オンライン飲み会実験の分析でわかった不都合な結果
おたまじゃくし研究所では、ハーモニーのあるコミュニケーションを実現するために、人間同士の話し合いデータを研究しています! note では、話し合いの研究成果や分析方法を公開しています。なお、話し合いの計測には、分析機能付きのWeb会議システム Hylable を使っています。
※ 普段、研究論文ばかり書いているので気を抜くと文章が堅くなりますが、今回はそのまま堅くしています!
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オンライン飲み会を実験しよう!
今回は、オンライン飲み会の実験を分析していきます。最近は、オンラインで飲み会を行う機会が多くなっていました。ウィキペディアでページができるほど広く知られているようです。
そこではどんなコミュニケーションが行われているのでしょうか。それを調べるために、おたまじゃくし研究所の研究員自身がオンラインの飲み会を行い、そのデータを分析しました。
参加したのはレギュラーメンバーの水本所長、井上研究員、仲山研究員、長尾研究員、角研究員、柳楽研究員の6名でした。
実験条件:アルコールは飲むたびに申告
飲み会の会話は Hylable で自動的に計測されますが、アルコールの進み具合の計測には工夫が必要です。
そこで、各研究員の飲酒量を計測することにしました。使ったのは、サントリーの提供している酔いの程度判定ツールです。体重と飲んだお酒の種類を入力すると、アルコール血中濃度が計算できます。これを使って、飲み会をしながらアルコールを計測します。アルコール血中濃度ごとに「爽快期」「ほろ酔い期」「酩酊期」などがわかるので便利なツールです。
後で分析できるように、研究員たちは雑談しながらも、缶を飲むたびに申告するルールとしました。所長は、研究員の名前と飲み終わった時刻を次の図のように Google Spreadsheet に記録します。(Alc はアルコール量)
所長「ところで柳楽研究員、今飲み終わりましたね?」
どれだけ話が盛り上がっていても、飲んだ様子を見つけたら確認するように気をつけていました。
こうして、2時間のオンライン飲み会実験のデータを収集しました。
データ分析:アルコールの進み具合
まずは、アルコール血中濃度の変化を見ていきましょう。
実験では缶を飲み終わった時刻だけを記録したので、その時刻のアルコール血中濃度しかわかりません。そこで、それ以外の時間では、記録した時刻を直線でつなぐ線形補間で予測します。
次の図がアルコール血中濃度の変化を積み上げグラフで示したものです。
みんなだいたい同じペースでアルコールを摂取しており、最終的には全員が「ほろ酔い期」に入り、「酩酊期」に入った研究員はいませんでした。ただし長尾研究員はアルコール摂取をしなかったので0%を維持しました。
ここのデータから、飲み会はだれも泥酔せず順調に進んでいたことが確認できました。
データ分析:話がだんだん長くなる
次は会話のパターンを分析していきます。
下の図が会話のパターンをグラフで表示したものです。横軸が時刻で、縦軸が発話量を表しており、話した量は積み上げグラフで表示しています。言い換えると、見える面積が大きい人は、その時間に多く話している、ということを表します。
このあたりを詳しく知りたい人は過去の分析記事をご覧ください。
この図を見ると、この飲み会は前半と後半で様子が大きく異なっています。前半は狭い面積の色が入り乱れている一方で、後半に行くにつれて、色の面積が大きくなっているからです。つまり、「一人あたりの話す時間が伸びている」という可能性があることが分かってきました。
話の長さは3倍に伸びていた!
これを定量的に確かめるために、会話パターンから、一回あたりの発話時間を計算し、「一人あたりの話の長さがどれだけに増えているのか?」を計算したのが下の図です。
前半は平均1分程度ですが、後半は平均3分程度伸びていました。
このことから、この飲み会では「会話が進むにつれて一人あたりの話が長くなっており、後半では約3倍になった」ということがわかります。
内容分析:何を話していたの?
定量データから全体像が分かったので、次は内容を振り返りながら、それぞれの時間帯でどんな会話をしていたのかを調べていきます。
[前半] まずはジャブ:法事と住環境とヒゲ
実は研究所のメンバーで飲み会をしたのはこれが初めてだったので、最初はそれぞれのパーソナリティを知る質問や自己紹介から始まりました。特に冒頭の30分は法事の事情について大変盛り上がり、次第に各自の住んでいる場所や、周辺のSNS映えする景色、ヒゲの処理に話題が移っていきました。
このことから、「前半の短い発話がやり取りされているのは、互いの理解を深めるためのジャブのような会話によってターンテイクが多く発生していたから」だということがわかりました。
[後半] だんだん話が深くなっていく
時間が進むにつれて、各研究員の話がだんだん深く長くなっていきます。
井上研究員 仕事場と住居の話
角研究員 自宅近くにある古墳の話
仲山研究員 自宅の近くのきれいな景色の話
長尾研究員 仕事場とヒグチアイさんの話
ここでは、明確に話し手と聞き手に分かれて、各研究員の話をじっくり聞くように会話のパターンが移っていきました。
このことから、「後半の面積が大きくなっているのは、各研究員が深いまとまった話をしていたから」だということがわかりました。
考察: その場の関係性から生みだされる会話パターン
実はこの2時間の飲み会では話題が大きく飛ぶことがなく、それまでに出た文脈から連想した話題だけで会話が進んでいきました。前半では連想ゲームのように少しずつ話をずらしながら色々な話題を生成していき、その場にの関係性や既成事実を積み重ねました。そして、後半では、それまでに形成された関係性の上で深い話をしていました。
後半の各研究員の話の長さがほぼ一定であることも、「この人がこれぐらいのエピソードを話したから自分も同じぐらいで話そう」というように、その場に合わせた会話パターンがその場で形成されたのだと推測できます。
(この考察の出典:おたまじゃくし研究所の研究ミーティングでの議論)
[後半] ところで誰か足りなくない?
後半の図をもう一度よく見ると、水本所長と柳楽研究員の面積が小さいままです。内容を確認すると、彼らは後半ではほぼ聞き役に回っていました。
このことをさらに定量的に調べるために、会話を主導していた時間をヒートマップにしました。下の図は、横軸が時間、各マスがその時間帯での発話量を色で表しています。色が白くなるほど長く話していたことを表します。
ここで注目するのはピンク色で囲った後半です。色の白いマスが井上→角→仲山→長尾→角と明確に主役が移っていて、水本・柳楽の2名は色が暗い、つまり話している量が少ないこと浮き彫りになりました。とくに柳楽研究員は後半に行くにつれて真っ暗になっています。この2名はいずれも年齢が30代前半〜中盤で、今回の中では年齢が低いグループに属しています。
まとめ:おじさんの話は飲み会が深くなると長くなる
以上の分析から、この飲み会では
・アルコールはほろ酔い程度だけ飲んでいた。
・前半は短い会話のやり取りで互いのことを理解し、
後半はより深く長い話をしていた。
・後半では年齢の低いの研究員は聞き役に回っていた。
ということがわかりました。これは、お酒を飲まなかった長尾研究員も同じ傾向なので、酔っ払ったからというわけではなさそうです。
飲み会を平和にするプロジェクト「チームビールディング」でも、年齢や立場による行動の違いが指摘されています。こちらの記事では、アンケートによると上司と部下の会話量の割合は、上司と部下でズレているようです。
さらに、自分の話をすると脳で快楽物質が出るようで、話していると楽しくなってくる性質がヒトにはあるようです。
おたまじゃくし研究所の場合は?
では、おたま研の場合は、上の記事のようにつまらない話をみんなはじっと聞かされていたのでしょうか。
後半のパターンを見ると、これは否定されます。話し手以外の色も常に見える、つまり聞き役も会話に参加しているからです。言い換えると、延々と話しているのをじっと聞いていたのではなく、誰かの話を笑ったり質問したり、合いの手を入れたりしながら楽しく聞いていた、ということが見て取れます。楽しく話を聞く飲み会もいいものですね。
自分たちのオンライン飲み会も定量的に分析がしたい!と思ったら、当研究所までお気軽にお問い合わせください。
執筆:水本武志