はじめてのサックスをめぐる冒険(2)
(つづき)
さて、そんなわけでサックスを買った私ですが、そのまま1週間放置プレイ。封を開けてもおりませんでした。
なぜって、やはり、練習場所の問題があります。サックスは音が大きく、マンションなどの集合住宅で「ぷー」とでも吹こうものなら向こう三軒両隣まで響き渡ること間違いなし。一応、わが住居は公式に「楽器OK」なのですが、おそらく想定しているのは「ピアノ」程度であることは想像に難くありません。聞こえても上手きゃいいのかもしれませんが、初心者の下手な練習を毎日聴かされたらご近所はたまったもんじゃありません。ちなみに隣の棟の1階の方は、バイオリンを習っているようで、最初の頃はそりゃもう聞いちゃいられない騒音でした(最近は上達なさったようで、多少聴けるようにはなってきました)。
ああしかし、ここまで話したところで、私のココロの中の声が聞こえます。「貴様、だったらカラオケボックスでも練習スタジオでも行きゃいいじゃねえか。練習場所がないというのはウソだ、ごまかしだ」と。
はいすみません、そのとおりでございます。本当にやりたいのであれば、いかなる困難をも乗り越えられるのが人間という生き物。「惚れた女がやらせてくれると言えば、男は朝まで待つはずだ」と言ったのは立川談志師匠でありますが、そのとおり、サックスが吹きたくてしょうがないのであれば、私はケースを抱えてどこにでも行くはずであります。
まあ、結局のところ、「買ったはいいものの、なかなか吹く気持ちにならなかった」ということです。ただいまウィンドシンセサイザー「EWI4000s」も絶賛練習中でありまして、手が回らないということもありまして……。
正直、吹かずに売り飛ばすことも考えました。ただ、現状、貧乏ではあるもののそこまでお金には困っておらず、「サックスで『ダイターン3』を吹きたい、『スタージンガー』を吹きたい」という気持ちは大いにあるのです。
そこで「売り飛ばすことはいつでもできる、ここはがんばって、まずは『ぷー』と吹くことではないか」と自分を鼓舞し、やっとのことでサックスの箱を開け、プラスチック製のサックスをケースに詰め、意気揚々と私はヤマハに向かったのであります。
さて、私は現在、立川のヤマハでボーカルトレーニングを受けているわけですが(この件については別の機会に)、ヤマハでは空き教室がある時間帯は、30分500円で防音室を貸してくれるという素晴らしいシステムがあります。
「頼もう」
「はい、何でしょうか」
「ボーカルレッスンを受けているバーバラですが、教室貸してください」
というやりとりの後(一部、誇張あり)、1時間教室を借りました。
いよいよ自分のサックス初演奏であります。
えー、ちなみに、バーバラのサックス経験は、3ヶ月ほど前に「何か、サックスってかっこいいなー」と思って、ヤマハの体験コースに申込み、30分のお試しレッスンを受けたのが最初で最後であります。
正直、そんだけなら別にサックスを買うことはなかったと思うのですが、そこでたまたま、くわえてすぐ「ぷー」と音が出たんですね。
またそこで先生が上手でして。
「すごい! こんなに早く音が出た人は一人か二人しか知りませんよ」
と持ち上げたわけです。
当然、私は天より高く舞い上がり。
「私はサックスの才能があるんだーーーーー」
……はい、おめでたいとは思います。バカとも思います。
でも、それで金5万円也の需要が発生したのですから、ホント、経済って、バカによって成り立ってるんだなとしみじみ思いますわ。
話を戻しましょう。
さて自分のサックスの初演奏。
マウスピースにリードをセットし、マウスピースをネックに装着。そしてネックをサックス本体に装着。
さあ、吹きましょう、となったところで、
「ペキ」
と、実に不吉な音が……。
「ああああっ!!」
やってしまいました。
リードを欠かしてしまったのです……。
説明しよう。
「リード」とは、サックスの音を鳴らすための、葦を薄く削った板である。大変デリケートで壊れやすいが、ないとサックスは鳴らないという大事なものだ。取り替えはできるが、もちろんタダではない。
もう、いきなり、吹く前からリードを欠かしてしまって、私呆然。
欠けたリードで、音って鳴るものなのか……?
ままよ、と、息を吹き込んでみると、意外や、
「ぷー」
とすんなり音は出ました。
おおよかった!と安堵したのもつかの間、次の災難が待ち受けていたのであります……。
(つづく)