こちら、日向坂探偵局! File.07「日向商店街狂騒曲~中編1」
史帆さんと陽菜ちゃんに連絡し、急いで日向屋に来てもらった。
ちなみに史帆さんと陽菜ちゃんは事件が解決すると日向屋にチゲ味噌ラーメンを食べに来るのがルーティンらしい。
史帆さんと京子さんは日向高の同級生だ。
京子:史帆~!陽菜ちゃ~ん!レンゲがぁ
史帆:お~よしよし~
陽菜:京子さん落ち着いて下さい!
史帆:こしゃ~。また盗みなの~?
菜緒:連続窃盗事件の可能性があります
史帆:マジで~?
陽菜:犯人、あたしより手癖悪いかも
◯◯:陽菜ちゃんも何か盗んだことが!?
陽菜:あたしの場合はしれっとちょこっと断り入れずに借りるだけ
◯◯:そうなのねぇ…
京子:マジで金のレンゲ取り戻して!
菜緒:任せて下さい!
史帆:こしゃ~。としちゃんたちが行く予定だった他のふたりの聞き込みもお願いしていい~?
菜緒:あいあいさ!
菜緒と僕は取り敢えず河南精肉店へ。
菜緒:こんにちは♪
河南:おぉ、菜緒ちゃん。いらっしゃい。今日はなんのお肉がご入用だい?
菜緒:せや。ついでにお肉買ぉとこか
◯◯:あ、そうだね
おつかいをころっと忘れていた。
菜緒:豚バラ肉を300グラム下さい
河南:はいよ
河南さんはショーケースから豚バラ肉を掴み取るとカウンターの天秤に置いた。
300グラムの重りを反対の皿に置いて肉の量を微調整し天秤が釣り合うと、
◯◯:あっ
天秤が独りでに回転し、脇に設置してある袋の中へ器用に豚バラ肉を入れた。
◯◯:すごい!
河南:簡単なカラクリ細工だよ。趣味でね
菜緒:ウチも初めて見た時びっくりしたわ
会計し、
菜緒:河南さん。お聞きしたいことがあるんですけどええですか?
河南:探偵のお仕事かい?
菜緒:そうです
河南:構わないよ。何かな?
菜緒:ありがとうございます。実は<あゃめぃちゃん>で盗難事件があって…
河南:そうなの!?
事情をかいつまんで話し、
菜緒:二次会の前後、何か変わったことはありませんでしたか?
河南:そうだなぁ…
河南さんはしばらく考え、
河南:覚えが無いよ。結構酔ってたしねぇ
菜緒:そうですか…<日向屋>には最近行きましたか?
河南:最後に行ったのは2週間前かな。<日向屋>でも何かあったの?
菜緒:そこでも盗難事件があったんです
河南:えぇ!?うちも気をつけないとな…
菜緒:今日の午後2時10分から40分頃の間はどこにいましたか?
河南:もしかして僕疑われてるの?
菜緒:すみません。皆さんにお訊ねしていることなので…
河南:その時間帯は店番してたよ。その時来たお客さんは…
具体的な客の名前を3人ほど挙げる。
僕は手帳に名前を書き留めた。
河南:その人たちに確かめてもらったら証明出来ると思う
菜緒:ありがとうございます。確認します
◯◯:「あ」と金のレンゲと聞いて、何か思い当たることはありませんか?
河南:うーん…何も思いつかないな
菜緒:昨夜の商革委員会の会合ではどんなお話をしたんですか?
河南:商店街を今後どうしていきたいとか、明日のイベントの話をしたよ
菜緒:イベントですか?
河南:そう。あ、これあげるよ
イベントのチラシをくれた。
スタンプラリーや抽選会などを催すらしい。
河南:日向商店街の新名物にしようと思ってつくったモニュメントのお披露目もあるから良かったら見に来て
菜緒:はい。ありがとうございます♪
※
3件隣の菓子舗東川へ。
◯◯:うわ!看板のインパクトすげぇ!
老舗菓子屋のいかめしい看板を想像していた僕はそのエキセントリックさに驚いた。
菜緒:なんか江戸川乱歩の「盲獣」に出て来そうな看板やろ?
◯◯:確かに…
芸術が爆発している。
菜緒:東川さんは気難しいので有名やから気ぃつけや
◯◯:分かった
店に入ると誰もいない。
カウンター上のベルを鳴らすとエプロン姿のご主人、東川さんが奥から出て来た。
奥で和菓子をつくっていたのだろう。
芸術家然とした雰囲気を放っている。
東川:いらっしゃい
菜緒:すみません。客やないんです
◯◯:お話を伺いたいことがありまして…
東川さんが眉を怒らせた。
東川:君は確か探偵だな。俺のつくった菓子を買わないのなら帰ってくれ
◯◯:ごめんなさい!買います!
東川さんの剣幕にたじろぎつつショーケースを見ると、どれもこれも奇抜な形の和菓子ばかり並んでいた。
適当に選ぼ…
◯◯:えーと…これ3つ下さい
菜緒、僕、そして愛萌さんの分だ。
東川:はいよ
菜緒:なんかお尻がいっぱいついてるみたいな形のお饅頭やな
東川:その通り、尻饅頭だ。この曲線美を出すのに苦労したのだ
◯◯:(小声)まさに「盲獣」じゃん
菜緒:(小声)噂には聞いとったけどやっぱり変わってるな。ってか尻饅頭選んだ◯◯は正真正銘の変態やゆうことがよぉ分かった
◯◯:(小声)知らずに選んだんだよ
菜緒:(小声)どーだか
◯◯:(小声)ジト目やめろって
東川:何をごちゃごちゃ言っとるんだ
菜緒:あ、すみません。お話し訊いても…?
東川:なんだ?
菜緒と僕は事情を説明し、河南さんにしたのと同じ質問をした。
東川:俺は酒を飲まんから昨夜のことはよく覚えている。店に入る時も出た時も特におかしいと感じたことは無かった。怪しい人物も見掛けなかった。会合に関して特に揉めたということは無いが、西宮と北山さんはいつものごとく、今の商店会長の極海さんを辞めさせて河南さんが商店会長をするべきだと気炎を上げていた
菜緒:それはまたどうして?
東川:極海さんは商革委員会の提言に聞く耳を持とうとしないからな。明日のイベントも去年くらいから提案していて、しぶしぶと言った感じでようやく了承してくれたくらいだ
◯◯:東川さんは今の商店会長さんについてはどう思われてるんですか?
東川:正直良い印象は持っとらん。だが、西宮たちの言うようなクーデターまがいのことで商店会長を辞してもらうというのは、後味が悪い。こう見えても私は平和主義だ。商店街を統率するのはあくまでも商店会。商店会を敵に回しては元も子もないのだ
◯◯:なるほど…
菜緒:ちなみに、今日の午後2時10分から40分頃の間はどこにいましたか?
東川:奥で作品をつくっとった
菜緒:新作の和菓子か何かですか?
東川:いいや。手を象ったオブジェだ
やっぱり「盲獣」の世界だ。
東川さんは目は見えているけれど…
菜緒:それを証明出来る方はいますか?
東川:そんな者はおらん。最近は客も滅多に来ない。それにこう見えて私は独り者だ
いや、見た目通りです。
東川:おい。見た目通りだと思ったか?
◯◯:いえいえ!滅相も無いです!
この人エスパーかよ?
◯◯:あのぉ、明日のイベントでお披露目されるモニュメントってもしかして…
東川:あぁ。私がつくったものだ。何か文句でもあるのか?
◯◯:とんでもない!
新名物が変態モニュメントとは…
菜緒が「あ」と金のレンゲで連想することは無いかと訊いてみたが、東川さんに心当たりは無いという。
東川:もういいか?私は忙しい。作品づくりの途中なのだ。この湧き上がるインスピレーションが消えぬ内につくりたいのだ
菜緒:充分です。ありがとうございました
菜緒に合わせて僕も頭を下げ、菓子舗東川を辞去した。
菜緒:東川さんにアリバイは無しやな…
僕は改めて看板を見上げた。
たくさんの意匠が象られ、複雑怪奇な模様だったり形状が組み合わさっていて、まさにカオスである。
◯◯:もしかして、新作のオブジェに使うために「あ」と金のレンゲを盗んだって線は無いだろうか?
菜緒:ありそうで無いような、無いようでありそうな…
◯◯:どっちだよ
菜緒:まだなんも分からんってこっちゃ。次は北山デンキ行こか
歩き出した菜緒に着いて行く。
to be continued…