僕の散髪の話
「今日は、どうしますか?」
「三ヶ月分、切ってください」
鏡ごしにがっつりと視線を合わせてきた彼女に僕はそう言った。
僕は隣の駅から徒歩五分程度の所にある床屋にいっている。1000円とか1500円とかそういうたぐいのお店だ。
とにかく早く、とにかく安いので、たいていこの店は大混雑していて、30~60分待ちなんてザラだ。
しかし今日は一人しか待っていなかった。なんてラッキーなんだと思いつつ、僕は誘われるがままに席に着いた。
この店に来るのは3回目。初回と前回は同じ人だったが、今日は初めての理髪師さんだ。
切る長さを伸びた期間で指定するのは一般的なのかしら?と不安に思ったが、それは全くの杞憂で、彼女は「3cmですね」と答えつつ、僕の髪をみながら質問してきたのだった。
理 「前髪は眉毛より上あたりでいいですか?」
僕 「はい、お願いします」
理 「耳は耳たぶが出るくらいでいいですか?」
僕 (うーん。もうちょっと出てたほうがいいけれど・・・。) 「はい、お願いします」
理 「真ん中って自然と分かれてるんですか?それとも分けたいんですか?」
???
いや、分けたいんですかってなんだよ・・・。
僕 「いや・・・、特には意識してないです」
他になんと答えろというのか。
理 「・・・。そうですか。」
なんだよ、その間は・・・。
さらに質問は続き、
理 「整髪料使ってます?」
僕 「いや、使ってないです」
理 「あ、すきますか?できますけど。ボリュームの?」
「すく」ぐらい知っているよ!できないとも思ってないよ!
僕 「はい、お願いします」
最後の質問を終えると彼女は素早く切り始めた。思い切りの良さが半端ない。既に前髪が眉毛のラインでまっすぐになっていた。
ドキドキする。これ最終形じゃないよね。
こういう途中経過は見ていると心臓に良くないし、切った髪が目に入るのがいやなので、だいたい僕は目をつぶってしまう。
ジャキジャキ音がする。思いの外、音が近い。あとハサミの当たる位置が顔に近い。
すきバサミを使っているのだとは思うけれども・・・。これ、ツーブロックになっていないですよね???
しばらくすると切り終わったらしく 「いま、メガネお出ししますね」 と声をかけられたので、目を開けた。
いや、メガネかけなくても見えるんだよね。もう見ちゃっているんだよね。
真ん中分けが自然か意図かどうかを気にしていたのは、こういうことかとわかってしまった。
分け目をなしにして、梳いた感じで、前髪は眉より上、耳は耳たぶが出るくらい。
コレ完全に、六角精児さんの髪型じゃないですか・・・。切る前からゴール決めてたよね。
理 「どうですか?大丈夫ですか???」
僕 「あ、はい。ありがとうございます」
何その反応薄くない?みたいな顔。知らないよ!もうコレでいいよ!
絶対に顔になんか出さないよ!
ちょっと!その指先でつまんで捻って分け目なくなるようにするのいいよ!
無駄な努力しないで!整髪料も使わないんだから!
帰りの自転車で風に吹かれて、見事に分け目が復活しました。とさ。
よかったー。
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