Another Legend‐空我‐ Season壱 Ep.01「Awakening‐覚醒‐」
2020年1月30日 午前7時
坂道市 五代家
けたたましいスマートフォンのアラームが鳴り響く。
ベッドの中から反射的に手を伸ばしアラームを止めた五代◯◯は、液晶画面に表示された時刻を見て一気に覚醒した。
◯◯:ぬわぁっ! ヤバいぞこれ!
◯◯は飛び起きた。
◯◯:完全に遅刻だ!
スマホを見ると待ち合わせ相手からのLINEの通知がたくさん届いている。
「もうそろそろ1時間だけど…?」
「ねぇまだ~?」
「もしかして寝坊!?😡」
「起きろ起きろ起きろ~🤬🤬🤬」
◯◯:げ。さくらさんお怒りだ…
電話を掛けると呼出音が鳴るか鳴らないかで相手が出た。
さくら📱:もぉ! 今何時だと思ってんのこの寝坊助!
◯◯:ごめんなさい! 急いで行きます!
服を着替え、足をもつれさせながらリビングへ。
天:兄貴朝からうるさいよ~。どうしたの?
◯◯の妹の天が高校の制服にエプロン姿でキッチンから声を掛ける。
◯◯:なんで起こしてくんないんだよ! 今日兄ちゃん朝早いって昨日言ったろ?
天:そーだっけ? ごめんごめん
天が申し訳なさそうに両手を合わせる。
◯◯:さくらさん待ってるからもう行くわ
天:朝ごはんは?もう出来るけど
◯◯:ごめん。食べてる暇無いや
天:そ…
◯◯は大きなリュックを背負い、玄関に行き掛けたところで、
◯◯:あ!
立ち止まり、リビングの本棚の上に置いてある父の遺影に手を合わせる。
エベレストの頂上で笑ってサムズアップしている写真だ。
◯◯:いってきます!
天:いってらっしゃ~い。気をつけてね~
◯◯:天も学校頑張れ!
◯◯はアパートを出た。
ガチャンと閉まったドアを見つめていた天はキッチンに戻り、
天:兄貴の分どーしよ…。心昭に持ってってやるか
ニコニコ微笑んで呟いた。
※
同日 午前7時32分
坂道駅前
バイクを坂道駅の駐輪場に停め、待ち合わせ場所へ走る。
寒風の中、キャリーケースのハンドルに退屈そうに顎を乗せ、ひとりベンチに座っている沢渡さくらを見つけて駆け寄った。
◯◯:遅くなってごめんなさい!
◯◯はほぼ直角に頭を下げた。
さくら:ほんと大遅刻だよ! 寒空の下女の子ひとり待たせるなんてサイテ~
さくらは頬を膨らませた。
◯◯:アラームの設定間違ってて…
さくら:言い訳しないの
◯◯:ごめんなさい
さくら:まだ駅前のカフェも開いてなくて寒かったんだからね
◯◯:なんとお詫びして良いやら…
さくら:じゃあ坂道堂のみたらし団子買ってくれたら許してあげる
◯◯:ほんとすか!? 買います買います!
さくら:行こ?電車来るから
◯◯:キャリー引きます
さくら:ありがと
改札を通り、ちょうどのタイミングでホームに滑り込んで来た坂道山登山口行の快速に乗り込む。
ふたり掛けの座席に座った。
さくら:夏目教授に指定された時間ギリギリだよ…
◯◯:ほんとすみませんです…
さくら:あたしの信条、知ってる?
◯◯:常に余裕を持って行動する…でしたっけ?
さくら:そ。今日なんて山の方は雪降ってるみたいだし何が起こるか分かんないじゃん?
◯◯:ごもっとも
さくら:幸いダイヤの乱れは無いから良かったものの…
◯◯:反省します
さくら:あとでみたらし団子買ってくれるみたいだし、許してあげる♪
ニコっと笑うさくらを見て、◯◯はホッとした。
◯◯は遠くに見える坂道山を見つめた。
日本アルプスに連なる標高2346メートルの山で、頂きは雪が積もって白い。
◯◯:父さんが昔登ったことがあるそうです
さくらも車窓に目をやった。
さくら:お父さん冒険家だったっけ?
◯◯:はい。俺がガキの頃、チョモランマ登山中に行方不明になりました
さくら:そうだったんだ…
さくらは悲しげに眉をハの字にした。
◯◯:すみません。辛気臭い話しちゃって…
◯◯は雰囲気を変えようと鞄の中を探り小さなフェルトの玉を取り出した。
両手で器用に弄び、さっと閉じた両の拳をさくらに向ける。
◯◯:どっちにあるでしょう?
さくら:う~ん…こっち
右の拳を指す。
◯◯:残念でした
開かれた掌に玉は無い。
さくら:じゃあ左?
ところが左にも玉は無かった。
さくら:え。どこ行ったの?
◯◯:そこです
◯◯はさくらのカーディガンのポケットを指した。
さくら:うそ…ほんとだ、あった! すごい五代くん!
◯◯:俺の12番目の技です
さくら:どうやったの?
◯◯:それは内緒です
◯◯は苦笑した。
さくら:技は何番目まであるの?
◯◯:この間2019番目の技を習得しました
さくら:じゃああとひとつだね
◯◯:はい。なんとか二十歳になる前に達成出来そうです
◯◯には、父親と交わした約束がある。
二十歳を迎えるまでに2020の技を身につけること。
2020とは、◯◯が二十歳になる年だ。
その約束をした 2 週間後、父は消息不明となった。
◯◯はその約束を遺言だと思い、達成しようと努力して来たのだ。
今年の4月で20歳になる。
その前にあとひとつ、技を習得せねばならない。
どんな技を身に着けようか。
最近の◯◯はそのことばかりを考えている。
さくらとは坂道大学歴史文化学部で、先輩後輩の関係だ。
さくらが三回生、◯◯は二回生である。
昨年、考古学研究室の夏目教授が主催するワークショップに参加したことがきっかけで知り合った。
夏目教授は坂道山の麓、九郎ヶ岳で発見された遺跡の調査をしている。
ふたりは、教授から研究室の資料を届けるように頼まれたのだった。
さくら:昨日の夜教授に電話したらね、すっごく興奮してた。今日ついに石棺を開けるんだって
◯◯:例の、世界中のどの文明にも属さない未知の埋葬形態だっていう?
さくら:そそ。どんな発見があるかあたしも楽しみなんだ~
1ヶ月前に発生した地震による土砂崩れで、崩落した山腹から遺跡らしきものが露出しているのを地元の消防団が発見した。
報せを受けて調査に赴いた夏目教授らの解析により、その遺跡は縄文時代以前のものであると判明。
本格的な発掘調査が行われることになり、2週間前から夏目教授をリーダーとする発掘チームは現地にベースキャンプを設営して調査に励んでいる。
さくら:もしかしたら、いや絶対日本史を覆す大発見があるよきっと
◯◯:わくわくしますねぇ
さくら:あたしも! …ねぇ五代くん、なんだろあれ?
◯◯:え?
坂道山の辺りから真っ黒な雲が湧き出し、空へ上ると放射状に広がっていく。
◯◯:九郎ヶ岳の方だ…
さくらが不安そうに◯◯の袖を掴む。
その時、眩い閃光と共に轟音が鳴り響き、凄まじい衝撃波が電車を襲った。
さくら:きゃーっ
◯◯:さくらさん!
◯◯はさくらに覆い被さった。
窓ガラスが砕け散り、乗客たちに降り注ぐ。
電車が急停止し、立っていた人たちが折り重なるように倒れた。
そこかしこから悲鳴が上がる。
衝撃波は瞬く間に過ぎ去り、ふいに静かになった。
◯◯:怪我無いですか?
さくら:ん…大丈夫
◯◯:良かった
さくら:ありがと五代くん。五代くんは大丈夫?
◯◯:平気です。あ! 大丈夫ですか、おじいさん!
◯◯は通路に倒れた老人を助け起こした。
さくらと一緒に老人を席に座らせる。
後部車両から車掌が現れ、
車掌:安全確認が終わるまで、そのままお待ち下さい
乗客の間にざわめきが広がる。
世間が暗闇に閉ざされていく。
黒雲が広がっているのだ。
さくら:何が起こってるの?
◯◯:分かりません…
※
同日 午前8時43分
坂道県警察本部
県警本部13階、警備部警備第二課の自席で書類に目を通していた一条美波警部補は、微かに聞こえた音に顔を上げた。
美波:今遠くで爆音みたいな音がしませんでしたか?
隣席の同僚に訊ねる。
警備第二課員:え? そんな音した?
次の瞬間、凄まじい音と閃光と共に窓ガラスが砕け散り、突風が室内に吹き込んだ。
咄嗟に身を伏せた美波は体を起こすとガラス片を踏みながら窓際に駆け寄った。
美波:何あれ…
坂道山の方から黒雲が立ち昇り、徐々にその面積を増して広がりつつある。
課長の号令が飛ぶ。
課長:片付けは後回しにして各自情報収集だ
一同:はい!
他の部署も大変な騒ぎになっているようだ。
市民からの通報など情報が続々寄せられる。
警備第二課員:九郎ヶ岳で爆発があったようだという通報が複数件寄せられてます!
美波:あの雲も九郎ヶ岳から湧き出しているようです
課長:そういえば九郎ヶ岳では遺跡の発掘調査が行われているよな?
美波:はい。調査隊の安否が気遣われます
課長:一条、ヘリを出せるか航空隊に確認してくれ
美波:了解!
美波は受話器を取り、坂道県警航空隊の短縮番号をプッシュする。
確認を終え、
美波:行けます。7分後に本部屋上へ到着
課長:よし。警備部長には話を通しておくから救助隊と共に九郎ヶ岳へ向かってくれ
美波:了解!
※
同日 午前9時13分
九郎ヶ岳
グギゴキッ…グチャッ…
調査隊の最後のひとりの首を握り潰すと、ダグバは石室を出た。
返り血に染まった体をひんやりした外気に晒しながら森へ歩を進める。
上空に広がる黒雲はダグバが復活した遺跡を起点としていた。
閃光と衝撃波はダグバの復活時に生じたものだ。
足を止める。
そこは森の中であるのに、木1本草ひとつ生えていない場所だ。
ダグバは掌にエネルギーを溜めると一気に地面に流し込んだ。
次の瞬間、地面から一斉にいくつもの手が飛び出した。
やがてそれらは全身を地表に表し、異形の姿を現代の空気に晒した。
ダグバは満足したように頷く。
ダグバ:ガサダバゲゲルゾ、ザジレスゾ…
不気味な声で言い残し、闇の中へ消えた。
ダグバが姿を消すと、空を覆っていた黒雲が消え去り、元の青空が戻った。
しかしいつもの青空とは違い、不吉な予感を孕んでいるように見える。
※
同日 午前10時26分
九郎ヶ岳遺跡 石室
美波:これは…
美波は目の前の光景に息を呑んだ。
石室はむごたらしい惨劇の場と化していた。
無数の遺体が血だまりに横たわっている。
いずれも損傷が激しい。
物凄い力で蹂躙されたとしか思えない。
血のりが壁を濡らし、肉片や臓物が床に散らばっている。
安置されていた棺が引き倒され、埋葬されていたと思しきミイラも転がっていた。
美波:なんだかまだ生きているみたい…
肌は黒く変色しているものの、まだ張りがあり、今にも動き出しそうに見えるのだ。
鑑識がミイラの側に落ちているベルト状の装飾品を拾って証拠品袋に収めている。
美波:クマでしょうか?
美波は警備部第四機動隊所属の救助隊の隊長に向かって言った。
坂道山にはサクラノセキグマという固有種が生息しており、時折被害が出る。
救助隊長:いや。クマじゃねぇな
救助隊長は真っ二つになっている調査隊員の遺体の側に屈み、傷口を観察した。
名札には「夏目」とある。
救助隊長:クマにこれほどの力は無いよ
美波:ではなんだと?
救助隊長:分からない
救助隊員:隊長!
救助隊長:どうした?
救助隊員:これ見て下さい!
救助隊員がビデオカメラを持って駆け寄る。
動画を見た美波は愕然とした。
そこには恐ろしい怨嗟の声を上げながら調査隊を殺戮する異形の存在が映っていた。
※
同日 午前11時49分
国道46号線
◯◯はさくらを後ろに乗せ、九郎ヶ岳に向かってバイクを走らせていた。
あの後、鉄道会社が用意したバスに乗って坂道駅に戻った◯◯とさくらだったが、
さくら:夏目教授大丈夫かな…
◯◯:俺、九郎ヶ岳に行ってみます。危ないのでさくらさんはここに残って下さい
さくら:いや。一緒に行く
◯◯:でも…
さくら:調査隊の人たちが心配なの。連れてって! お願い!
さくらの懇願に根負けし、今に至る。
九郎ヶ岳まであと少しのところで、
◯◯:検問だ
◯◯は見つからないように道の端にバイクを停め、辺りの様子を確かめた。
◯◯:山を登りますがいけますか?
さくら:へーき。一応登山靴履いて来たから
◯◯:あそこからなんとか九郎ヶ岳に出られると思います。行きましょう
◯◯は先に山の中へ足を踏み入れる。
時折さくらの手を取って引き上げながら、ふたりは山道を登って行った。
※
同日 午後0時54分
九郎ヶ岳 ベースキャンプ
◯◯は方位磁針と地図を見比べながら進んでいく。
◯◯:ベースキャンプが見えて来ましたよ!
さくら:ほんとだ! ふぅ…
さくらが立ち止まり、膝に手を突いた。
◯◯:少し休みますか?
さくら:大丈夫
◯◯:キャンプの小屋で休憩しましょう
さくらの手を引き進もうとした◯◯は、背筋に走った不気味な予感にふと足を止めた。
さくら:どうしたの?
応えず、異様な気配に集中する◯◯。
樹上から唸り声がしたので見上げると、異形の影が飛び掛かって来た。
◯◯:うわっ
さくらを庇って咄嗟に避ける。
地面に転がるふたり。
◯◯:な、なんなんだこいつ!
ふたりに迫る怪人は、深緑の体表にクモを思わせる装飾品を纏っている。
怪人―ズ・グムン・バは口元から糸を高速で発射した。
さくら:きゃーっ
◯◯:走って!
さくらの手を引きなんとか逃れ、全速力でベースキャンプに向かって走る。
グムンは木から木へと俊敏に飛び移り、執拗に◯◯たちを追って来る。
◯◯:はぁ…はぁ…はぁ…
開けた場所に出る。
キャンプまであと10メートルほどだ。
山道を登った上に全力疾走。
体力が奪われる。
脚も痛む。
しかし止まるわけにはいかない。
前方に、遺跡へ続く道を下りてベースキャンプへとやって来る一団が見えた。
◯◯:助けて下さい!!!
声の限り叫んだ。
さくら:あ!
さくらがよろけて転ぶ。
◯◯:さくらさん!
◯◯がさくらを抱き起こしたところへグムンが右手に鋭い鍵爪を伸ばし飛び掛かった。
◯◯は死を覚悟し目をつぶった。
※
同日 午後1時14分
九郎ヶ岳 ベースキャンプ
救助隊や鑑識と共にベースキャンプへ戻って来た美波は叫び声のした方を見、走る男女を追い掛ける異形の存在に驚いて足を止めた。
美波:何よあれ…
救助隊長:怪物だ!
動画に映っていたヤツと同種だろうか。
女性が転び、駆け寄る男性。
ふたりにグムンが飛び掛かる。
美波:伏せて!
美波は咄嗟にコルト・ガバメントを拳銃サックから抜くとグムンに向かって発砲した。
銃弾が胸部に命中する。
グムンが怯んだ隙をついて男女がこちらへ走って来る。
救助隊長:大丈夫ですか!?
◯◯:はい!
さくら:ありがとうございます
救助隊の面々がふたりを庇うように立つ。
ポトリ…
命中したはずの弾丸が地面に落ちる。
美波:そんな…
美波は驚きに目を見開いた。
雄叫びを上げて突進して来るグムンに続けて発砲するがまるで歯が立たない。
グムンは跳躍し美波を飛び越え、救助隊に襲い掛かった。
救助隊員:ぐぇっ
鍵爪に腹部を抉られた隊員が倒れる。
◯◯:マジかよ!
さくら:五代くん!
◯◯:さくらさん早く逃げて!
◯◯はさくらの背中を押して走る。
周囲でグムンの惨殺が繰り広げられる。
救助隊長:ぎゃっ
救助隊長の体が鮮血を撒き散らしながら宙を舞う。
美波が発砲するもやはり効かず、
グムン:ジャラザ!
美波:きゃあっ
腕の一振りで美波は吹っ飛ばされた。
小屋の壁に背中から強くぶつかり、意識が遠のく。
美波:ちく、しょ…
首に巻きつけられた糸で振り回された鑑識員が証拠を満載したカートに叩きつけられる。
カートが横倒しになり証拠品がこぼれ出た。
そのひとつに◯◯は躓いた。
◯◯:イッテェ…
その瞬間、鮮烈なヴィジョンが脳内を駆け巡った。
周りの音が聞こえなくなる。
異形の怪人と戦う戦士の姿。
怪人たちを退けた戦士は悠久の時の中へ去っていく…
目の前に殺害された救助隊員の死体が転がったことで突如現実に引き戻された。
◯◯:なんだ今の…!
グムンの爪が迫る。
◯◯は証拠品を掴んで転がった。
爪が地面を抉る。
◯◯が掴んだのは、ベルトのような形をしている発掘品だった。
◯◯:これは…
先程のヴィジョンの中で戦士が身に着けていたものと同じだ。
さくらが◯◯に駆け寄る。
さくら:五代くん逃げよう!
◯◯:俺、これつけてみる!
◯◯は証拠品袋からベルトを取り出した。
さくら:ちょっと何言ってんの!?
鑑識や救助隊を皆殺しにしたグムンが◯◯たちに向かって来る。
◯◯は無我夢中でベルトを腹に押し当てた。
◯◯:あぁっ!
さくら:そんな…!
ベルトが腹の中に吸い込まれていく。
激痛に◯◯は身を捩った。
さくら:五代くん!
◯◯:さくらさん下がって!
グムンが◯◯の首を締め上げる。
◯◯:う…うぅ…く、そぉ!
苦しみながらグムンの腹を殴ると腕が白い装甲に包まれた。
グムンが手を放す。
その隙を逃さず続け様にパンチやキックを見舞うと◯◯の全身が鎧われていく。
さくら:五代くんが…変身、した…
さくらは今起きたことが信じられず後退りした。
グムン:ゴラゲ、クウガザダダボバ!
グムンが敵意を剥き出しにして◯◯に迫る。
繰り出される鍵爪をボクシングの要領で躱し腹部を何度も殴りつける。
だが、◯◯は頭の片隅で充分な力が発揮出来ていないと理解していた。
グムンは食らってはいるが、さほどのダメージを受けているようには感じない。
ヴィジョンの戦士は赤や青、緑に紫だった。
だが自分は白。
何故だ…
今はそんなことを考えている暇は無い。
◯◯に出来た一瞬の隙に、グムンは反撃して来た。
鋭い鍵爪が◯◯の胸部の装甲に傷をつける。
◯◯:わっ!
さくら:五代くん!
吹っ飛ばされた◯◯は小屋の壁をぶち破り、室内床に叩きつけられた。
痛みに耐えて立ち上がった◯◯の首元に糸が巻きつく。
◯◯:ぐっ…
グムン:ボソグ!
グムンが糸を左手で手繰り寄せ、右手の鍵爪で顔を刺そうと構える。
銃声。
グムンの背中に当たった銃弾が床に落ちる。
美波だ。
朦朧とする意識の中、ガバメントを発砲したのだ。
再び美波は意識を失い倒れた。
さくらが美波を抱き起こす。
さくら:大丈夫ですか!?
美波:む…ぅ…
グムンの意識が一瞬逸れる。
◯◯はなんとか踏ん張り、渾身の力を込めて糸を引き裂くとグムンに突進した。
◯◯:うぉぉぉぉっ!
体当たりし諸共小屋から外へ出る。
距離を保ったまま、対峙する両者。
◯◯:こいつを倒すには…そうだ!
◯◯はヴィジョンの戦士がやっていたことを真似しようと思った。
左手をベルトに添え、右腕を肩ぐらいの高さに伸ばして構える。
右足に気迫を集中させると、じんわりと熱がこもっていく。
◯◯はグムンに向けてダッシュした。
踏み切り、中空を舞う。
膝を抱え一回転。
その勢いのまま右足を突き出す。
強力なキックがグムンの胸部を直撃した。
溶岩のように熱く燃える足形が胸に刻まれたが、すぐに消える。
グムンは後退るも、なんとか耐え切る。
グムン:ダギギダボドバギバ、クウガ!
◯◯:もう1回っ!
◯◯は怯まず再びキックを見舞った。
グムンは余裕なのかキックを敢えて受ける。
三たび、◯◯はキックを繰り出す。
◯◯:おりゃぁぁぁぁっっっ!
今回は手応えを感じた。
着地しグムンを見据える。
右足から白煙が上がっている。
グムン:ウグッ…グゥゥゥッ!
胸に刻まれた紋様が今回は消えない。
生じたひび割れがベルトに達する。
グムン:ボソグ…ボソグゥゥゥッ!
断末魔と共にグムンが爆発を起こし、肉片が周囲に散った。
さくら:倒した…?
◯◯:はぁ…はぁ…うっ
◯◯は地面に倒れた。
装甲が消え去り、生身の◯◯が現れる。
さくら:五代くん!
さくらが◯◯に駆け寄る。
抱き起こしながら
さくら:なんて無茶なことするのよ!
涙が◯◯の顔に落ちる。
◯◯:さくらさん、俺、やりました…ヴィジョンが見えて…
さくら:五代くんしっかり!
◯◯の意識が遠退いていく。
◯◯:俺、2020番目の技、身につけました…
サムズアップした右手が落ちる。
◯◯はさくらの腕の中で気を失った。
さくら:五代くん!
to be continued…