オーストリア/ウィーン旧市街、知られざる最古の教会探索
日中の気温がマイナスの日は減ったものの、通りにはまだ雪が積もったままのウィーンです。
カトリックの国オーストリアの首都ウィーンの旧市街には、街のシンボルシュテファン大聖堂以外にも、20個以上の教会があります。1万7千人近くの住民に対し多すぎる気もするのですが、教会ごとに機能や宗派が異なり、上手く棲み分けができているようです。今日はそんな中からウィーン最古の教会を三つ、歴史を交えてご紹介します。
まずは、現存するウィーン最古の教会、ルプレヒト教会。噂には聞いていたのですが、実際見に行ってみると無骨で素朴な外観は、さすが最古の教会です。シナゴーグが立つユダヤ人の多い地域の小さな広場に、肩をそばめるようにしてひっそり建つ様子が、シンプルな外観とあいまって愛着を感じました。
ルプレヒト教会は、ウィーン最古の教会の名にふさわしく、ロマネスク様式からゴシック、バロック様式と建築の歴史をたどって増改築が繰り返されてきたため、建築としても非常に興味深い教会です。
創立は740年といわれるこの教会で現存している最古の部分は、ロマネスク様式の12世紀始めのものです。1276年のウィーン大火で教会のほとんどが焼け落ちた跡は、ゴシック様式に改築され、13,14世紀にも増築、改築を繰り返されています。1270年ごろから損傷を受けずに現存するウィーン最古のガラス窓もあり、歴史を感じさせます。
教会の側に立つ像
また、創立した宣教師がザルツブルク出身だったため、この教会は元々ザルツブルクと深い関係がありました。この近くにザルツカンマーグートから切り出された塩を輸送する船着場があった関係で、この建物は16から19世紀半ばまで、塩役場として使われていました。塩の専売特許性がなくなり、自由販売となったため、この建物は再び教会として使われるようになったという興味深い経緯があります。
この教会が建つ広場の路地裏も狭くて風情があります。
次は、ウィーンで二番目に古い、マリア・アム・ゲシュターデ教会のご紹介です。ウィーンに現存する数少ないゴシック様式の教会でもあり、近くから見ると、聳え立つ白い尖塔がとても美しく女性的です。この教会は「岸辺のマリア」という意味で、建設当時はルプレヒト教会と同じく、ドナウ河の支流(現在はドナウ運河として整備されている)の岸辺にあったことが、その名前の由来となっています。
女性的で優美なマリア・アム・ゲシュターデ教会
内部もゴシック様式が美しい。
この場所には元々9世紀ごろに木造の教会があり、14から15世紀の間にゴシック様式に建て直されたと言われています。その後、現在のドイツのパッサウ教区に属したり、19世紀のナポレオンのウィーン占拠の際には、ナポレオン軍の馬小屋として使われたりもしました。現在はレデンプトール修道会の所有で、ウィーンに住むフランス人やチェコ人コミュニティにもよく利用されています。
青空によく映える美しいマリア・アム・ゲシュターデ教会の尖塔
普通に町歩きをしていても目に付くことのない裏通りに突然聳え立つこの教会は、偶然発見した時にはとてもラッキーな気分がするかもしれません。入り口はサイドの分かりにくいところにありますが、是非中に入って、街中の隠れ家的静けさを味わってみてください。
今回最後にご紹介するのは、観光客でもよく目にすることのある、ペーター教会です。この教会を横目で見ながらグラーベンの通り過ぎている方がいらっしゃったら、是非一度中をのぞいてみることをお勧めします。現在建物自体はバロック様式で、外から見ると素通りしてしまいそうですが、内部は豪華絢爛で一見の価値ありです。
グラーベンからペーター教会を横目に。ちょうど馬車が走っていました。
比較的新しく見えるこの教会ですが、土台を調べてみると、4世紀まで遡ることができることから、ローマ時代にも教会があった可能性が高く、教会としては現存最古のルプレヒト教会よりも古いかもしれないといわれている教会です。
夜のライトアップされたペーター教会
この教会が文書に記されているのは12世紀で、カール大帝が創立したのではないかと言われています。現存するバロック様式の教会は18世紀になって建設され、場所の関係で非常にコンパクトな形ですが、巨大なドームに描かれた天井画がとても美しく、内部にいるととても広々と感じられます。
ライトアップされた教会内部でバロックコンサートを楽しむ
ここはよくバロック音楽のコンサート会場としても使われ、夜のライトアップも非常に美しいので、機会があれば是非中で音楽も聴いてみてくださいね。
というわけで、今回はウィーン旧市街の三つの最古の教会をご紹介しました。どれも、歴史を知らないと素通りしてしまうかもしれない教会ですが、是非一度中に入ってその建物の歴史や建築様式を味わってみてくださいね。
(2013年3月執筆)