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身近な偉人を紹介する「偉人ゲーム」を開発して遊んでみる実験
おたまじゃくし研究所では、ハーモニーのあるコミュニケーションを実現するために、人間同士の話し合いデータを研究しています! note では、話し合いの研究成果や分析方法を公開しています。なお、話し合いの計測には、分析機能付きのWeb会議システム Hylable を使っています。
※ 普段、研究論文ばかり書いているので気を抜くと文章が堅くなりますが、わかりやすくなるようにがんばります。
スキやコメントなどお待ちしています!
あなたの身近に偉人は居ますか?
偉人と聞くと皆さんは誰を思い浮かべますか?
坂本龍馬、アインシュタイン、リンカーンなどの世界的・全国的に有名な人物を挙げる方が多いでしょう。しかし、「あなたの身近な偉人」はどうでしょうか?おたまじゃくし研究所メンバーは身近な偉人を紹介し合うために、「偉人ゲーム」を作りました。
偉人ゲーム
「偉人ゲーム」のルール
* 次の条件を満たす偉人を一人紹介する。
1. その偉人は存命である
2. その偉人と自分が、お互いに個人を認識している
3. その偉人は本を出版していない(論文や雑誌はOK)
5分プレゼン・3分ディスカッションを行った後、最も会ってみたいと思う偉人に投票し、チャンプ偉人を紹介した人が優勝。
本記事では、おたま研メンバーがプレゼンした「身近な偉人」を紹介した後に、対話データを使って偉人ゲームとプレゼンを分析します!
おたま研の身近な偉人とは?
今回の記事で取り上げる偉人は、井上研究員と仲山研究員が紹介した偉人です。(取り上げた2名以外が紹介した偉人は本記事の最後でまとめます!)
井上研究員の身近な偉人(Hさん)
井上研究員が紹介した「身近な偉人」は大企業の会長まで務めたHさんです。
井上研究員とHさんが直接知り合ったのは、井上研究員が学生時代にHさんに連載記事のインタビューをしたときに、"とあること"で相談したことがきっかけです。
その "とあること" とは、井上研究員が学生時代に設立した会社(株式会社リバネス)についてです。その時、Hさんはすでにアメリカでベンチャー企業を立ち上げていました。そのため井上研究員は事業への応援が少ない中でも、ベンチャー企業の立ち上げ経験があるHさんは起業を応援して貰えると期待していました。しかし、そんな井上研究員の予想に反して、Hさんは「なんじゃそりゃ、そんなの5年も持たないよ。」と言い放ったそうです。
ただ、その後はたくさんの応援をいただけたそうです。
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それから約20年後、会長職を退任した後にHさんは、なんとリバネスの関連企業の取締役に就任されました。今では井上研究員と一緒に仕事をされています。
以前までの会長としての仕事と比較して、Hさんは井上研究員に「今の会社ではイノベーティブな活動しかしていない」と楽しそうに語ったそうです。
(就任の際には「あの時は5年でつぶれるって言って、ごめんね、すごいことだよ!」とさらに応援いただいたとのこと)
また、井上研究員がHさんを尊敬している点として、
・企業に長年務めている人でもなかなか達成が難しい、0からプロダクトを上市するという経験(特にその上市が非常に難しいとされている分野)を何度もしている点
・最初は研究員というキャリアからスタートし、海外でベンチャー企業を立ち上げ、そして大企業の経営者と様々な分野で活躍している点
を挙げていました。また研究者であり経営者でもある大先輩として相談できる親父のような存在でもあると話していました。
最後に井上研究員は「Hさんのようにしっかり研究と経営をしたのちに、イノベーティブな活動ができる姿」を自身の目指す姿だと結論づけました。
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以前、おたま研で行ったビブリオバトルでのプレゼン同様、終了時間ちょうどでプレゼンを終えた井上研究員。井上研究員のプレゼン能力とHさんの魅力に惹きつけられるようなプレゼンでした。
仲山研究員の身近な偉人(Kさん)
仲山研究員が紹介した「身近な偉人」は米屋のKさんです。
仲山研究員がKさんを知った当時(2000年頃)、Kさんは広島で米屋をしていて60歳をすでに超えていました。また、息子がいましたが跡継ぎをさせる気もなく、自分の代で米屋を終えようと考えていました。
そんな中、テレビで通販サイト(楽天市場)が紹介されているのを見かけ、すぐに楽天市場でコメ販売のネットショップを開きました。
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半年経っても売上は上がりません。当然、最初は上手く行きませんでした。しかし、「お客さんとメールでやりとりするのは楽しいから」と続けているといつしか月商100万円に。どんどん商売が楽しくなってきたため、Kさんは若い人に囲まれながらも楽天大学の合宿に行きました。
その結果、さらに注文が入るようになり、ひと月に400件もの注文が来るようになりました。60代の夫婦ではそのような大量の注文に対応できず、クレームの嵐に。そんな様子を見て、もともと米屋を継がず東京で就職していた息子さんが地元に戻ることをKさんに伝え、無事商売を続けることができました。
後日、詳しい話を聞くと息子さんは「電話口の父の声がどんどん楽しそうになったので、戻っても良いと思った」と答えたそうです。
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角研究員「語り口が良いね!何回も話してるエピソードでしょ!笑」
Kさんについて仲山研究員がまとめたYouTube動画もありますので、ぜひご覧になってください!
水本所長・長尾研究員・角研究員の「身近な偉人」
この3名の身近な偉人は記事最後のおまけでまとめました。
ぜひ最後まで読んでください!
投票
それでは、投票結果を見ていきましょう。
井上研究員が紹介したHさん
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仲山研究員が紹介したKさん
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ということで、偉人ゲームの優勝者は、米家Kさんを紹介し、3票獲得した仲山研究員でした!
米家Kさんが持つ素朴な人柄や実際のHPなどを紹介することで、聴衆の興味をかなり惹きつけることができたように思えます。次章以降では ”Hylable Adapter for Zoom”を使い、優勝した仲山研究員のプレゼンを分析します。
データで見る偉人ゲーム
今回のデータを分析していくと、仲山研究員のプレゼンにおいて、他のプレゼンターと比べて発話量の相関係数に独特な特徴が見られました。この特徴をピックアップし、詳細を見ていきます。
発話量の相関係数
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本記事における発話量の相関係数の関係は表1に示しています。
相関係数が1に近づく場合(正の相関):プレゼンターと聴衆の発話量が同じタイミングで増減する場合。
相関係数が-1に近づく場合(負の相関): 一方の発話量が増えると、もう一方が減るといった逆の動きが見られる場合。
プレゼン中の特徴:相関が無い
![](https://assets.st-note.com/img/1727336526-ew4VvnZhXf5LxYSdus0K2rcm.png?width=1200)
(仲山研究に投票した人は水色・井上研究に投票した人はオレンジ)
表2はプレゼン中のプレゼンターと聴衆の発話量の相関係数を示しています。プレゼンタと全体(聴衆の発話量の平均)の相関係数を見ると負の相関係数であることが多いです。これは一般的にプレゼン中はプレゼンターが発言中は聴衆が黙っているからです。
対して、仲山研究員のプレゼンでは、相関係数が0.044と「ほとんど相関が無い」ことがわかります。これは、プレゼンターの発話と聴衆の反応が特定のパターンに従っておらず、正の相関も負の相関も見られないということです。これが、どのようにして生じたのかを、まずは最も負の相関が強かった水本所長のグラフと比較して分析していきましょう。
![](https://assets.st-note.com/img/1727336943-xkaTlGUM92WP1XOsZoChizQA.png?width=1200)
図1の矢印で示している通り、水本所長のプレゼン中では、プレゼンターと聴衆の間で掛け合いがほとんど無く、聴衆の反応があったとしても全体の相関としては負のままです。これは一般的なプレゼンの形式であり、プレゼンターが話すときは聴衆は黙り、反応が終わるとプレゼンターが再び話し始める、というパターンです。
対して、仲山研究員のプレゼンには、聴衆全体との発話量の相関が見られないことが表2からわかります。ここで「相関が無い」というのは、正でも負でもなく、聴衆の反応とプレゼンターの発話が一致しないことを意味しています。そんな仲山研究員のプレゼン中のグラフを見ていきましょう。
![](https://assets.st-note.com/img/1727336959-EoyLDUVBmM6rhQXp4IaxTbYz.png?width=1200)
図2から仲山研究員のプレゼンには特徴が2つあることが分かります。
① プレゼンターの発話量に波が多い:発話量の上下が頻繁に発生し、変動が大きい。
② 同時に盛り上がる部分とそうでない部分がある:発話量の正の相関が見られる部分と、負の相関が見られる部分が混在している。
これらの特徴から、仲山研究員のプレゼンは一貫した相関が見られず、相手の反応に合わせて変化していることがわかります。このことは、仲山研究員の発表には独自の工夫があることを示唆しています。
工夫1 適度に間を上手く使う:約30秒ごとに意図的に間を取り、聴衆に考える時間を与えている可能性がある。
工夫2 相手の反応を聞きながらプレゼンを進める:聴衆の反応に応じて、プレゼンのスピードや発話量を調整していると考えられる。
質疑応答の特徴:中程度の負の相関
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(仲山研究に投票した人は水色・井上研究に投票した人はオレンジ)
表3は質疑応答中におけるプレゼンターと聴衆の発話量の相関係数を示しています。プレゼンターと聴衆全体(発話量の平均)の相関係数を見ると、強い負の相関が見られることが分かります。これは、質疑応答では、質問者が発言している間はプレゼンターが黙り、プレゼンターが発言している間は聴衆が黙っているという、自然な発話の交代があるためです。
具体的な例として、井上研究員の質疑応答に注目してみましょう。
![](https://assets.st-note.com/img/1727336972-lui7YaZOALJDFB9K6wE1pgGm.png?width=1200)
図3の矢印で示している部分は聴衆(角研究員)からの質問によって話者交代が起きている場面です。話者交代時の発話量を詳しく見ると、プレゼンター(濃い青)が質問を受けている間は発話量が下がりはじめ、質問(水色)が終わると発話量が上がり始めます。その結果、井上研究員の質疑応答において井上研究員とメインの質問者(角研究員)の間には-0.76と非常に強い負の相関があります(仲山研究員以外のプレゼンターの平均は-0.733)。
対して、表3の通り仲山研究員の質疑応答中は聴衆全体に対して中程度の負の相関がありました。これがどのようにして生じたのか、仲山研究員の質疑応答のグラフを見て、その理由を探ってみましょう。
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図4の黒の矢印で示している通り、井上研究員のグラフ(図3)と同じように、仲山研究員の質疑応答中も質問者とプレゼンターの話者交代が発生しています。しかし、赤字の「?」で示した部分が、仲山研究員のグラフにおいて非常に特徴的な部分です。その部分を詳しく見ていきましょう。
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図5から仲山研究員の質疑応答の特徴として、プレゼンターがテーマを提供することで聴衆同士で議論が盛り上がっている場面が多いことが挙げられます。点線で囲われている部分では、プレゼンター(緑)の発話量がゼロにまで下がっています。
180秒以降での話のテーマは「大量注文による初パンク」についてです。
仲山研究員「大量注文に落とし穴があると思っていないし、知っててもまさかパンクすると思っていないんですよ」
角研究員「分かるなあ」
井上研究員「全く持って分かります。逆に想定しすぎて在庫余らせちゃったりね。」
角研究員「そういうのもあるね。特に発送業務は人を育てる必要もあるしね。」
長尾研究員「でもパンクをすると会社が育つんだよね。」
井上・角研究員「そうそう」
このテーマは起業の経験が豊富なおたま研メンバーにとって共感を呼びやすいテーマだったと考えられます。このような議論の中で聴衆の発言が共感を呼び、連鎖的に意見が交わされる議論へと発展しています。(意図的かは分かりませんが)議論の間にプレゼンターが沈黙し、聴衆同士の議論を促しています。
このように、プレゼンターが積極的に介入せず聴衆同士の対話を促すことで、プレゼンへの共感・興味が高まり、投票へ繋がったと考えられます。
このように赤字の「?」で示した部分の後もプレゼンターの発言の間に2名以上の聴衆の発話があります。ここからプレゼンターが話をしなくても、聴衆同士の対話が活発に行われていることが伺えます。
仲山研究員の質疑応答では、プレゼンターが聴衆に混ざりながら発言していたため、他のプレゼンターに比べて発話量の負の相関が弱いことが特徴的です。特に、プレゼンターが発言する時間が相対的に短く、聴衆同士が自由に議論できる空間が作られていたことが、この特徴を生じさせた大きな理由だと考えられます。
まとめ
今回は身近な偉人を紹介する「偉人ゲーム」を作って遊んでみました。
様々なバックグラウンドを持つ、おたま研ならではの偉人が紹介されました。優勝した仲山研究員のプレゼンを分析すると、プレゼンターが主導権を握り続けないプレゼンが良いプレゼンである可能性が示唆されました。
プレゼンというと伝えたいことを伝えきるために、情報量が多くなりがちですが、聴衆が知りたいこと・興味のあることを適切に伝えることがよりよいプレゼンになるかも知れませんね。おまけでは本編で紹介しきれなかった他の研究員が紹介してくれた「身近な偉人」を紹介しています。是非ご覧ください!
おまけ
長尾研究員の「身近な偉人」
長尾研究員が紹介した「身近な偉人」は元プロサッカー選手・監督のKさん
元プロサッカー選手で、現在もサッカーを指導している
営業の仕事をさぼって、公園で子どもにサッカーを教えていたことがきっかけでジュニアチームの監督になった
監督として日本初男女2チームを降格させてしまった経験がある
水本所長の「身近な偉人」
水本所長が紹介した「身近な偉人」は大学時代の後輩であったOさん
大学の研究室の一つ下の後輩で、すごく優秀かつイイ奴
国内有数の機械学習に関する研究所に務めていてハイラブルでやっていることと似ていることを研究している
自身の謙虚さを失わないための戒めとして常に意識している
角研究員の「身近な偉人」
角研究員が紹介した「身近な偉人」は公務員時代の先輩であったSさん
民生局の先輩で人生でもトップレベルでハードな障害福祉の仕事をしているときに出会った
自分が考えたことは既に先回りして考えていた
スーパー公務員とはこの人だと思う