トークイベントのゲストに、ヤギを呼ぶ理由
2021年4月10日。トークイベントのゲストに、ヤギが現れる ー
鼻をつく臭いが足りない。皮膚を貫く振動が足りない。なにより、脳を揺らす困惑が足りない。
国境が閉ざされて、一年近くが経った。海外旅行はできなくなったけど、それなりの日々を過ごしている。遠くに行かなくたって、旅はできる。そういう思いから書いたのが、『0メートルの旅』という本だ。
しかし、一方で本書にはこうも書いた。
「南極で嗅いだペンギンの匂いや、モロッコで味わった喉の渇き。そういうものは部屋の中では決して得られない。」
(『0メートルの旅』より)
遠くへ行く旅の大きな魅力が「困惑」である。全く異なるもの、知らないものに出会うことで、困惑する。揺さぶられる。自分はなにも分かっていないのだなと、当たり前のことを痛感する。それが病みつきになって、僕は何度も海を渡った。
たしかに日常にも宇宙は潜んでいる。近所にだって、絶景を超える景色が隠れている。だけどちょっと油断すると、繰り返す日々にすぐ流されてしまう。
この一年、飛ぶように早かったと感じる人も多いのではないか。それは、「困惑」が足りないからだ。迷い、困り、戸惑う。そういう瞬間が、時間に質量を与える。
この慣性の日々を、一瞬でもいいからぶっ壊したい。鬱々とした閉塞感に、なんとか一矢報いたい。
もう我慢できなくなったので、人生初となるイベントを4/10(土)昼に主催します。「超旅会談」といいます。渋谷ロフト9という会場でやります。
とにかく面白い旅人たちを呼んで、無軌道な話を散らかして、みたことのない景色を創りたい。かつて初めて一人で異国を訪れたときのように、何も分からず何もできず、ただ困惑の底に突き落とされたい。渋谷のロフト9という会場の中に、ひととき旅で満ちた空間を生み出したい。
「旅とは、そういう定まった日常を引き剥がして、どこか違う瞬間へと自分を連れていくこと。そしてより鮮明になった日常へと、また回帰していくことだ」
(『0メートルの旅』より)
人は揃った。デイリーポータルZで衝撃の辺境記事を連発しネットをざわつかせたライター、Satoruさん。日本の全「市町村」を訪れてシャッターに収めた若き写真家、かつおさん。そして原始生活に憧れ古代コーカサスの土器やワインを醸造する謎のOL、砂漠さん。いずれも間違いなく、めちゃくちゃ面白い。そして間違いなく、話をコントロールできない。
例えばこれは、事前打ち合わせのメモだ。
なんだよこれ。
普通にトークのアジェンダを決めようとしていた僕は、またたくまに「困惑」した。そしてそれが、とても心地良かった。日常の枠を外そうとしているこの人たちは、生粋の旅人なんだ。だったら僕も、とことんやろう。
そうして会場と議論を重ねに重ねた結果、第4のゲストとしてヤギを呼ぶことになった。
ヤギ
正真正銘、本物のヤギである。様々なハードルがあったが、ヤギを呼びたい、という全員の熱い思いが一つになった。旅人にはヤギ好きが多いのかもしれない。ちなみにヤギが登場するのは、ロフト史上初めてのことだという(そしておそらく最後だと思う。)
登壇者も、会場スタッフも、そしてもちろん観ている人も、なんでヤギがここにいるんだ?と困惑して欲しい。それがゲストにヤギを呼ぶ理由だから。あと普通にめっちゃヤギに会いたいから。
*注:ヤギは専門の羊使いの同伴のもと、安全/衛生/ヤギの健康面に細心の注意を払った上でご来場いただく予定です。ヤギの体調を最優先するため、登場は一瞬、もしくは中止になる可能性もあります。予めご了承ください。
さらには、こんな企画も進行中だ。
・会場では見たことのない言語が使用される。渡された予定表は一切読めないかもしれない。ひとときの異国情緒にぜひ困惑して欲しい。
・1741の日本の全「市区町村」の写真を展示する。つまりあなたがもし日本生まれなら、あなたの地元の景色が会場に必ず現れる。日本ってこんなに広かったっけと、ぜひ困惑して欲しい。
・登壇者が撮った旅の写真を特製ポストカードにして、物々交換で販売する。中東など、海外の市場では値札がついていないことも当たり前である。要らないものでもいいし、大切なものでもいい。何を払えばわからない、という悩みにぜひ困惑して欲しい。
・あの「地球の歩き方」に後援についていただいた。当日は歩き方のマニアックな読み方を語ったり、さらには編集部のサイン入り最新刊が当たるコーナーを実施予定。なんでガイドブックにサインがあるんだ?とぜひ困惑して欲しい。
チケットは観覧、配信ともにこちらから購入できます。(3/28追記:会場での観覧チケットは完売しました。配信チケットをこちらから引き続き販売中です。)
4月10日、ゲストにヤギを呼べたなら。
僕はおそらく、久しぶりの困惑に放り込まれるだろう。
そしたら繰り返すだけの日々が、ちょっとだけ変わる。かもしれない。
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追記:イベントについて登壇者の1人、Satoruさんとラジオ録りました。