アラバマ大出身QB達の現在地

かつてはバート・スター、ジョー・ネイマス、ケン・ステイブラーといった殿堂入りQBを輩出した名門アラバマ大。しかしその後数十年、NFLのフランチャイズQBと呼べる選手が現れることはありませんでした。ところが近年になって相次いで3人のQBが1巡指名を受けました。アラバマ大出身QBの新たな伝統を作ることが期待された彼らの現在地を見ていきます。
 
Tua Tagovailoa(2020年1巡5位、MIA)
 
ドラフト1年前には全体1位候補とも言われながら負傷で評価を落とし、ジョー・バロウの躍進もあって結果的に5位で指名された、それが世間の印象でしょうか。しかし私は負傷前のTuaのプレーを見ても、Top5はおろか1巡候補とは全く思えなかったのです。ドラフト時の私のメモがこちら。
 
Strength:まあまあのコントロール、そこそこのモビリティ
Weakness:低身長、左利き、担ぎ投げ、負傷歴、プレッシャー耐性、アベレージの肩、レシーバーのおかげ
 
負傷歴を別にしても余りある懸念を補う強みが全く見えず、同年に6位で指名されたジャスティン・ハーバートと比べても素材の差は明らか、と考えていました。
 
現実にTuaは最初の2年は負傷も多く苦戦します。しかし3年目の2022年からは急激にスタッツを上げ、昨期はMVP候補に挙げられるまでになりました。何が彼を成長させたのでしょうか。
 
実際はドラフト時のTuaの高評価の理由はそのロングボムの精度にありました。しかし私はそれを軽視していました。エア30ヤードを超えるようなパスなどNFLで通るのはせいぜい2試合に1回くらいだから、それはQBを評価する基準にはならないと考えたのです。
 
しかしMIAはタイリーク・ヒル、ジェイレン・ワドルといったバカっ速いレシーバーを並べることで、ロングボムを「1試合に2回も3回も」通るレベルに仕立て上げたのです。
 
ディープをケアすればミドルが空きます。2022シーズンのMIAはショットガンのスナップを受けた瞬間に10ヤード先でレシーバーががら空き、そんなシーンを頻繁に見ました。Tuaが通したパスでレシーバーの半径2ヤードにディフェンダーがいたことがほとんどない、といっても過言ではないほどです。
 
このオフェンスに一つの回答を示したのがLACでした。浅いゾーンからレシーバーを密着マンカバーし、レシーバーが空く前に強いとは言えないMIAのパスプロを破ってプレッシャーをかけ、Tuaのパスを封じ込めたのです。
 
もっともこの守備はどこでもできるものではありません。縦にも横にも速いヒルを終始マンカバーすることは困難ですし、MIAもスイープやサイドスクリーンなど守備を横にも広げるプレーも多用して対抗しています。LACも昨年の対戦では一転して保守的なゾーンカバーに終始し、大量失点を喫しました。
 
Tuaにも成長が見られ、昨期はポケットから抜けて走りながらレシーバーを見つけてパスを通すことも増えました。それでもプレッシャーを受けて乱れる場面はまだまだ見られます。Tuaの真価が問われるのは、ヒルのスピードが衰えたときかもしれません。
 
・・・と、ここまで書いたところで今週の試合でTuaは脳震盪で途中退場。引退を勧める声も出ている状態で、一気にTuaの未来が見通せなくなってきました。
 
Mac Jones(2021年1巡15位、NE)
 
私が最初にジョーンズを知ったのは、ドラフト候補としてTuaを見ていた時でした。何試合分のフィルムを見ても1巡候補とは思えないTuaのプレーに飽きつつあったミシシッピステイト戦、負傷したTuaに代わって出てきてTuaよりずっと良いパスを投げ始めた、それがジョーンズでした。
 
それから1年、Tuaのプロ入りを受けてアラバマ大のスターターを務めたジョーンズは、紛れもない1巡候補としてドラフトにエントリーしました。私もあらためてジョーンズを見てTuaよりずっと良いという印象は変わらなかったものの、一つ思ったことがありました。
「パッツだけはやめておけ。」 
 
なぜか。
強肩ではないがクセのないコンパクトなフォームからショートやミドルのパスを的確に投げ分ける。(走れば結構速いらしいが)自ら走ることはほとんどない、今時珍しい白人のポケットパサー。
 
そう、「あの男」に似すぎていたのです。   走れば結構速いらしいが。
 
QBに限らず、偉大すぎるレジェンドの後継者に似たタイプを選ぶことは、えてして成功しないものです。それがフィジカル頼りの選手でなければ尚更です。足りないフィジカルを技術やセンスで補ってこそのレジェンドですが、似て非なる別人が同じスキルセットを持っている保証はどこにもないのです。昔からの49ナーズファンであれば、モンタナ2世とは名ばかりの肩が弱いだけのQBや、ライス2世とは名ばかりの足が遅いだけのWRを思い出す人もいるでしょう。
 
ジョーンズの1年目は派手さはないものの堅実なプレーでチームをプレーオフに導きます。しかしその成長曲線は上を向かず2年目からスタッツは低下傾向。昨期は遂にスターターを下ろされてしまいました。
 
昨期のジョーンズは素人目にも後体重かつ手投げが目につきました。肩が弱いのに体重も乗らないパスは明らかに緩く、レシーバーの手前で地面に落ちたり、ディフェンダーに間に入られてINTされるプレーが増えました。これも「手近な空いているレシーバーに適当に投げておけば、勝手にRACで進んでくれる」アラバマ大オフェンスに慣らされた弊害、と考えるのは飛躍しすぎでしょうか。
 
ベリチックHCが退任して新たな時代を迎えるNEはジョーンズと袂を分かつことを決意。ジョーンズはJAXにトレードされ、ドラフト同期のトレバー・ローレンスのバックアップを務めることになりました。ジョーンズが信頼を取り戻すことができるのか、どこかで再びスターター争いをするチャンスが訪れるのか、その将来は全く不透明です。
 
Bryce Young(2023年1巡1位、CAR)
 
ジョーンズの後を継いで2年間アラバマ大のスターターを務め、ドラフトにエントリー。CJストラウドとどちらかが全体1位と言われながら、ヤング推しの方がやや多かった印象。なのですが。
 
私のドラフト前のヤング評はこちら。一応Top10候補には挙げましたがこれはCARが指名する可能性があったのであまり貶めたくなかったのと、Tuaが結果を出し始めたのでヤングもいけるかもと少々日和ったもの。タレント的には正直1巡中位以降と思っていました。
 
Tuaより脚力は上でレシーバーの恩恵も少ない点は評価ポイントも、Tuaのロングボムのような「一芸」がないことは懸念していました。しかし、蓋を開ければそのプレーは事前の心配以上に酷いものでした。
 
何よりも驚くほどパスが遅く、リリースも早くない。オプションもドローもやらず、スクランブルに出る判断も悪いので脚力も活かせません。大学時代はプレッシャー下でのパス成功率の高さも売りの一つでしたが、投げ捨てる判断力もなく50/50のレシーバーに投げ込む胆力もなく、ポケットでポケっと立ち尽くしてサックを受けるだけでした。それならパス失敗率は低くて済みますね。
 
OLが悪いのも事実ですが上記のようにポケットワークも何もなく、ディープの脅威もないから守備に10人もボックスに入れられる中で全てをOLのせいにはできません。レシーバーも空かないと言われましたが守備を縦にストレッチできず浅いゾーンを厚く守られるのはQBの問題でもあります。しかもワイドオープンになってもパスが届く前に守備が目に見えて迫って来るのでヒットを恐れてドロップも増えますし、RACも稼げません。
 
OLもレシーバーもRBもプレイコーラーも全部一流を揃えてもらえれば、MVP級の活躍をできるQBなどリーグに20人はいます。昨年それに近い環境を得られたのはTuaとブロック・パーディくらいでしょうか?Mr.イレレバントでもできることのために全体1位でQBを指名したのではありません。
 
一方のストラウドが素晴らしい活躍を見せたことも私を苛立たせます。HOUだって言っちゃ悪いが周囲のタレントは大したことなかったんですよ。OLは開幕から怪我人続出だったし、レシーバーの層も薄い。ランも強力とは言い難く、実際にキーナムやミルズが出た試合ではオフェンスは満足に機能しませんでした。HOUとCARの勝数の差は、多くがQBの差によるものです。
 
今年の開幕戦のヤングも酷かったですね。IOLこそ強化されましたが、ヘビーなブリッツを入れられたら何も対応できませんでした。コントロールも悪くオープンレシーバーへの投げミスが多くINTも2回。昨年は散々セパレートできないレシーバーのせいにされましたが、空いててもダメでした。
 
ヤングが平均レベルのQBにすら届く日が来るのか、私は悲観的です。上記のジョーンズも含め、最近は1巡QBを3年以内に見切って放出するケースが増えています。ヤングが1年後にそのリストに名を連ねていても、驚きはありません。