絶対サークルクラッシュさせない!ためのバンドの組み方
2025年が始まりました。今年は何か新しいことに挑戦したい……と考えている皆さん、バンドを組みましょう。
バンドはいいものです。仲間と集まって音を出すことはとても楽しいし、全身を震わせる大音量に、自分たちのイメージを具現化するオリジナル曲やアルバムの制作、そしてそれを適切に届けることさえできれば海外のフェスの大舞台も夢ではありません。
ですが、人と集まって何かをする上で避けて通れないのが「人間関係のトラブル」です。それを回避する方法とはどんなものでしょうか?
自己紹介が遅れましたが、私は20歳の時に音楽活動を始めて以来、6枚のオリジナルアルバムを国内外からリリースし、二度のヨーロッパツアーを行い、様々な地域で約10年のあいだに250人以上のプロフェッショナルな音楽家、バンドマン、アマチュア、その他有象無象のワナビーを含む人たちと音を奏でてきました。そして現在は野流という参加自由型の即興演奏グループを運営しています。
大まかな活動は下記のインタビューをご覧ください。
さて、私は20代前半の頃に大きな思い違いをしていました。それは大まかに言えば「最強のバンドで最高な音楽さえ作ればリッチになるし人生一発逆転できる」というものでした。
今思えばとても傲慢かつ幼稚な発想なのですが、ろくに学校にも行かず、働きもせずに郊外の機能不全家庭で鬱屈とした青春を過ごしていた私はロックバンドという夢に全ベットすることで、なんとかそこから抜け出そうと足掻いていました。
そしてそんな鬱屈として無駄に繊細でけっきょくのところ幼稚で傲慢な時期の私の周囲に集まったのは、同じような問題だらけの人間たちばかり。
そして様々な理由で繰り返されるサークルクラッシュ。昨日まで仲間だと思っていた相手が豹変したり、時に自分がエゴを振りかざして事態を悪化させたり、とにかく依存と憎しみ合いの連鎖が絶えない10年間はロクでもない出来事の連続でした。
しかしそれは同時に、学生のうちからリスクヘッジ過剰とも言える現代では貴重な得難い経験であり、そこで得られた知見をシェアすることが今後の音楽や芸術の世界を豊かにすると信じてこの記事を無料で公開することにしました。
それでは「サークルクラッシュしないバンドの組み方」を考えていきましょう。
メンバーは楽器のうまさより人間性で選べ
エリック・クラプトン、ジャック・ブルース、ジンジャー・ベイカーという凄腕三人が揃った世界初のロックのスーパーグループ、クリームはメンバー間の仲が悪く、たった2年半で解散しました。
仮にあなたが18歳で、バンドを組みたいが音楽の業界に何のコネクションもなく、それどころか好きな音楽の話さえ誰ともできない時期に大学で出会った楽器のうまい先輩がいたら、迷わず彼とバンドを組もうと考えるでしょう。
ですが彼は次第に音楽の知識やテクニックでマウントを取ってきたり、細かい嫌味をネチネチとあなたに向けてきます。彼の音楽の技術に対する敬意からあなたはそれを我慢しますが、結局バンドは成功することもなく、揉め事も増え、25歳ごろにメンバーは皆見切りをつけて離れていき、あなたは偏屈で歳だけ取った先輩と高円寺北口のロータリーに取り残される……
こんな冴えないことが今も世界中で繰り返されています。
楽器は練習すればほとんど誰でもうまくなりますが、人間性はどうしようもないことがほとんどです。
まずはあなたを後輩として侮ったり、軽く扱わない、信頼できる友人とバンドを組んでください。向上心が高い人ほど、新たな知見を求めて他人から何かを学ぼうとする謙虚な姿勢があると思うのですが、それは時として単なるモラハラ人間ホイホイになりがちです。
よくあるパターンとして、その人の趣味嗜好を否定して「本当にかっこいいものはこれだ!」と歳下に提示する阿木譲スタイルもみられますが、結局音楽の好みなんていうものはその人それぞれで、無理に嗜好が合わない相手とバンドを組む必要はありません。
私も仲の悪いバンドが生み出す喧嘩のようなアンサンブルを求めていた時期がありましたが、お互いへのリスペクトが欠けたバンドは音楽的にも迷走しがちですし、短い活動の中で光芒を放った……!などというロマン主義で評価される以前のしょぼい活動に留まることがほとんどです。
音楽は楽器を使ったコミュニケーションなので、言語を使ったコミュニケーション能力が高ければよりイメージを共有して具現化しやすくなりますし、その能力はバンドにとって有利に働きます。逆も然りで、コミュニケーション不全のグループは成功しにくい。
楽聖のごとく扱われている偉大なサックス奏者、ジョン・コルトレーンやエリック・ドルフィーは人格としても素晴らしかったと周囲が口を揃えていいます。
結局のところ、目標に向かって集中しピュアに取り組んでいけば自然と人間性に優れた人たちに出会うので、揉め事が絶えないバンドやコミュニティに居続けるのは、自分から夢を遠ざけているようなものなのです。時には自分を信じて、その場から抜け出すことが大切です。
目標を共有すること
信頼できる友達とバンドをスタートさせたはいいですが、音楽で生きていくことしか考えられないというメンバーと、あくまでも趣味の範疇でやっていきたいメンバーとの間では、次第に熱意の差から揉め事が増えるようになりました。
音楽はスポーツ競技などと違って勝敗や正解というものがなく、熱意を持って取り組んでいてもその成果が周囲からは見えにくいジャンルでもあります。
親や彼女からの理解はなくとも、せめてメンバー間だけでも、「いつまでにツアーは行きたいよね」とか、「何月までにレコーディングを終わらせる」といった目標を共有しましょう。物事の期限を決めるだけで、活動にメリハリが生まれ、ただの楽器を持った飲みサーと化すことを防ぐことができます。
その過程であなたの計画性や本気度合いが伝われば、メンバーのモチベーションを上げることもできるかもしれません。
メンバーとの共同生活は危険がいっぱい
個人的な経験則なので詳細は控えますが、メンバーとの同居は互いのだらしなさ、価値観の先鋭化に拍車をかける可能性があり、とても危険です。
かつてキャプテン・ビーフハートが名盤「トラウト・マスク・レプリカ」の奇怪なアンサンブルをメンバーに教え込むために、一年ほどメンバーを田舎の一軒家に軟禁して教え込んだという逸話がありますが、その後メンバーは耐えきれず脱走者が相次ぎました。
ただでさえ人間として弱さを持った者同士が出会いやすいバンドでは、その弱さゆえに生活ごと崩壊することが多々あります。
自立した人間同士が依存し合わず、音楽という共通項で繋がるのが理想的なバンドのあり方ではないでしょうか。
お金の管理がずさんなグループはいつか壊れる
バンドを実際に運営していくと、出費ももちろんですが収入が副業レベルかそれ以上まで段々と増えていくことがあります。そこでお金の流れを透明化し、信頼できる人が管理しないと、私的な流用や、それに伴うメンバー間の不平不満が溜まっていきます。まあ我が国ではそれが国家の中心で常に起こっているんですが、それはまた別の話。
とにかく音楽家や芸術家は収入を機材や制作に注ぎ込んでしまうので常に金がありません。加えてアンダーグラウンドのバンドマンは倫理観がないことが多いので、お金のことを曖昧にしておくと、「これくらいは許されるだろう」という甘えと依存が組織内に蔓延していくことになります。
とはいえ世界の大谷翔平でさえ信頼していた相手にお金を使い込まれる有様なので、金と性欲はどんな人間も簡単に狂わせるという普遍の仕組みに基づいて、きちんとしたルールとシステムをバンド内で早急に構築するのが、大切な友達を狂わせない最短距離なのかもしれません。
地雷女は実際のところかなりいる
ここでは仮にサークルクラッシュを起こしがちな異性を「地雷女」と呼んでいますが、女性ばかりのグループ内で男性が問題を起こすこともあるのでこれはどっちでも起こりえます。とはいえここでは私の観測範囲で前者のパターンが多いので女性問題について書いておきます。
学校や親はこんなこと一切教えてはくれませんが、承認欲求をこじらせた結果バンドという閉鎖的な共同体に目をつける倫理観の特殊な女性というのは一定数存在します。それが有名なグループであることも多いですし、ガンズアンドローゼズやフリートウッドマックなどを例に上げるまでもなく、それが原因でメンバー間が険悪になったグループは数知れません。
あなたたちが有名でモテており経験豊富か、信頼できるパートナーもきちんといて自制心もちゃんとある、そんな大人のグループなら心配ありませんが、アンダーグラウンドのバンドなんていうものは基本的にオタクの同人サークルのようなもので、ギークやナードが一念発起の気合いで始める場合がほとんどです。
彼らは成功から程遠いところにいるので、普段全くモテません。なので異性からアプローチをかけられればメンバーのことなど忘れて見境なく飛びつき、結果的にグループ内の人間関係がドロドロになって崩壊などというのは年齢問わずよくある話です。男女混成のバンドや劇団などもこういった問題は起こりやすいですね。あと老人ホームもか。
問題を起こす彼(彼女)らは閉鎖的なコミュニティで複数人からチヤホヤされたい、という幼稚で暗い承認欲求に突き動かされているだけです。自分のせいでそのコミュニティが崩壊しても次のコミュニティにターゲットを変えるだけで、反省することもありません。
そもそもコミュニティを尊重する気がない部外者をこっちの理屈でコントロールすることは不可能なので、まともに相手をしてはいけないのです。
異性はこの地球上に40億人いますが、あなたのバンドはこの世でひとつしかありません。
どっちを大事にして守るべきかよく考えて行動しましょう。
マネージメントができるメンバーが2人いればそのバンドは成功する
あなたが大手事務所のオーディションを勝ち抜き、事務所にマネージメントを全て委ねることができるような恵まれた環境に辿り着けば話は別ですが、ほとんどのバンドはスタジオの予約から写真撮影、アルバム制作やライブの宣伝、ツアーエージェントとのやり取りや移動のチケット確保、PVからグッズ、イメージ戦略まで全てメンバーがこなさなければなりません。ある程度人気が出てくればマネージャーを務めてくれる人が現れたりもしますが、それは運次第といったところでしょう。
ですがほとんどのバンドマンというのは自分勝手であり気持ちいいことにしか興味がないので、そんな面倒臭い裏方っぽいことはやりたがりません。特に若いうちは周囲が勝手に期待して持ち上げてくれるレバレッジ効果があるので、そんなの興味ないしーで済んだりします。
しかし、音楽業界というかほとんどのエンタメ消費者の需要の残酷なところは、「未来ある若者のイメージ」を都合よく消費し続けたいだけであるということです。
彼らはアイドルであれバンドであれ、年を重ねて何かを確立していく姿よりは、何か新しい未知の可能性に常にゾクゾクしていたいだけなのです。
そんな移り気な業界や消費者に対して独立した姿勢を示し、音楽的に実りある活動を継続するために、自分たちのスタイルを確立するためのセルフマネージメントは必須の時代といえます。
ですが、冒頭に述べた通り楽器の練習や作曲やバイトをこなしながら上記の膨大なマネージメントをこなすのは並大抵のことではありません。サカナクションの山口一郎氏が鬱になってしまったのも、明らかに責任感からのタスク抱え込みすぎが原因でしょう。メンバー各々が勝手にやりたい方向に向かうのではなく、目標を明確にして共有した上で、マネージメントはメンバー複数人で分担しましょう。
あなたたちが自分たちの音楽に絶対の自信があり、その音楽をカッコ良いものとして広めたいという意識があれば、マネージメントを商業的で不純なものとしてではなく、音楽へ向き合うのと同じくらい重要なことだと認識できるはずです。
なんだかんだ言っても、音楽への愛を共有し自分たちを信じることが全て
柄にもなくビジネス書みたいなことを書いてしまいましたが、結局一番重要なのは音楽や芸術を愛し、同時に音楽から愛されたいと願って作り、歌い、演奏することです。
その道に没頭してください。そしてそれを共有できる相手を見つけることは、本当に幸せなことです。
人によっては音楽を通して愛を学ぶこともあるし、宇宙を感じることだってある。少なくともあなたの日常は昨日とは変わり、驚きと未知への冒険が待っている。間違いなくそれには人生をかける価値があります。