大女将さんに幸あれ~~町田・金森湯
町田…小田急線とJR横浜線が通る人口60万人の大都市ながら,
ボクはどこか田舎然としたイメージでいる。数年ぶりに降り立った。
目的は、金森湯。
ここも3月末にて廃業が決まっている。
バス乗り場に迷いいささかイライラしたが,
煙突が見えてきたら,スゥと忘れて気分が弾んでくる。
入ると番台の懐かしいスタイル。座るは大女将さん。
どこか老舗旅館の女将さん然とした品のよい声と物腰が美しい。
「どちらから」と尋ねられたので「新宿から来ました」と答えると,
上りしなにたくさんのお話をしていただけた。
でも,そちらは後にしてまずは入浴。
カランの数は19。洗い場はこじんまりしているが,湯舟が思いのほか広い。正面から左側へと弧を描く珍しい形。
右手から「深い湯(ミニクロン?)」「ボディマッサージ」「麦飯石風呂」「座風呂2種」などが並ぶ。
湯温は41℃前後と程よい。
ペンキ絵やタイル絵はないが,壁などのタイルには数枚おきに可愛い絵が入っている。
淡いクリーム色のタイルにはちょうちょ,淡い緑のタイルにはあやめかな?
午後4時開店と共にお客さんが押し寄せる。
大ベテラン勢にまじり,若者も。
ひときわガタイが良く,いかつい顔つきのあんちゃん二人組がいた。
風呂上りも何やら飲んだりしながら脱衣所に留まる。
そして…帰り際「これまでありがとうございました」と大きく挨拶,深々と頭を下げて出ていった。
大女将は「こちらこそ,ありがとうございました」と見送る。
ひょっとするとあの二人,
まだかわいいボンズの頃から通っていたクチなのかもしれないなぁ。
いい光景をみせてもらった
さらに大女将と常連さんの会話が聞こえてくる。
「どうして閉めちゃうのよぉ」
「もうトシなの♡」
人の出入りが落ち着いたころを見計らいお話をうかがってみた。
元は文京区の銭湯にいた。
「ちょうど,かぐや姫の「神田川」が流行っていましてね。本当に「窓の下には神田川」のところだったんですよぉ」
近くに印刷所などがあり,職工さんがたくさんやってきたそうだ。(職工さん,この言葉を耳にしたのは実に久しぶり)。
でも家賃を払っての営業だったので,
結婚を機に自分たちの銭湯を持ちたいと町田の銭湯を買い取る。
「1972年よ。そ~うしたらねぇ,道なんかこ~んなに細いし,まわりは一面の田んぼで,かえるなんて鳴いているのよぉ~」朗らかな声で懐かしむ。
当時は町田市内に11軒も銭湯があったそうだ。
「建て替えなんかもして頑張ってきたんですけどね…もう50年なんですよ」
―― 次から次へと語る大女将。
ボクが新宿から来たと聞いて,
町田へ越してきた当時のことをいろいろ思い出したのかもしれない。
「そうだ」とタオルをくださる。
「遠くからありがとうございました」
「お疲れさまでした」
さて,金森湯は4月からどうなるんだろう。
町田市内の銭湯は1軒だけになってしまうのは寂しい。
凛とした煙突をみると,
この建物がなくなってしまうのは本当に惜しいと思う。
どなたか営業を引き継ごうと思ってくださらないか。
大女将さんはどう過ごすんだろう。
50年なじんだこの地に留まられるのか,
思いで深い文京区に戻られるのか,いずれにせよ…
金森湯さん,ありがとうございます。いいお湯でした。
そして大女将さんに幸あれ。