我が家に猫がやってきた
今年の初め。木枯らしが吹く寒い日のこと。
夕方に帰宅した私はベランダの隅っこで目を細めてこちらをじっと見つめている何かに気づいた。
お互いにはっとすると同時に逃げ去ったものは、全身に黒いペンキをかけられた、まだ幼さが残るやせっぽちの猫だった。
憐れに思った私は、新しい発泡スチロールの箱に着なくなったウールのワンピースを敷き詰め、その上に煮干しを一匹置いておいた。
その夜からこの子は、毎日そこへやってきて眠るようになった。
ちょび髭のちょびと名付けて、通ってくるたびにエサをあげるようになった。
飼い猫だったのか、それとも初めから野良猫なのか、オスなのかメスなのか確かめるすべもなく日々はすぎていいき、そのうちに春がやってきた。
来る日も来る日も自分で毛繕いして、毛並みはだんだんキレイになっていった。
良かったなと思う反面、ペンキをかけたであろう人間、その許せない残酷さを恨んだ。
すぐに別の猫が時々現れてウロウロし始める。
私の心配は的中し、ちょびのお腹はどんどん膨らんできた。
「あ〜、困った困った。子供ができちゃったよ」
5月のある日、どこかで出産をしたらしい様子で、ぐったりして戻ってきた。
ぐったりはしていても、エサを食べてはまたすぐに出かけていく。
それから1ヶ月ほど経ったある朝、庭の草陰にに小さな耳が動いているのを発見。
ちょびはとうとう、我が家の庭に子猫たちを連れてきたのだった。
それから1ヶ月間授乳期を庭で過ごす間に、やることは山ほどあった。
まずは、猫ボランティアさんに相談し、子猫たちの里親を見つけるために奮闘する日々が続いた。この夏は、猫のことで頭がいっぱいで、何も手に付かないほどだった。それほど、猫たちが愛おしく思えるようになっていた。
里親さんが決まり、捕獲して病院に連れて行き、母猫ちょびも手術を終えて、我が家の家猫として迎え入れることになった。
慣れてれるかどうかの私の心配をよそに、ちょびはすぐに懐いてくれた。
今は同じベットで、温もりを感じながら一緒に眠っている。
こんな風に猫との生活が始まるなんて、予想もしていなかった。
人生って面白い。