みるということ Vol.1
今年四月に入学した辻本実里さんは、
生まれつき目が全く見えません。
でも、後期からは、学生宿舎でひとり暮らしを始め、
キャンパスと宿舎を往来し、教室で授業を受けたり、
食堂でごはんを食べたりしています。
読書が好きな辻本さんは、もっぱら音声ではなく点字で
本を読むそうです。
本のデジタルデータを流し込むと、一行ずつ点字が
ぶつぶつ浮き上がってくる、点字ディスプレイ情報端末なるものが、
彼女の相棒。その端末で点字を読んでいる彼女の姿は、
まるで鍵盤の上で五本の指を自在に踊らせる
ピアニストのようです。
10万部を超えるロングセラーとなっている
『目の見えない人は世界をどう見ているのか』
(伊藤亜紗著 / 光文社 / 2015)によると、
点字を読んでいるとき、人の脳は視覚皮質野という
視覚を司る部分が発火しているそうです。
つまり、彼女は文字通り、指で見ているわけです。
本特集は、普段から辻本さんに寄り添い、学習・研究のサポートを
している障害学生支援室の特別支援コーディネータ、箕浦伸子さんと
附属図書館の永井が、彼女の目が見えないという特性に好奇心を
傾けながら、見るということの可能性に思いを馳せる座談会です。
「百聞は一見に如かず」といわれるように、
視覚偏重の社会に生きる私たちは、
今ウイルスという目に見えない存在に
怯えながら暮らしています。
視覚以外の感覚器官を総動員して生きている辻本さんの「視点」が、
そんな私たちに、もしかしたら、生きるヒントや自分でも
気づいていない身体の可能性についての示唆を与えてくれるかもしれない。そんな下心ももちながら、色々と遠慮のない質問をぶつけた
座談会となりました。ぜひご覧ください。
「みるということ」オンライン座談会 目次
|0| 辻本実里さんという人
|1| 好きな色は、ピンク
|2| 触れて、見る
|3| 一聴き惚れ
|4| はじめての一人暮らし
座談会メンバー
プロフィール
辻本実里さん
修士課程障害科学コース1年。先天性全盲として生まれ、幼稚園から高校まで視覚特別支援学校で学ぶ。大阪音楽大学声楽科を卒業後、特別支援学校の音楽教員になることをめざし、2020年4月に兵庫教育大学大学院に進学。趣味は、読書とアニメ鑑賞。
参考にした本
『目の見えない人は世界をどう見ているのか』
(伊藤亜紗著 / 光文社 / 2015)