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伊勢うどんの追加取材②:起矢食堂の中村俊雄さんに聞く、古市街道沿いにおける時代の変化
伊勢うどんの同人誌「伊勢うどんってなんですか?」の追加取材をしてきました。伊勢うどんのより詳しい話はこちらの本をどうぞ。
内宮と外宮を結ぶ主な道路は、最短距離の御木本道路(1946年に真珠王の御木本幸吉が資金を提供し着工された)、伊勢総合病院の脇を走る御幸道路/御成街道(明治天皇が初めて神宮へ行幸するのをきっかけに1910年完成)、そして一番の歴史を誇る伊勢街道(特にこの辺りを古市街道と呼ぶ)の三本。
今回訪れたのは、江戸時代には遊郭や旅館が立ち並んだという伊勢街道沿いにある起矢食堂だ。
起矢食堂の歴史と味のルーツ
ーーこの店はいつ頃からですか。
「今から46年前(1978年)かな。私は建築不動産業の会社に勤めていたんですが、一応調理師の免許ももってましたもんで、脱サラみたいな感じで。私らが子どもの頃に食べとった伊勢うどんをだそうと始めました。
昔、母親に連れられて映画にいって、おばあさんがやっている店で食べたうどんの味。そういうところでしょうね。
伊勢うどんって言う名前は永六輔さんが広めたって言う話がありますけど、昔はただ『うどん』やったんと違いますか。汁が薄いうどんはなかったと思います。うどんいうたら、タレで食べるこのうどん」
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時代を超えて味を守ることの難しさ
ーータレの材料を可能な範囲で教えていただけますか。
「醤油は伊勢のたまり。糀屋さんのたまりを使っています。出汁は
昆布、削り節、煮干し。味醂や砂糖も使っています。
昆布もね、昔はよかったですよ。昆布は養殖と天然でも違うし、一年物と二年物でも違う。真昆布のいいところを使っていました。隣のおじいさんが佃煮を作るから昆布をくれって言ってきてね。今買うとしたら10倍の値段です。世界的に和食人気が高くなって、日本の食材が海外でも使われるようになって、良質の昆布がそもそも手に入らんのですわ。
煮干しでもそうです。10年以上前から煮干しが高級魚になるぞって言っていましたね。今はタイ1キロよりも煮干し1キロのほうが高いですよ」
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ーー基本的なタレのレシピ自体は創業時から変わっていないのですか。
「同じようなあれですけど、材料自体が変わっていくとまた味も変わってくるので、そこの調整が難しいですね。昆布や削り節の種類を変えてみたり、どれがいいか何度も比較をしています。同じものを同じように作っていくというのは、なかなか難しい」
ーーうどんの麺はどういったものを使っていますか。
「ずっとみなみ製麺さんです。昔はせいろで配達されてましたけど、それだと痛みが出てくるもんで、ビニール袋に詰めたものに変わって便利になりました。今はみなみさんも二代目ですよね。だんだんと改良されているのか、昔よりも店での茹で時間が短くなりました」
ーー取り寄せている製麺所の麺が一緒でも、タレや茹で方が違うとやっぱり違うものですか。
「それは全然違いますね。その店ごとの味が違って、みんなそれぞれお客さんにも好みがあるのが伊勢うどん。うちらはタレっていいますけど、今は薄めで汁だくさんの店が増えました。ここみたいに濃いタレは少なくなってきたでしょう。どうぞ食べてみてください」
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人気のカレーうどんもいだだいた
「観光客の方は伊勢うどんをよく食べますが、地元の人は稀ですね。カツ丼、肉カレーうどん、肉うどんとか、違うものを頼みます」
ーーせっかくお店で食べるなら、地元民にとっては身近過ぎる伊勢うどんではなく、もっと豪華なものをってなるんでしょうか。そういえば伊勢うどん大使の石原さんから、ここのカレーうどんが絶品だと聞いているので、一杯いただけますか。
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店の歴史と今後について
ーー開業から46年ということですが、この辺りの様子もだいぶ変わりましたか。
「この街道は昔の国道ですね。御幸道路ができるまでは、外宮と内宮を結ぶ街道は昔からこの一本だけでした。江戸時代には遊郭や旅館が立ち並んでいたそうで、ずっと行くと猿田彦神社のところに突き当たります。
私が開業した頃は、御幸道路も御木本道路もすでにありましたけど、それでも人通りは多く、古市街道にも河崎屋さんとか橋本屋さんとか、麺類を出す食堂がいくつかありましたね」
ーー創業当時は、今よりもっと活気のある通りだったと。
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「建築業界のバブルがはじける前なんかはね、従業員も金回りがよくて、割とみんなお金を持っていたんですよ。その時代がよかったですね。
おかげ横丁ができた式年遷宮(1993年)の年がピークで、ずーっと下ってくるような感じ。そしてコロナでガクーンと来ました。
うちは家族経営なのでどうにかやっていけていますが、従業員を雇ってテナントとして入っているような店は、コロナ前から次々に辞めていきました。
私らが始めた頃は伊勢市の麺類組合も130店くらいの会員があったんですけど。二年前ですか、麺類組合が解散した時はもう25軒になってしまって」
ーーなかなか厳しい時代ですね。
「この通りなんて、今は猫も通らんようになってきました。どんどん人口が減って、町内でも三分の一くらいに減ってますやろ。
僕らが店を始めた頃は、小さい子どもがたくさんいたんですよ。でも今はどこもいません。近所でも、一人暮らし、一人暮らし、一人暮らし、空き家。そんなですわ。人口が減ったもんで商売もだんだんね。
もう、うどんは丸亀さんに任さんとしゃあない。あとは石原壮一郎さんにがんばってもらわないと。どうしてもね、伊勢うどんというのはローカルやと思いますわ」
ーーいやいやいや。でも伊勢うどんという食文化を守るっていうのも難しいものなのですね。
「今年で80歳になります。もう息子にも反対されますので、もうちょっとしたら終わりですわ。忙しいのはおっつかんもんで、だんだん時間短縮とかやってきましたけど、今年一杯やれるかどうか。
るるぶさんとか食べログさんにも迷惑をかけるといかんので、ぼちぼち断るようにしておるんやけど。本とかネットで紹介してもらっても、いつ廃業っていうことになるか」
ーー私は伊勢の人間ではないですけど、今後何年か経って、もしこのお店が仮に閉店となったとしても、こういうお店がこの場所にあって、こういう伊勢うどんを出していたのだという記録を残すっていうのができればうれしいです。今日、こうして食べられて本当によかったです。
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古市街道を歩いてみた
少し時間があったので、内宮から外宮まで古市街道を一時間半かけて歩いてみた。歴史を感じさせてくれるポイントが点在していて、楽しもうとする気持ちがあればおもしろい通りなのだが、今ここで飲食店をやるというのは大変なんだろうなというのも理解できた。
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前日に訪れた喜八屋に続いて起矢食堂でも、長きに渡る歴史の終わりを感じてしまうインタビューとなった。これもまた伊勢うどんの現在の姿だ。
伊勢うどんが看板の名店を食べ歩いてわかったのは、その経営を支えているのが、カレーうどん、中華そば、カツ丼といったメニューであるという意外な事実。特に地元客の多い店では、伊勢うどんだけだと営業が成り立たないのだろう。スーパーで買って家で作る伊勢うどんもおいしいから。
それでも伊勢うどんの個性・多様性はおもしろい。各店が人知れずこだわっている多様な味わいを興味本位で調べてきた私にできるのは、こうして文字と写真で記録を残すことだけである。
■起矢食堂 三重県伊勢市尾上町5−31
伊勢うどんってなんですか?
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