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醤油と砂糖の力は偉大
先日、岡山に出張に行ってきた。
どうでもいいことだが、僕は飛行機や新幹線なんかの長距離移動中は食事なんかはせずに眠ったり本を読んでいたりしたいタイプの人間である。
狭くてガタガタ揺れるから落ち着かないし、飛行機の機内食はまずいし。
てなわけで、なるべく新幹線の中では飯を食わずに済ませたかったのだが、ちょうど移動が昼食時にかかっているうえ、岡山に着いたらすぐに仕事に取り掛からなければならない。
まあ東京から岡山までの道のりは4時間もある。赤ん坊じゃあるまいし、その間ずっと寝ているというのもちょっと無理がある。そもそも空きっ腹では寝ようにも寝られなかろう。
自分のポリシーを曲げることになってしまうが、新幹線の中で食事を済ませるほかないという結論に達し、東京駅で駅弁を買うことにした。
数多くの選択肢の中から僕が選んだ駅弁は深川めしである。新幹線が出発するまであまり時間がなかったので、目に留まった弁当を直感で選んだ。
いくら直感で選んだとはいえ、若い頃だったら焼肉弁当とかハンバーグ弁当とかもうちょいパンチの効いた弁当を選んでたろうな、深川めしっていかにも年寄りくせえなと、左手にぶら下げた深川めしの袋の軽さを感じながら思ったものである。
そんな感じで大して期待もせずに食べた深川めしだったが、食べてみるとなかなか美味いものだった。
あとで調べてみると、一口に深川めしと言っても調理法にいくつかのバリエーションがあるようだが、僕が食べた深川めしは醤油と砂糖で甘辛く煮たアサリの入った炊き込みご飯であった。
アサリそのものの旨味と、ほどよい甘辛さの煮汁が染み込んだご飯に箸がすすみ、新幹線に乗っていることも忘れてあっという間に完食してしまった。
ついさっきまで貫いていたポリシーの存在すら忘れてしまい、結局美味いものはどこで食べても美味いんだなという身も蓋もない結論に達したわけである。
他方で、結局なんでも醤油と砂糖で煮詰めたらなんだって美味いんじゃね?というこれもまた身も蓋もない感想が去来したのもまた事実である。
僕の好物であるすき焼きも、豚の角煮もうなぎの蒲焼き、あるいはザラメせんべいなんかも結局は素材そのものというよりも醤油と砂糖の力によるところが大きいのではないか。
ことによると、醤油と砂糖で煮詰めてもまずくて食べられないものを探す方が逆に難しいのかもしれない。実際、輪ゴムとか蝉の抜け殻くらいまでならなんとか食べられるような気がしないでもない。