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オーストリア/国立オペラ座裏の戦争記念碑

ウィーン観光の際には必ず何度も通る道筋の一つに、ヘルムート・ツィルク広場があります。国立オペラ座の裏手で、アルベルティーナ美術館の正面、反対側には歴史あるカフェ・モーツァルトがある、小さな三角形の広場です。

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アルベルティーナ美術館2階入り口から国立オペラ座の裏手を臨んで。

オペラ座から王宮方面に歩いていく場合は必ず通る道沿いですので、ウィーン観光の要の一つの広場ですが、この広場自体をあまりゆっくり見られた方はいらっしゃらないのではないでしょうか。

この広場は元々、すぐ傍にアルベルティーナ美術館があることからアルベルティーナ広場と呼ばれていましたが、2009年から有名な政治家の名前にちなんで、ヘルムート・ツィルク広場と呼ばれています。

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オペラ座裏手のアルベルティーナ美術館

この広場に立つ記念碑は、「戦争とファシズムへの戒めの記念碑」Mahnmal gegen Krieg und Faschismusと呼ばれ、ウィーンの名所の一つになっています。

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アウグスティーナ教会を背景に、手前の記念碑が「戦争とファシズムへの戒めの記念碑」。

普段は観光客や客待ちの馬車でにぎわっているこの広場。パッと見には、白いいくつかの石像が立っているだけのように見えますが、この謂れを知ると厳粛な気持ちになります。

元々この町の一等地には、フィリップホフPhilipphofという住宅(アパート群)が立っていましたが、1945年3月12日に第二次世界大戦の爆撃で全壊しました。地下室に避難していた何百人ともいわれる住人は全員死亡したと言われています。

この爆撃からしばらくして、この場所にナチの支配と戦争の悲劇を忘れないよう、記念碑が1989年にアルフレッド・フルドリチカにより創設されました。

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こちらが正面からみた記念碑。観光客のグループが立ち止まっています。

手前の一組の花崗岩の記念碑は「暴力の門」と呼ばれ、門の右側はナチスの迫害の被害者、左側は戦争の犠牲者を表しています。

この門の間から見え、奥でうずくまっているブロンズ像は、地面を這うユダヤ人を表しています。

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うずくまるユダヤ人の像。手前のパネルには「この記念碑はすべての戦争とファシスムの犠牲者に捧げられる」と書いてあります。

建設当初は賛否両論だったこの記念碑も、今では市民や観光客に受け入れられ、訪れる人もたくさんいます。

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このユダヤ人の像は元々、背中の有刺鉄線はなかったのですが、この記念碑群の謂れを知らない観光客が背中に腰掛けることが多かったため、彫刻家が有刺鉄線をあとから付け足したと言われています。

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この記念碑の横にも、客待ちの馬車がいます。

普段観光で訪れると気が付くことが少ないこの記念碑ですが、ふと立ち止まってこの場所で起きた爆撃とその被害者、第二次世界大戦前後のオーストリアでのナチスやユダヤ人の立場を考えると、感慨深いものがあります。

(2014年1月執筆)

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