みるということ Vol.4
一聴きぼれ
(永)辻本さんは、音楽大学で声楽を専攻されていたそうですね。
(辻)はい。盲学校(高校)のときに音楽科を選択して、3年間声楽を専攻しました。それから、大阪音楽大学に入学して、そこでも声楽を専攻しました。
(永)歌がお好きなんですね。
(辻)はい、とても。
(箕)どんな歌がお好きなんですか?
(辻)クラシックの声楽を専攻していました。オペラが好きですが、動きの激しいものはなかなか難しいので、私はあまり動きのない曲を多くやってきました。日本語だけじゃなくて、イタリア語とかドイツ語、あと、とても難しかったんですけどフランス語にも、大学時代は挑戦しました。
(永)何か印象に残ってるエピソードとかありますか。
(辻)舞台には、ほんとにたくさん立たせていただいて、全部印象深いんですけど、中でも印象に残っているのが、去年大学4回生の時に、奈良県の視覚支援学校で歌を披露させていただいたことですね。視覚支援学校って、視覚障害の方だけじゃなく、知的障害の方や肢体不自由の方、重複障害の方も多いんですけど、そういう人たちも私の音楽に静かに耳を傾けてくれたことがすごく印象的でうれしかったです。
(箕)音楽以外に趣味とかあるんですか?
(辻)そうですね。全然声楽から外れてしまうんですけど、趣味は映画とか読書です。一番好きなのはアニメを見ることですね。
(永)アニメの音声を楽しむということですか。
(辻)そうですね。
(永)ちょっと話逸れるんですけど、数年前に大学職員研修でディズニーランドに行って、現地スタッフにインタビューしたことがあるんです。「今までで一番印象に残ったことは何ですか」と聞いたら、全盲のお客さんの一行を案内したときのことを話されたんですよ。そのなかの一人が突然カメラを差し出してきて、今見えている風景を写真に撮ってほしいって言われたそうなんです。それが一番印象に残ってるって。
その話を聞きながら、どうしてかわからないけど、胸がじーんとなったことを覚えています。
表現は悪いかもしれませんが、目が見えないのにカメラで写真を撮るっていう行為は何を意味するんだろうと思って。帰りの新幹線で、色々想像を膨らませました。例えば、写真を現像して、誰か家族の人とか友達に、自分が行った空間がこんなところだったと言葉で説明を受けながら、もう1回ディズニーランドを楽しむみたいな、そういうことをしてるのかなとか。アニメがお好きという話ですけど、例えば目が見えてる人と一緒に、言葉で説明を受けながら楽しむとか、そういうこともされたりしますか。
(辻)そうですね。ドラマを見るときなんかはあります。登場人物を声で覚えるというのは苦労するんですけど、例えば今誰がしゃべってるとか、何をしてるとか、状況の説明を目の見える人から受けることがあります。でも、最近はドラマにしてもアニメにしても映画にしても、副音声が付いてることが多いので、結構そっちに頼ってますね。
(永)副音声というのは、視覚障害者の方に状況を解説するような機能ですか。
(辻)そうですね。音声ガイドです。
(永)なるほど。ちなみに、目の見える人は一目見ただけで好きになってしまう「一目惚れ」という現象がありますけど、辻本さんの場合は、たとえば俳優の声で聴き惚れるということはありますか?
(辻)割とあります。「一聴きぼれ」ってやつですね。
(永)初ワードです。でも、箕浦さん、僕らもありますよね。声のきれいな人に惹かれることは。
(箕)ありますね。辻本さんは、声で性格とかもわかったりするんですか。
(辻)イメージはしますね。
(箕)初対面でも。
(辻)はい。結構第一印象強いかもしれない。
(箕)なるほど。
「みるということ」オンライン座談会 目次
|0| 辻本実里さんという人
|1| 好きな色は、ピンク
|2| 触れて、見る
|3| 一聴き惚れ
|4| はじめての一人暮らし
座談会メンバー