甘夏の肉離れ、410字、毎週ショートショートnote
「なんだか、ふわりとした感じがする…」
甘夏の果肉たちは、薄皮から少しずつ離れていく感覚を楽しみ始めた。
甘夏は、魔改造されていた。
果肉が薄皮から離れることで、食べやすくなっていた。
果肉たちは、今まで感じたことのない甘さと鮮やかさの広がりを覚えた。
新品種の甘夏として、期待を一身に背負って市場に送り出された。果肉が薄皮から離れていることで、消費者はより簡単に果肉を取り出せると考えられ、販売前から大きな話題となっていた。
「この甘夏は、まるで一房一房が独立しているように口の中で広がるんだ。すごい発明だよ!」
農場主も誇らしげに笑顔を見せた。
消費者たちは興味津々でその新品種を購入し、家で皮を剥いて食べてみた。
「なんだこれ…果汁が全部溢れ出して、口の中で味わう前に終わっちゃった!」
「手もべたべたになるし、ちょっと食べづらいな…」
期待が大きかった分、その不満もまた大きかった。
甘夏の肉離れは、市場に受け入れられなかった。