(∀3=ラ_レ_ミファ_ソラ_)
※合わせて未完F第1主題(レ_ラ_ソファ_ソラ...レ)

を示す。

このうちまず前者だが、
A1の付点変奏=A2とその遁走が何故、未完F第2主題の前兆となるのかについて。

雰囲気としては掴めることが多いと想うが、説明するのがむずかしい。
だが

未完F(114~小節)
1)ファソファミレ#ド
2)レラレミファミレファ・ミラミファソ[ファミ]ファソ(8分音符系列:[ ]内=16分音符)
3)ラソファソラ_ソ#ファソラ#シ_
4)ラソファミレミソファミレドシラシレ...

  ……

Cp2-A2(4~小節)
1)ファソファミ・レミレド・ドレドシ
敢えて付点を外した記し方をすると
ここまでは直線的進行で波がない

(6小節)
2)シラシドレミファレ
ここで幾らか上下の波が生じる
(未完F-レラレミファミレファ、に近い型)

(21~22小節)
2)#ドレファミレソ#ラシドレファ__[ミレ]#ドレ

全体が8分音符+16分音符進行の中、[ミレ]のまとまりは32分音符、こうしたフレーズは、未完F-2)のミラミファソ[ファミ]ファソ、の類型

そして、11小節移行、フレージングに、未完F-3)に近いレガト(息の長さ)が生じる。
これは異声部間とのやりとりを、ひとつのフレーズとして解釈する場合にも、また同一声部内でのフレージングにも、存在。

例(11小節)
3)ラシドレ_
(11~13小節)
3)↓ミ↓レ_↑レミ_ファソ_#シラ_ソファ_ソファ_ミレ_ミファ_ソラ_

*この↓ミ↓レ、から↑レの上昇だけは、これまでの付点の巡行性からは異例で、躍動的上下行をする未完F2)の類に近い

ここと並行して
(12小節)
#ドレミファ_

(15~17小節-第3/4声部)
ミファソラ_........#ソラシ#ドレ_
..........ラシドレミ_

(19~20小節)
..................ラ#ファソラシ_ラ_#ソ
ファレミファソ_...ドドラシドレ#ドレ_ミ_

(23~24)
#ドミファソラ_
.............ラシ#ドレ_ド_

(27小節)
ソミラソファ__
(28小節)
ミファソラ__

etcetc 多数

未完F-4)パターンに近いフレーズの登場。

(8小節)
4)↓ラ↑ラ#ソラレソ__ファミレ#ド
(29~30小節)
4)#ソシラソファミレソ

明日は、付点変奏(A2)=A3+∀3(→未完F第1主題へ)、について。

2004年12月19日

今日は後者、

・A1~付点効果A2の分岐点とは、のちのA3(∀3)の登場をも予告する。
(A3=レ_ラ_ソファ_ミレ_)
(∀3=ラ_レ_ミファ_ソラ_)
※合わせて未完F第1主題(レ_ラ_ソファ_ソラ...レ)

についてであるが、何故
A1旋律尾の付点処理が、A3・∀3の登場に契機を与えるのか。
付点が付いても、A1のフレーズとしての音型は変わらない。
レ_ラ_ファ_レ_#ド_レ_ミ_ファ__ソファミ

レ_ラ_ファ_レ_#ド_レ_ミ_ファ__γソファ_γミ(γ…16分付点のかわり)
となっただけである。
しかし間もなくこの付点パターンを独立的な仕様として無限に繰り返す他声部(交代制)の出現と、両者(4声部)の遁走を行う内に、多声部間のやりとりがひとつの声部のフレージングとして耳に入るようになり、次第に
レ_ラ_ファ_レ_のレガトの間に中間音が介入する仕組みが、おのずと耳の中に蘇生されてくるのである。
何よりまずリズムとしてこの用意が出来る。

またフレーズとしては、間接的に主にこうした箇所に於いて飛躍的に前提が敷かれるような気がする。
(22~23小節)
#ドレγファミγレ#ソγラシγドレγファ__γ[ミレ]ドγレ
(31~33小節)
ミγファミγレレγミレγ#ドレ
.....................ラシγ#ドレγミファγレミ..................♭シラγソファγミレγ#ドレ

(34~36小節)
ラ#ソラレ_ソ__γファミレミ_ラ_
........................ドシラソ_ラ_
...........................ソ⌒(ソ)ファミγレミ

(37~37小節)
ソ#ミ__レドγシドγレミ__γファミγレラ

こうした、中間に音の飛躍のない、細かい動きのフレーズである。

こうした過程を経て
ラ〈シドレ〉ミ_ド_ラ_#ソ_ラ_シ_ド...
ラ_ミ_〈レ〉ド_〈シ〉ラ_#ソ...

などの介入の布石がなされる。

こうして主題A1へ挿入される中間音受け入れの準備(A1→A3・∀3)が出来てくる

Cp2には、まだあの、曲を不可思議な天上的不安と終末美へと超脱・膨張させていくような、未完F第3主題の暗示性は殆ど登場しない(皆無ではないと思われるが)分、悠長な流れの中にもひたひたと向かっていく終末と審判への調べは無いが、そのぶん意志的・雄壮でもある。それは未だ未完F第3主題(B-A-C-H:半音階調)を含意しない段階での、曲の地上的特徴だろう。がここで、たしかにフーガの技法のほぼ全般に渡って要求される、推進力(未完F第2主題)の要素が確立されたのである...

2004年12月20日

Cp3、フーガの技法第三曲目であるが、すでに終末的気分の暗示にみち、未完フーガの有つ雰囲気を、曲全体に彷彿させている。
Cp2にて、主に未完F-第2主題の契機が作られ、同-第1主題の大前提(A3+∀3の惹起)がなされていたが、ここCp3は、残り第3主題(B-A-C-H)の成立気分に満ち溢れ、主題である∀1(ラ_レ_ファ_ラ_♭シ_ラ_ソ_ファ_ミファソ)の登場もさることながら、その前口上である冒頭フレーズ∀'1(レ_ラ_ド_ミ_ファ_ミ_レ#ド__ラシ#ド...とそれ以降の半音階調のながれ)そのものが、B-A-C-Hを彷彿させており、そのゆらゆらと続く半音階調が、次に登場する∀1(主題)に併走し、そのまま付帯状況のように付きまとっていく為、未完Fの成立条件を巧みに含意している。

2004年12月21日

またここで新しく登場する主題は先に述べた∀1であるが、半音階進行(細かな中間音介入)に引きずられる曲の進行と共に、Cp2で伏線の作られていたA3・∀3のスタイルが、実際に顔を出しはじめる。(殊に後半)
24~26,55~56,58~59,63(半音階変奏)小節

よって、ここCp3に於て、B-A-C-H(未完F-第3主題)の前兆とともに、未完F冒頭(第1主題)の具体像が暗黙に展開され始める。(より積極的にはCp5にて)

(※A3・∀3自身が「主題」として展開されはじめるのは、Cp5からである)

次に詳しい分析。


(未確定項)

ここは非常に語りづらい箇所である。

Cp3と未完F(Cp14)との間には、雰囲気の酷似している点が随所にあるのに、ここがこう、という的確な掴み所がないという気がする。
だが、曲の主題を始終取り巻いているもの、付きまとうものは、少なくとも現時点からもすでに、同じ親から生じる何かだと確信の出来る気がする。

Cp3を通してますます強まる印象は、未完Fに於る、幽玄なB-A-C-H(第3主題)と、勇ましい第2主題とが、ともに同じ起点――最も原基的スタイルとしては、∀1(とそこから派生する付随,併走旋律、としての変奏)――から生じているだろうということである。

そして、この両者を強く結びつけるものは、両者の主題同士、というよりはむしろ、両者の付随旋律の在り様――これの、主題との関係の仕方、また変化・遁走の仕様――といってよいかも知れぬ。

未完F自身、あの4つの主題の現出に至る迄に、さまざまの<伏線>を用意しており、付随旋律・併走旋律とその展開を有している。その間に、それらが或る時はB-A-C-Hの前哨をはったり、推進力ゆたかな第2主題を喚起したり、冒頭第1主題の、或る種の膨張系(一部半音階上昇など)によりB-A-C-Hへの再編を予告したり、という形で弁証法的に進んでいくのである。
どの楽章でもそうであるが、Cp3もそうした伏線やら予兆が多々あり、そのことが未完Fの存在(仕様)を身近に暗示させたり或る種のパラレルな関係を垣間見せる。

未完Fに於る幾つもの(各登場主題への)伏線のうち、13~20小節(第3声部)の一連の動きや23~30小節、46~50小節の1・2声部の半音階的動き、また32・33小節に典型的なラ[シ#ド]レ_レ[ミレ]#ド_、等の動きは、そもそもCp3に酷似しないだろうか。
また未完Fに度々訪れているマタイ的な処理――52~55、162~167小節等――と、Cp3の全体的低音処理〔典型的には10~12小節。だが全体にわたってマタイ的(弦楽)処理と思われる〕、旋律的に膨張を引き起こす72~73、79~84、等々の、B-A-C-Hへの変化彷彿の仕様、等々...

また未完F-219~220小節の処理はCp3-26~28小節(trを含む)をひとつの原型として示唆させる。etc...

このように未完Fの旋律処理は何か常にCp3(乃至Cp5=∀1→∀3・A3)の要素とその付帯旋律仕様を多分に含んでいると思われる。

2004年12月22日

昨日想ったことを、一度全部清算して考えてみる。

Cp3を考える時――Cp3と未完Fとの関係を考える時――、やはり同時にCp4・Cp5・Cp6(a)・Cp7(a)迄を、とりあえずまとめて、常に考慮に入れて考えなければならない(全く切り離し個別に、というのはやはり無理である)。
その上での、未完Fへと関連づけられる特徴・配置・収斂への役割、etc..の意味を記していかなければならない。

が同時にそれは、「Cp3はこうであり、Cp5はこうである」と言った時、Cp3の中には、Cp5で語った要素(未完F-主題1・2・3・4の何れかの要素)が「ない」ということを表すのでもなく、またCp5ならCp5の或る要素(ACD)に就て重点的に語ったからといって他の要素(B)がない、という訳でもない。
それどころか全ては<予め不可分>であるということ、不可分であるどころか、ふとした付点処理やフーガの拡大縮小、中間音の介在・不介在の手加減ひとつで、或る要素が他の要素に変わりうる(役割を代替しうる)という事を、寧ろCp3・Cp4・Cp5・Cp6(a)・Cp7(a)を「通して」聞けば聞くほど確信する…。バッハはそのことを実験(実践)しているか、未完Fに向かって着々と備えていたのである。

未完F(Cp14)の4つの各主題は、どれも同じ要素から成り立っている、と言わざるを得ない...

それは勿論、最も単純に言えばA1なのであるが(Cp1冒頭・主題)、

A1(∀1)-A3(∀3)、その変奏――(拡大縮小、中間音(含:半音階)介入、付点処理、etc...) この一連の作業を含んだおおきなテーマが、4つ全ての主題の親になっている。

このように、もともと不可分であることを前提にした上で、

・Cp3は主に(未完Fの4主題のうち)まず第3主題(B-A-C-H)の生起を重点に置いた。
(…Cp4がA1の真の転回形であるのに比し、Cp3では調的転回形のため)

むろん昨日までに述べた諸要素をも曲中に含む

・Cp4では第2主題の基礎的な運動性の確立を重点に置いた。(A1もしくは未完F-の来たるべきA1=第4主題の変形した運動との絡みで。だが半音階性も潜在的に顧慮され、曲想のわりに未完F-第3主題を引きずっている)

・Cp5では、Cp4に比し、中間音介在によってより未完F-第1主題の顕在化が示されつつ、そのA3・3∀系列に於て未完F-第2主題の運動性の展開がなされる。(同時にこれによる運動性の付随的条件により、未完F-第3主題の動きもある。勿論、A3∀3が基調になっちているので、A1は目に見えぬ形でたえず基底にある)

・Cp6では、未だCp5冒頭では後出であった未完F第1主題(前半=∀3)が冒頭に出現する。これは全く未完F(Cp14)の冒頭の類型と重なる。
ここで成立している関係は、
(前に出る∀3の系列と、後出するA3系列の関係)
未完F-第1主題及び来たるべき第4主題(A1)と、第2主題との連携のようにも聞こえるし、第3主題(B-A-C-H)の前-半音階調段階の音型との連携のようにも聞こえる。
A3・∀3は、未完F-第1主題の基礎でもあるが、同時に第3主題の全音階調的基礎のようにも聞こえる。そしてここから生じる(orこれが触発する)運動はつねに第2主題の運動を呼ぶ。

2004年12月23日

・Cp7でも、Cp5冒頭では後出であった未完F第1主題(前半=∀3)が冒頭に出現するパターンはCp6に同じである。
したがって、未完F(Cp14)の冒頭の類型と重なる。
が、ここで成立している関係は、低音部で始めに登場するA3の系列(未完F第1主題前哨)に比し、Cp6とは逆に、追って第1・2声部に登場する∀3の系列のほうが、*拡大形になっている点である。
*実際には前出するA3系列のほうが、通常(これまでのCp1から展開されていた主題A1→A3・∀3の形状)の縮小形になっている、というべきであるが、もしこのCp7が、未完Fの4声のうちの来たるべき第4(A1)・第2・第1主題の遁走仕様への有力なデッサンであると見る場合には、第1に対する第4主題(A1の再来)の歩幅を、実践したとも思われたため、このような言い方をした。

バッハは、未完Fにて、来たるべき第4主題の歩幅をどう取るつもりであったろうか。
Cp6ではこの両者(A3と∀3)の関係は逆である。第1声部(∀3系列)のほうが縮小されている。

だが、Cp7に於てもう一つ顕著に思われるのは、第1声部と第2声部による、同じ∀3系列の1小節違いの遁走である。

Cp6に於て、曲想全体が、未完F-第1主題及び来たるべき第4主題(A1)と、第2主題との連携のようにも聞こえるし、第3主題(B-A-C-H)の前-半音階調段階の音型との連携、その実践のように聞こえたこと、また
A3・∀3が、未完F-第1主題の基礎でもあるが、同時に第3主題の全音階調的基礎のようにも聞こえ、そしてここから生じる(orこれが触発する)運動はつねに第2主題の運動を呼ぶ、と言うように聞こえたのに較べると、
Cp7の曲想の主題は、全声部を通じ、ともかくもあの邁進する第2主題のより濃厚で劇的な展開の仕様の追求といった感を受ける。
未完F第1主題の前哨(但・縮小形)であるはずの出だしも、その旋律自身の展開から、第2主題の運動仕様を滾々と生み出し、また1・2声部の遁走のやりとりも、来たるべき第4主題の準備という以上にむしろ、中高音部での第2主題の展開、という風に思われ、大まかに言って1・2声部と3・4声部での互いの第2主題の交換的展開をエネルギッシュに織りなしているという風である。

無論、その音の渦中、不思議にその最も根底を、巨大なるA1――来たるべき第4主題といってもいい――が流れている、という風に聞こえる。

2004年12月24日

Cp8では、Cp3~7というA1→∀3・A3の系列が織りなす展開の一群のうち、Cp4~7までの間遠のいていた、未完F第3主題(B-A-C-H)へと、再び重点が置き直された場所である。

Cp3では主に(未完Fの4主題のうち)まず第3主題(B-A-C-H)の生起が重点に置かれた。
(A1の「調的」転回形というCp3の半音階的特性を利用しつつ)が、それはA1を基点としていた。
その後のCp4~7を経たここCp8に於ては、同じB-A-C-Hを彷彿させる手段とはいっても、3つの主題を交錯させる形で、その中に典型的な∀3の付点解除・休止符付着形(∀4とする)を以て、

*∀4…ラレミγファソラγ (γ…4分休符)

これとの絡み合わせによる半音階的世界を展開させる。
∀4(第94小節~)との交錯的運動によって半音階系の世界を現出させる要素となる残りの2主題(これら2者の方が∀4より遁走としては前出する)とは、冒頭(第1)主題と第2主題(第39小節~)である。

これら2つの主題は、一体何ものであるか。
これらの生起する由来は何処にあるか...

Cp8第1主題
レ_ドファシ♭シラレソ~_ファソラソラ_レ(~…トリル)

これは思うにA3をB-A-C-H系進行に融合させた変奏であろう。

だから、始めのレ_を先に行かせると、あとの旋律は∀4(つまり∀3の付点解除・休止符付着形)と同時進行させた場合、まったくぴったり来る。実際バッハはそうしている。(183小節等)

Cp8第2主題
もうひとつの主題は、先日私が「落下の主題」と指摘したものであるが、これはあの推進力に充ちた未完F-第2主題を、同じく基礎題材にしてはいるだろうが、手法としては寧ろ逆手にとった形であろう。よって、不断に前進し上昇していく気分よりは、ここに第3主題B-A-C-H的系譜を融合させることで、逆に下降的・落下的な雰囲気を醸す変奏となっている。

Cp3で未完F-第2主題を変奏する場合、つまり∀1が変奏の基礎になっていた際は、B-A-C-H系譜の旋律をまぶされて多分にマタイ的になっても、かろうじて前進していた(死の丘へと沈黙の中を進んで行った)が、こちらCp8では、同じ未完F-第2主題!を変奏するのに、このCp8自身の第1主題を基礎にしているという風に思われ、ゴルゴタから紙片が落下するかのようである

いずれにしてもCp8では、∀4との交錯的進行をはたすどちらの主題も、B-A-C-Hの洗礼を受けているようにみえる。

2004年12月25日

Cp9
ふたたび未完F-第2主題の推進力と疾駆――とはいえ未完Fの第二主題は往々にして疾駆というより疾風のようにも聞こえるのだが――の彷彿する楽章だが、Cp6・7、ことにCp7を通ってきた耳には、A1*の展開術として理に適った実に自然な変奏スタイルである。それでいて未完Fに向けて着々たる第2主題の疾駆への準備が整っていく。

*…展開術でもあり併走術でもある(35~44小節/45~53小節etc.)
尚、一小節半ずらす、などすれば未完F-第1主題(A3+∀3系譜)とも併走しうる。
これを以てA1(=来たるべき未完F-第4主題)の変奏スタイルであるばかりでなく、未完F-第1主題の変奏スタイル、ということが、できるだろうか

冒頭主題は、これまでの冒頭主題の5度飛びをしのぐ、ちょうど1octvの飛躍だが、1octvの飛躍(上昇乃至下降)は、前述のCp7**でもよく聞くと登場し、もう無意識にも耳慣れていた。

**…Cp7に於る1octvの飛躍箇所

-上昇-
32小節(第1声部)・33小節(第三声部)・38(第4声部)・51小節(第2声部)
-下降-
44小節(第4声部)・47(第4声部/途中付点介在、旋律切断)・51小節(第4声部/途中付点介在、旋律切断)
等々

˖°.+:.♯:.♪+.。*.+:.♯:.♪+.。*.+:.♯:.♪+.。
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