「レトロなハイソ感」~~広尾・廣尾湯
広尾――押しも押されぬセレブ感あふれる土地柄。
外国大使館などが建ち並ぶため欧米系外国人が集まり,またかつての大名,華族のお屋敷と跡地に建つマンション群…
とはいえ,この界隈は恵比寿から列なるれっきとした渋谷の下町でもございます。よって銭湯も健在。
「廣尾湯」。広尾でなくて廣尾を名乗るところに歴史を感じさせる。
大正7年,1918年創業。なんと105年目でいらっしゃる。
亡き父よりも長命とは恐れ入りました。
「廣尾湯」,いざ訪湯。
15時開店に10分ほど遅れる。
おや,下足札が1~6番ときれいになくなっている。
よって7番に入れてみる(笑)
入るとロビーで正面にフロント。
オシャレなマダム然とした女将さんがお出迎え。
脱衣所はビル銭のわりに天井が高く感じる。
そうそうここは下足札とロッカーキーを交換するタイプ。
ボクはリュックを背負っていたせいか,大き目のロッカーのキーをくださった。ありがたや。
脱衣所は竹を割いたような形状の床材を敷き詰めているので,
素足に気持ちがいい。
いざ浴室へ。おぉキレイだ。
床や壁のタイル,天井のペンキが白い。
白色の蛍光灯に照らされて一層輝く。
特に天井はペンキを塗り直してから日が浅い感じです。
あとで調べたら2017年リニューアルオープンでした。
この白い世界に青系濃淡のタイルが組み合わさり,
落ち着きと軽やかさを感じさせる。
おっと,お湯の話を…。
カランの数は22と中規模。
湯船は奥一列と向かって左に少し折り返している。
向かって左手から,「ジェットバス「(深)95cm」の表示。
奥左には「ジェットバス(座)65cm]。
中央に「気泡風呂65cm」。
一番右に「気泡風呂95cm」。
サイズ入りの表示は初めて。
95cmだともちろん中腰姿勢になるが,立ち膝姿勢も悪くない。
浮力が働くので中腰姿勢のようにふんばる力が必要なくて,むしろ楽々。
湯温は40~41℃とぬる風呂。ゆっくり浸かりながら浴室を見渡す。
タイル絵は頂きがうっすら冠雪しているヨーロッパ・アルプス風の連山。
手前に湖があり,湖畔には城が建つというクラシックな構図。
しかし,湖面に浮かぶのはヨットではない。
ウィンドサーフィン?でもなさそうだけど…意外とつくられた年代は新しいかもしれない。
そして女湯との仕切りにもタイル絵が2葉。
これがいい。クラシックカーとモダンガールの組み合わせ,さしずめ1920年代のニューヨーク,もしくはパリの香りが漂ってくる。
う~~ん,なんかこれぞ「THE廣尾湯」という感じ。
いまどきのデザイナーズ銭湯系のオサレ感とは一線を画す,
オジサン世代がイメージするハイソ感。
日本語にすれば「瀟洒」な感じ。
(瀟洒しょうしゃなんて言葉,何年ぶりに使ったろう)
さらに脱衣所と浴室を区切るガラスが透かし彫りになっている。
図柄は熱帯魚と…おぉ
片手で髪をかき上げて身体をくねらすポーズをとる妖艶な女性。
全裸?
体にフィットしたボディスーツを着ている?
これもいいなぁ…なんてボ~っとしていたら,予想外の事態。
「腹が減った」。昼食はしっかり食べてきたのに,気泡効果かすごい勢い。とりあえず脱衣所に撤退。水分補給。
ところが汗が止まらない。
ぬる湯と侮るなかれ,芯から温まっていた様子。
常連方も汗が引かぬせいか広くはない脱衣所に佇む方多し。
背後からいい感じにしわがれた話し声が聞こえてくる。
「で,お宅さんは何人(なにじん)なの?」
えっと振り返ると,日本人のベテラン氏と彫りの深い外国人氏。
「イラン人」。
へ~ぇ。
応えてベテラン氏。
「あぁ大変だねぇ,今。戦争だろ」
ちょちょっと,何を的外れなことを…
イラン氏,聞き流してくれる。
重ねてベテラン氏
「まぁあれだよ。可哀想なのは子どもたちだよなぁ」
おっと的を射ているではないですか。
失礼しました。
小賢しい知識よりも,人としてのハートが大事,
ちらっとそんなことを考えました。
さて,2回戦開始。
あっそうそう。桶が「廣尾湯」のロゴ入りでした。
そしていつもの1時間が経過。
ロビーに戻り,女将さんにお断りして男湯と女湯の暖簾を撮影させていただく。背後から「あらいいのよねぇ暖簾が」と大ベテランマダムから声をかけられました。
「そうですねぇ」と笑顔で会釈して廣尾湯を後にするのでした。
廣尾湯さん,ありがとうございます。いいお湯でした。