阿吽の呼吸があったかい~~神楽坂・熱海湯
新宿神楽坂にある「熱海湯」。
JR飯田橋駅から坂を登れば左側の路地にある。
ボクは坂を下っていくのが好きなので,東京メトロ東西線の神楽坂駅か都営大江戸線の牛込神楽坂駅方面から行く。大抵は自転車で行くけれど,神楽坂周辺は路が狭いので路上駐輪はもってのほかです。
なぜ坂を下るのが好きか。それは・・・この眺めが好きだから。
入り組んだこの町にあって,ここだけは空が開けている。
背後のタワマンに負けじと凛として立つ熱海湯の煙突。
見るだけでこちらの背筋が伸びる。
さらに下って右手の階段を降りる。
この界隈は階段が多く,折れ曲がっている。
この先はどうなるのかとワクワク感を楽しみたい。
自然と歩みが遅れる・・・聞こえてきました。
カコーン,ザバァ~,カコーン・・・。風呂桶の響き。
誘われて進めば,熱海湯の脇に出る。
正面は彼の名高き堂々たる宮造りの建物。
たっぷり愛でたところで,中へ。
男湯女湯に分かれた暖簾をくぐればいきなり番台。
由緒正しい番台に女将さんが座っている。
広くはない脱衣所。
真四角な浴室へ。
手前はすべて洗い場。奥はすべて湯舟とシンプルな構造。
ペンキ絵は「富士と松原」。
下のタイル絵は「鯉と金魚」。
女湯との仕切りは「アルプス連峰」か。
湯舟は大小2つだけ。大は浅く小は深い。
ひざを曲げ中腰の姿勢か膝をついて背を伸ばすとちょうどいいくらい。
--このすべてのシンプルさがいい。懐かしい。
ボクが18歳になるまでお世話になった「西原湯」にとても似ているんだ。
マイ・リトルタウン渋谷区西原。西原湯は今はもうない。
カランの数は24。立ちシャワーが1つ。
大きな湯舟にはやさしめのジェットバスが2つ。
そして,熱海湯最大のポイントは「湯が熱い」こと。
浅い湯舟は42℃程度だが,深い方が「熱い」。
初めて浸かったときには驚いた。
湯温計がついていないけれど体感で44℃超。
ボクの銭湯巡りのなかでは蒲田温泉の黒湯,北区板橋・稲荷湯と双璧をなす都内屈指の「熱湯にして痛湯」。
足を入れた瞬間に飛び出す。
我慢しても半身入れてまた飛び出す。
全身浸かっても50数えることまでしかできずに飛び出す(笑)。
「神楽坂の衆,江戸っ子の皆さんには敵いません」と,
負けた気分にさせられた。
(ここから先は2022年8月の訪湯記)
さ~~て今日も一つお手合わせ願います。覚悟を決めて足をつける。
あれ?熱くない・・・浅い湯舟と同じ体感。
どうした,何があった熱海湯・・・
それでもいつもの1時間。ひたすら湯につかって脱衣所へ。
汗が止まらない。中庭を眺めたりしばし時を過ごす。
「いいお湯だったわぁ」と女湯から声が聞こえる。
ご婦人が番台の女将さんに声をかけて出ていった様子。
すると女将さんが「お待たせしました」とこちらの脱衣所に声をかける。
すっと一人の旦那さんが立ち上がり「お世話になりました」と出ていった。
そうか,熱海湯にはロビー(待合)がない。
ご夫婦で来られた常連さん,ご主人が早く上がって脱衣所で待つ,
奥様が出るところで,女将さんがご主人に声をかける。阿吽の呼吸。
きっともう長い年月くりかえされている一幕なんだろうなぁ。
なんだかとっても「あったかい」。
人の行き来が空いたところで女将さんに「お湯が熱くないわけ」をたずねてみた。すると「夏場はねぇ…」と意外な答え。
「どうしても湯を下げてくれってお客さんがふえるのよ」
「冬場は(ボイラー温?)70度くらいなんだけど夏場は60度くらいにしているんですよ」
「でもね,常連さんの中にはどうしても熱い湯じゃなきゃいやだって人もいて,そんなときはうちの人がちょっと上げたりもするんだけど」
「若い人の中には今の温度でも熱いって人もいたりね。人それぞれだからねぇ」
「お客さんはどうでした?」と尋ねてくれる。
「ちょうどいいけれど,熱いのも好きです」と答える。
「熱海湯」,神楽坂の地に何年根づいているんだろう。
女将さんの居ずまい,言葉の端々に感じられる,お客一人ひとりに向けられたあたたかさが,また人を呼ぶでしょうね。
「熱海湯」さん,ありがとうございます。いいお湯でした。
おまけ。
風呂上がりの乾いたのどを潤す。
そして,シェパーズパイ。これを食べられる店は珍しい。
出来立ての香りがものすごくよかった。
安くはないけれど土地柄を考えたらリーズナブル。
海外の小説の文庫本を読みながら,一人飲む。
気になった方は,神楽坂をぶらついてみてください。
煙突が眺められる駐車場と熱海湯の間にあります。
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