拝啓 まだ若かった貴方達へ
貴方達は今、幸せの中にいる。
そう思える日常と出会えて、何もかもが輝いて見えている。一分一秒が愛おしく、何を見ても楽しく思える。
だけど貴方達は決して目先の楽しさだけに振り回されない。
良くも悪くも賢いのだろう。音楽はプレイリストを作って聴いているだろうし。マメだ。
鼻先の眼鏡を持ち上げ、これから先起こる可能性、未来、進路、全部をなんとなく考えている。
えらい。
けれどそのせいで今の幸せは壊れる。
勢いでなんとかなるものでもないし、勢いでそうなったわけでもない。
着々と工程を重ね、葛藤に明け暮れ、掴み取った、オレンジ色の感情である。
遠い未来、意外と近い未来。全ては還っていく。
誰かにとってはただの経験に過ぎず、誰かにとっては夢だったかのように呆気なく、誰かにとっては一生痛いくらい酷い真剣なものだった。
何もなかったかのように。
日曜の朝、窓辺で一緒に聴くことを夢見た。
何人もの人に囲まれ、忙しく動き回る喧騒の中で黒いコートを着ていた。
写真では隣に写っていたような気がした。
全部「気がした」だけかもしれない。事実、いくつかは幻影だった。長い長い夢だと思っていた方が楽だし。
だけどたしかに「存在」していた。
貴方達の束の間の幸せは、あの頃たしかにそこにあった。