事件です!×日向坂探偵局 EP2「探偵の立場と所轄の意地」
◯◯:そんな…
菜緒:対象者が死んでまうやなんて…
智樹さんの無惨な死に様にショックを受けていると、ビルの屋上に人影があることに気づいた。
◯◯:菜緒!誰かいる!
菜緒もハッとして、
菜緒:犯人かもしれん!
ふたりで屋上に向かう。
古いビルのためか、エレベーターがついていない。
菜緒:マジか!
◯◯:階段!
外付けの階段がある。
5階建てのビルを駆け上がった。
菜緒:はぁ…はぁ…
◯◯:運動不足だなこりゃ
息も絶え絶えに屋上を見回すが誰もいない。
菜緒:ここから逃げたか
上がって来た階段と反対側にも外づけの非常階段があった。
手摺から身を乗り出して地上の道を見るが、怪しい人物はとうに逃げた後だ。
◯◯:ちくしょう!
悔しさに手摺を叩く。
掌がジンジン痛んだ。
パトカーと救急車のサイレンの音が近づいて来た。
※
小池と土田の両刑事がタクシーで現場に着くと、機動捜査隊が現状保存を始めていた。
周囲に規制テープが張られ、テープの向こうに野次馬がひしめいている。
土田:ご遺体隠して隠して!
小池と機捜隊員が遺体の周りにブルーシートで囲いをつくった。
小池:自殺、ですかね?
土田:まだ分かんねぇな
もうひとりの機捜隊員が若い男女に事情聴取をしている。
機捜隊員①:目撃者の方ですか?
菜緒:えー。はい。いや…
機捜隊員①:どっちなんです?
◯◯:実は僕たち探偵で、被害者の男の人の調査してて…
機捜隊員①:探偵?調査?
菜緒:ちょっ
菜緒が◯◯の袖を引っ張る。
菜緒:(小声)探偵には守秘義務ってのがあるんやで
◯◯:(小声)あ。そっか…ごめん
機捜隊員の目が胡散臭いものを見るものに変わる。
機捜隊員①:土田さん!小池さん!
小池:どうしました?
機捜隊員①:このふたりなんですが、探偵を名乗ってて…
土田:探偵?高校生くらいに見えるけど…
菜緒:こうなっては仕方無いか
菜緒は溜息をつき、
菜緒:ウチら、こういう者でして…
菜緒は名刺を取り出した。
◯◯も倣って名刺を渡す。
小池:日向坂探偵局の小坂菜緒さんと、佐々木◯◯さん、ね…
土田:小坂?どっかで聞いたことあるような気が…
小池:俺と下の名前一緒だね
◯◯:そうなんですか?奇遇ですね
土田:今そこはどーでもいいだろ
小池:すみません。坂道県からわざわざ東京まで何しに?
菜緒は三村雪絵さんの依頼内容を話した。
菜緒:尾行の途中で見失って探していたところ、このビルの屋上から智樹さんが転落して来て…
◯◯:屋上に怪しい人影を見ました
土田:それを早く言いなさいよ!
◯◯:急いで屋上に向かったんですが、裏の非常階段から逃げたみたいで…
小池:その人物の特徴は?
菜緒:性別は男。身長は175センチから180センチくらい。中肉中背で黒のスプリングコートを着ていました
小池:すごいな。遠くから見たのによくそこまで分かるね
菜緒:探偵なんで♪
土田:そいつが三村さんを突き落とした可能性高いな
小池:緊急配備お願いします
機捜隊員①②:了解!
ふたりの機捜隊員が飛び出していく。
土田:こりゃ帳場立つかもな
小池:やっぱり…
小池は内心げんなりした。
菜緒:あの。ご遺体、見せてもらってもええですか?
小池:ええですよ…ってだめだめだめ!何言ってんの
菜緒:やっぱあきませんかぁ
◯◯:刑事さんのお名前伺っても?
小池と土田はそれぞれ名乗る。
◯◯:小池さん。土田さん。日向坂探偵局として調べちゃだめですか?
土田:だめに決まってんだろ
◯◯:そんなぁ
小池:ふたりは重要証人だから、現場検証終わるまでパトカーで待っててもらえる?
菜緒:待ってるだけじゃ探偵としての立場がありません
小池:そもそも探偵の出る幕なんかないの
土田:捜査は警察に任せて。大人しく待ってなさい
不服ながらパトカーに乗り込む菜緒と◯◯。
◯◯:地元じゃ頼りにされてるのにね
菜緒:ほんまや。やっぱ東京は怖いとこやな
菜緒はプンプンである。
雪絵さんに智樹さんの死を知らせなければならない。
気が重いが菜緒が電話をすることになった。
雪絵📱:そんな…
電話の向こうで雪絵さんは絶句した。
無言が啜り泣きに変わる。
雪絵📱:どうしてそんなことに…
搾り出された声に嗚咽が混じる。
菜緒:智樹さんの死の真相は、必ず暴いてみせます
◯◯も横で頷く。
雪絵📱:主人の仇、取って下さい…よろしくお願いします
菜緒:承知しました。間も無く警察からそちらに連絡があると思います
雪絵📱:分かりました…
通話を終え、菜緒は重い息を吐いた。
菜緒:犯人、絶対捕まえるで!
◯◯:おう
※
櫻坂署に特別捜査本部が設置されることになった。
いつもの如く邪険に追い出された小池と土田は菜緒と◯◯を伴って署に戻った。
土田:ただいま戻りましたよ、っと
小池:あっちの部屋で待っててもらえる?
菜緒:はーい…
◯◯:って、取調室ですか!?
小池:別にビビらなくてもいいよ。他に部屋空いてないだけだから
菜緒と◯◯は恐々取調室のドアを開けた。
菜緒:まさか取調室に入れられる日が来ようとは…
◯◯:やましいこと無くてもやった気になって来るね
小池がデスクに座ると、小林刑事が声を掛けた。
由依:あのふたりは?
小池:事件の目撃者なんすけど、なんか探偵らしくって
由依:探偵?
小池:坂道県から被害者の素行調査のために尾行してたとかなんとか。身元照会します
刑事課の隅の会議スペースで菅井署長と齋藤副署長、土生刑事課長が寄り集まって相談事をしている。
菅井:今度の管理官はどなたかしら?
齋藤:どなたが来てもおもてなし出来るように準備します
土生:櫻モナカ、櫻せんべい、櫻饅頭、各種取り揃えるように警務課に伝えます
菅井:そうして下さいな
その様子を眺めていた小林が呆れた様子で、
由依:またやってるよ
小池:課長たちはほんと熱心ですねぇ
土田:帳場立つなんて、ただただめんどくさいだけなんだけどな
何度も頷く小池と小林。
警務課員:警視庁より、管理官の方がお見えになりました
刑事課にずかずかと居丈高に入って来た、鶴のように細く、陰険な目つきの男。
フロアを見渡し、
古野:管理官の古野だ。この事件の捜査は本庁捜査員のみで行う。所轄捜査員は待機。捜査本部への立ち入りも禁止だ。以上
小池:どうしてですか!?
古野:君たちの力など必要無いからだ。捜査一課は精鋭。殺人捜査のプロ集団だ
小池:所轄外すなんて…現場知ってんの俺たちなんすよ?
食ってかかる小池を見た古野の眼鏡が光る。
古野:ははぁ。君か。噂の小池刑事は?
小池:え?
古野:渡邉くんのお気に入り、だそうじゃないか。だが、私は彼女のようにはいかんよ
小池:どういう意味です?
古野:若いねぇ。ま、今回だけは大人しくしといてもらおう
小池:捜査一課だけで捜査出来るもんならやってみて下さい!
古野に掴みかからん勢いの小池を土田と小林が宥める。
土田:落ち着け!
小林:どうどうどう…
古野:そういうことなんで、頼みますよ。それから署長。私は菓子は好みません。不必要な接待はやめていただきたい
菅井:は、はぁ…
古野は刑事課から出て行った。
小池は椅子にドカッと座り込む。
小池:なんなんすかあの管理官!
土田:えらく高圧的なヤツだったなぁ
土生:小池くん!管理官にあの態度はダメよ
小池:課長悔しくないんすか!?
土生:それは…
土生は歯噛みした。
小林:このまま黙ってるつもり無いわよね?
小池:当たり前です
土田:管理官のこと見返してやろう
小池:はい!
菅井:私も怒ってますわ!
土田:珍しいな署長が怒るなんて
菅井:だって接待いらないなんてどうかしてます!
土田:そこかよ…
※
なんだか刑事課が騒がしい。
取調室のドアを細目に開けて、覗くふたり。
菜緒:なんか揉めてるな
やり取りの一部始終を盗み見し、
◯◯:出たー。本庁と所轄の軋轢。ほんとにあるんだなぁ
菜緒:「踊る大捜査線」ってリアルやったんやなぁ。これはチャンスかも
◯◯:チャンスって?
菜緒:捜査に混ぜてもらうチャンスや
菜緒の目がキラリと光った。
※
小池:所轄の意地、見せてやりましょう!
土生:また勝手なことを。怒られるのあたしなんだから
土田:それが仕事だろ?
土生:違いますよぉ全く…
取調室から菜緒と◯◯が出て来る。
菜緒:小池さん。ウチらにも捜査、手伝わせて下さい
小池:それはだめだよ
菜緒:さっきの会話、聞かせてもらいました
◯◯:僕らもあの古野さんって人の発言、どうかと思いました
小池:それはありがたいけど、でもなぁ…
菜緒:ウチらは智樹さんの基本情報すでに持ってますし、東京に来てからの行動も全部見てるわけですから、捜査本部よりも先に動けると思いますけど
土田:それは確かにな…
小池:土田さん?
小林:いいじゃん。協力してもらえば
小池:小林さんまで…
ファクシミリが作動し、坂道県警から菜緒たちの身元照会が送られて来た。
ファクシミリの近くにいた土田が報告書を手に取る。
土田:おい小池!これは是非とも協力してもらおう
小池:どうしてですか?
土田:小坂って名前、どっかで聞いたことあるなって思ってたんだけど、これ読んで思い出したよ
小池:なんなんです?
土田:あの数々の難事件を解決して来た小坂尚造探偵のお孫さんなんだよ彼女は!
小林:あの伝説の!?
小池:誰ですかそれ?
小林:え!知らないの?めっちゃ有名だよ!
土田:そうか。お前は刑事になって日が浅いから知らないかもしれないな
菜緒:祖父の話はやめて下さい。祖父は祖父で、ウチはウチですから…
菜緒は照れたのか顔を俯ける。
◯◯:僕たち、目の前で智樹さんに死なれてやりきれないんです。犯人も取り逃がしちゃうし…
菜緒:奥さんの雪絵さんからも、仇を打つよう依頼を受けています。お願いします。協力させて下さい!
頭を下げる菜緒と◯◯。
小池:分かった…
菜緒・◯◯:ありがとうございます!
小池:でもくれぐれも危険なことはしないように。常に俺たちと行動して。それが条件だ
菜緒:分かりました
こうして日向坂探偵局と櫻坂署刑事課は協力することになったのだった。
to be continued…