こちら、日向坂探偵局! File.03「転校生はつらいよ~前編」
自室の姿見の前で新しい制服に袖を通す。
ネクタイを結び、ブレザーを羽織る。
◯◯:よし
2018年4月9日。
春休みが終わり、今日から新学期が始まる。
1階に降り、リビングに向かう。
◯◯:菜緒おはよう
菜緒:おはよーさん。よぉ似おてるやん♪
日向坂高校の制服は、男子はブレザー、女子はセーラー服となっている。
菜緒:ウチの制服姿、どない?
菜緒のセーラー服姿、なかなかにかわいい。
◯◯:ま、いいんじゃない?///
菜緒:照れたん?
◯◯:照れてないっ
菜緒:気持ちわる~
◯◯:なんでだよ
愛萌:ふたりとも座って下さーい。朝ごはん出来ましたよー
菜緒・◯◯:はーい
愛萌さんのつくってくれた世界一おいしい朝ごはんを食べ、菜緒と一緒に日向坂高校に登校した。
※
◯◯:じゃあ僕、職員室行くから
菜緒:うん。ほな教室でな
昇降口で菜緒と別れ、職員室に向かう。
入口で名乗り、
◯◯:若森先生いらっしゃいますか?
若森:おっ。佐々木来たか
◯◯:若森先生ですか?
若森:はじめまして。若森正人だ。よろしくな
担当は国語らしい。
若森:そろそろホームルーム始まるから教室に行こうか
◯◯:はい
2年B組の扉横で待機する。
日向坂高校は進級してもクラス替えが無いらしい。
扉越しに若森先生の声が聞こえる。
若森:新学期早々転校生が来たぞー。じゃあ佐々木、入って来てくれってぇ
教壇の前に立ち、自己紹介する。
◯◯:佐々木◯◯です。よろしくお願いします
若森:趣味とか無いのか?
◯◯:趣味は読書です
若森:「ナナメの夕暮れ」って本がオススメだから読んでみてくれ!あと関係無いけど土曜日のオールナイトニッポンも聴いてちょーだいな
◯◯:は、はい
若森:じゃあ席は…小坂の隣が空いてるな
よりによって…
◯◯:分かりました
若森:小坂の親戚らしいからちょうどいいな
菜緒の家に住んでいる理由付けとして、おじいちゃんと尚蔵さんの工作により、表向きは菜緒の親戚ということにしてある。
菜緒の親戚と聞いてクラスがざわついた。
菜緒:よろしくな◯◯
菜緒はいたずらっぽく笑んでいる。
◯◯:家にいるのと変わんねぇな
若森:小坂、学校のこといろいろ佐々木に教えてやってくれ
菜緒:分かりました♪
若森:それにしても今日も透明感抜群だなぁ
菜緒:ありがとうございます♪
「「ひーきだひーきだ!」」
若森:はい、贔屓ですよ
クラスのブーイングをものともせず、若森先生は淡々とホームルームを終え、始業式のため体育館に集合することになった。
菜緒:体育館行こ♪
◯◯:おう
?:なーお!紹介してよ佐々木くんのこと
菜緒の友達らしき3人がやって来た。
菜緒:ええで!◯◯、ウチの親友たちや!
みんな揃いも揃ってかわいいな。
僕が名乗ると声を掛けてきた娘がまずはじめに自己紹介してくれた。
美玖:あたしは金村美玖。趣味はカメラ。部活は写真部。よろしくね
明里:丹生明里です!剣道部だよ~。にぶちゃんって呼んで!
ひより:ひよたんでーす。ひよたんのことはひよたんって呼んでね~。今度一緒にスライムつくろ~(彼女の名前が濱岸ひよりであると後で菜緒から教えてもらった)
個性的な面々である。
◯◯:よろしくね!
菜緒:◯◯って気安く呼んだってな!
◯◯:それは僕が言うセリフだと思うんだが
菜緒:細かいことはえぇやん!そんなん言うとったらモテへんで~
探偵の時とは真逆なことを言うもんだ。
◯◯:どーせモテませんよー
美玖:◯◯くんは探偵局の仕事も手伝ってるんだって?
◯◯:うん
明里:すごーい!
◯◯:ぜんぜんすごくない。まだまだ修行中の身だよ
菜緒:その通り。あんまり助手のことおだてんとってや
ひより:ひよたんのさっき失くしたシャーペン探してほし~
◯◯:どこで失くしたの?
ひより:ひよたん分かんな~い
菜緒:その胸ポケットのは?
ひより:あったー!菜緒ちょー名探偵!
◯◯:ひよたんって天然?
ひより:ひよたんは天然じゃないよー
美玖:充分天然だから
菜緒:ひよたんほんまおもろいなぁ
明里:◯◯くんってゲームする?
◯◯:スマホのゲームくらいかな
明里:明里はこの間ゲーミングPC組み立てたんだ~
◯◯:すごい。なかなか本格的だね
明里:明里とゲーム沼はまってみな~い?
◯◯:か、考えとくよ
菜緒:にぶちゃんのゲーム愛は人類最強やからな~
美玖:記念に1枚
金村さんが構えたスマホでパシャリ。
美玖:次は一眼レフで撮らせてね
◯◯:金村さんも本格的
菜緒:みくふぉと新作あるん?
美玖:あるよ
菜緒:あとで見せて~
美玖:いいよ~
◯◯:みくふぉと?
菜緒:美玖が撮ってる写真のこと。めっちゃカメラのセンスええねん。時々文芸部の写真俳句のお題写真提供してもらってる。あ、言ってへんかったけどウチ文芸部やねん
◯◯:そうだったんだ。金村さん、みくふぉと僕も見てみたいな
美玖:もちろん♪
◯◯:写真俳句ってのは?
菜緒:お題の写真見て思ったままに俳句を一句つくるねん。森村誠一が始めた新しい俳句の表現手法や
◯◯:森村誠一って「人間の証明」の?
菜緒:せやで
※
そんなこんなで体育館に着く。
整列し、始業式が始まった。
校長の粕川俊則先生が演壇に立つ。
すごく胸を張って威風堂々の佇まい。
粕川:トゥース!!!
シーン…
若森:つまり~?
粕川:いやこの先は無いのよ
◯◯:(小声)何これ?
菜緒:(小声)気にしたら負けや
愛奈:いいから早く喋って下さい粕川校長
教頭の高瀬愛奈先生が促す。
粕川:新学期早々まなふぃ先生に怒られちゃったよ。ヘッ!
気を取り直して粕川校長が訓話を始める。
ド正論ド直球で面白味の無い訓話に欠伸が出そうだった。
※
今日は始業式だから授業は無し。
菜緒と話しながら帰り支度をしていると、やはりビンビンに感じる。
さっきから男子たちの視線が痛いのだ。
体育館に向かっている時からめちゃくちゃ見られている気がしていたが、気のせいじゃないみたい。
きっと菜緒はクラスの、否、学校のマドンナ的なポジションにいるに違いない。
そんな娘と転校早々仲良くしているのだから嫉妬混じりの視線を受けるのも頷ける。
だがこれからの学校生活、男子に嫌われると何かと不自由だろうから気をつけねば。
身を隠しているのだから、出来るだけ目立たぬようにしているのがいちばんのはずだし。
菜緒と暮らしていることがバレていないのがまだ救いかもしれない。
もしバレたら…ブルルッ。
想像するだに恐ろしい。
菜緒:どしたん震えて?
◯◯:んーん、なんでもない
菜緒:帰ろ♪
◯◯:おう
教室を出ると、
?:君が転校生の佐々木くん?
◯◯:そうだけど…?
菜緒:朔田くんやん
朔田:やぁ小坂さん
◯◯:知ってる人?
菜緒:A組の朔田一平くんや。新聞部
◯◯:何か僕に用?
朔田:転校生が来ると校内新聞に紹介記事を書くのが伝統なんだけど、この後もし都合が良ければ取材させてもらえないかな?
◯◯:取材…
目立つのは避けようと改めて心で誓った直後にこんな誘いを受けるなんて。
◯◯:そうだなぁ…
菜緒:◯◯ちょっと…
朔田くんに会釈し手招きする菜緒に近寄る。
菜緒がぐっと顔を近づけて来たのでドギマギした。
菜緒:(小声)◯◯の考えてること分かる。身を隠してるから目立つことはせんとこって思ってんねやろ?
◯◯:(小声)ご明察
菜緒:(小声)あとは周りの男子の視線がキツいんやろ?
◯◯:(小声)よく分かるね
菜緒:(小声)探偵の観察力と推理力ナメたらあかんで。校内新聞やから外部に漏れる心配はあまり無いし、これを機会に皆に◯◯のこと知ってもらったら男子の見る目も変わるかもしれへんし
◯◯:(小声)そうかな?
菜緒:(小声)そやで。この前も言うたやんか、普通の生活を送る、それがいちばんやねんて
◯◯:(小声)それもそうだな。ってか、男子の視線がキツい原因って菜緒だからな
菜緒:(小声)知ってる♪
◯◯:(小声)お前ってヤツは…
菜緒:(小声)かわいいって罪やな
◯◯:(小声)しみじみすんな
朔田:あのぉ…
◯◯:ごめんごめん。取材受けるよ
朔田:良かった。受けてもらえなかったら先輩たちにどやされるところだったよ
空き教室に案内され取材を受けることに。
菜緒:部室やないん?
朔田:あぁ…うん。ちょっとね
菜緒:…?
朔田:よろしくね佐々木くん
◯◯:こちらこそ
朔田:では早速…
趣味や休日の過ごし方といったプライベートに関する質問から中学時代のことなどを訊かれ、取材は30分ほどで終わった。
朔田:以上になります。ご協力ありがとう。いい記事書くから是非読んでね
◯◯:楽しみにしてるよ。菜緒、帰ろう
菜緒:取材だけやないんやろ?
◯◯:は?
菜緒は朔田くんを見据えている。
探偵の眼差しで。
朔田:さすがだね。実は、小坂さんの力を貸して欲しいんだ
菜緒:やっぱり。どういうことなん?
朔田:彼女の相談に乗ってあげて欲しい
菜緒:朔田くん彼女おったんや!
朔田:ストーカーに遭ってるらしい。こんな話、他の部員には聞かれたくなくて。助けてやってくれないだろうか?お願いします!
朔田くんは頭を下げた。
朔田くんの彼女は下級生で、日向坂高校に入学するという。
入学式は明日だ。
菜緒:ストーカーなんて許されへん!女の敵や。この依頼謹んでお受けするわ!
朔田:ありがとう小坂さん
明日の放課後、話を聞く約束をした。
to be continued…