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Another Legend‐空我‐ Season壱 Ep.04「Encounter‐邂逅‐」
2020年2月10日 午後4時19分
坂道市康町4丁目 坂道川中流域
坂道川の水が赤く染まっている。
まるで地獄絵図に登場しそうな光景だ。
その中を悠々と泳ぐ異形の影。
水面から浮上したその姿はピラニアの獰猛さを思わせる。
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美波:第7号です!
堤防沿いの道で双眼鏡を覗いていた美波が無線機に叫ぶ。
杉田:こちらも捕捉した! お前の作戦、当たったな
水上艇にいる杉田が応答する。
美波は血の匂いに引き寄せられる第7号の習性を利用し、人工血液を川に撒くことを提案したのだった。
第7号による死者は今日までの3日間で54名に上り、その殆どが河辺に暮らすホームレスや河川工事の従事者、釣り客などだ。
これ以上の被害拡大を防ぐための作戦が見事功を奏した。
美波:五代!
◯◯:はい! 今度は逃がしません!
◯◯は赤いクウガに変身して物陰から飛び出し、河原に上陸した未確認生命体第7号―メ・ビラン・ギに戦いを挑んだ。
2日ぶりの再戦である。
今回こそ倒してやると◯◯の決意は固い。
不意打ちを食らったビランの左頬にストレートが決まる。
◯◯はビランの振るう腕部の鋭いカッターを食らわぬように注意しつつ、肉弾戦を有利に進めていった。
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カッターは赤のクウガの装甲をいともたやすく切り裂いてしまう。
前回はそのダメージが元で逃げられてしまったのだ。
◯◯:同じ手は食わないぞ!
◯◯は後ろに飛び退り、
◯◯:超変身!
ベルトのクリスタルが赤から青に変わり、装甲も青色になる。
青のクウガの素早さを駆使し、ビランを追い詰めていく。
この形態はパワーが著しく低下する。
その欠点を補うため、1021番目の技・中国拳法を用いてビランの攻撃をいなしつつ、相手を翻弄する。
◯◯の動きにビランは苛ついているようだ。
血に濡れた牙を剥き出しにして、ビランが腕のカッターを振るった。
バク転で躱した◯◯はカラーコーンのバーを掴むや、ビランに先端を向けた。
バーが瞬く間に変化し、青のクウガの専用武器―ドラゴンロッドとなった。
両端が伸びる。
伸びた一端がビランの鳩尾に命中し、ビランが吹っ飛ぶ。
棒術の要領でドラゴンロッドを振るう◯◯。
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目にも止まらぬ鮮やかさで振り回されるドラゴンロッドの攻撃にビランは防戦一方だ。
たまりかねたビランが方向を変え川に向かう。
◯◯も川に入り、ドラゴンロッドを振り回してビランの顔面や胴を打つ。
水に足を取られるが、青のクウガの能力のおかけでそこまで動きが制限されない。
ドラゴンロッドを巧みに操って、ビランに逃走する隙を与えないよう乱打する。
水飛沫を上げながら戦闘を続ける両者。
その光景を、離れた物陰から眺めるひとりの青年がいた。
蝶野陽一である。
彼は3日前、ビランが人を襲うところを偶然目撃した。
白昼堂々ホームレス2名を殺害したビラン。
その殺戮に、蝶野は目を奪われた。
ビランがひとりの首筋を噛み千切ると色鮮やかな血飛沫が舞った。
ふたり目はカッターで胴を薙ぎ払われた。
切り裂かれた腹部からこぼれ出る臓物。
ドバドバ溢れた赤黒い血液。
蝶野:(こ、これだ…)
彼の追い求めていた色がそこにあった。
どれだけ絵の具を混ぜても、出せなかった色合い。
生々しく、美しい赤。
その色をいとも容易くつくり出した未確認生命体という存在を、蝶野は敬慕するようになっていた。
今日も現れないかと坂道川に来てみたら、この戦闘に出くわしたのである。
蝶野:何故、邪魔するんだ…
蝶野は憎悪の視線を未確認生命体第2号に向けた。
報道では同族の扱いとなっているが、その行動はどう見ても人類の味方。
だが蝶野にとって未確認生命体の殺戮を妨害する第2号は邪魔な存在でしかなかった。
蝶野:頑張ってくれよ7号…
固唾を飲んで戦いを見守る蝶野を、付近を警戒していた美波が偶然見つけて声を掛けた。
美波は警察手帳を示し、
美波:ちょっと君。何してるの?
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蝶野:……
美波:ここは危険よ。すぐに退避して
蝶野:…っ
蝶野は食い下がろうとしたが、厄介事になるのはまずいと思い直し、無言のまま踵を返した。
美波は堤防の道を歩き去る蝶野の後ろ姿から目が離せなかった。
なんとなく目つきが気になったからだ。
背後からの打撃音に振り返る。
◯◯と第7号の交戦へすぐに意識が移った。
※
同日 午後5時10分
坂道市康町4丁目 坂道川中流域
ドラゴンロッドの一撃が顔面にヒットし、ビランの動きが鈍った瞬間を◯◯は見逃さなかった。
跳躍力を駆使して飛び上がると、
◯◯:おりゃあっっっ!
落下の勢いのままドラゴンロッドの先端をビランの腹部に見舞う。
吹っ飛ばされるビラン。
ビラン:ブゴッ…クウガァァァァァッ!
断末魔を残してビランは爆散した。
◯◯はひと跳びで河原に着地すると、変身を解除した。
◯◯:ふぅ…
美波が土手を下りて来た。
美波:お疲れ様。後始末はあたしたちがやるから、早く帰って休んで
◯◯:ありがとうございます。失礼します
杉田:お疲れさん
◯◯:お疲れ様です!
バイクに跨り堤防を駆け上がる。
大学へ寄ろうかどうしようか考えていると見知った顔を見つけた。
◯◯:蝶野!
蝶野が振り向く。
嫌なヤツに会った、という感じに微かに顔が歪んだが、◯◯は気づかない。
蝶野:やぁ…
◯◯:奇遇だな。こんなとこで何してんの?
蝶野:あー、えーと、画材を買いにな
◯◯:そっか
蝶野:そういう五代は何してんだ?
◯◯:まぁ、バイト帰り、ってとこかな
まさかクウガであるとは言えないので、思わず出た「バイト」という表現だったが、さすがに軽過ぎたかと◯◯は反省した。
蝶野:ふーん…そうか。じゃあ俺はこれで
◯◯:あぁ。うん。また大学で
逃げるように去っていく蝶野の様子が何故か気になる◯◯だった。
※
同日 午後5時23分
坂道市康町2丁目 路上
◯◯と蝶野の話している様子を見つめる男。
ワニルである。
彼は下流に掛かる橋からクウガとビランの戦いを見物していた。
胸に秘めた企みのための下調べだった。
変身を解除し人間の姿に戻ったクウガの顔を目に焼きつけた。
ワニル:妹さんに顔立ちがよく似てるねぇ
満足そうに笑ったワニルはそのままバイクで去る◯◯を尾けていて、この光景に出くわした。
◯◯と話す同年代の青年。
ワニルは彼に何かを感じ取った。
ワニル:へぇ。ほんとリントも変わったね…
何かを思いついた様子のワニレは◯◯ではなく、蝶野の後を追い始めた。
彼の中で企みの構想が膨らんでいく。
※
2020年2月12日 午後0時21分
坂道県立坂道高等学校 2年C組
心昭:うまそー!
天が持って来た弁当箱を開いた心昭が嘆声を上げる。
天:めしあがれー
心昭の反応に天はニコニコしている。
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いつも喜んでくれることが本当に嬉しい。
心昭:いっただっきまーす
唐揚げを口に入れる。
心昭:モグモグ…うまい! さすが天の手作りは違うなぁ
頬を膨らませた天が心昭の二の腕をつねる。
心昭:いてっ。なにすんだよー
天:それ、冷凍食品なんだけど
心昭:す、すみません…ど、どれが手作りですか?
天:これ!
玉子焼きを指差す。
ほんのり焦げ目のついた玉子焼き。
心昭:おいしい!
噛んだ瞬間、心昭の目が輝く。
天:良かったぁ
天に笑顔が戻る。
?:ふたりほんと仲いいよねぇ。さっさと付き合っちゃえば?
心昭が喉に詰まらせ咳き込む。
天:だいじょぶ心昭?
心昭:からかうなよ大園ぉ
玲:エッヘヘ
人懐っこく笑う彼女は、このクラスの学級委員長の大園玲だ。
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艶やかな長い黒髪が窓から射す2月の陽に照り映えている。
玲:天ちゃんが毎日お弁当つくってあげてるんでしょ?
天:そだよー
玲:晩ごはんもなんでしょ?
天:そそ
玲:もはや夫婦じゃん
心昭:ぐふっ
天:やめなよぞのー。心昭が窒息死するからさぁ
玲:ごめんなさーいエッヘヘ
自席に去る玲。
心昭:死ぬかと思ったぜ全く…
天:ウチらが付き合うなんてねぇ…ありえないよねぇ?
心昭:そ、そうだよなぁ!ハハハハ
照れ隠しにふざけ合ったが、どこか寂しそうなふたり。
天はカレンダーを見た。
天:(明後日なんだよな…バレンタイン)
またこの時期が巡って来た。
天:(今年こそは義理じゃなくて本命を…)
密かに誓った天であった。
※
同日 午後10時7分
坂道市 蝶野の自宅アパート
ようやく調色の終わった赤をペインティングナイフにとった。
ナイフを勢い良く滑らせると、真っ白なキャンバスが粘度の高い赤色に染まる。
白に映える赤を見た瞬間、蝶野陽一は悲嘆に暮れた。
蝶野:違う…こんな色じゃない…
彼はキャンバスをイーゼルから取って床に叩きつけると、力なく椅子に腰掛けた。
何度やってもだめだ。
どうしてもあの色が出ない。
未確認生命体第7号の殺戮による血しぶきの色を再現しようと必死だった。
恐怖はあった。
だが同時に、恍惚とした美しさに圧倒されてしまったのだった。
芸術的な鮮血の色が蝶野の心を掴んで離さない。
ふと蝶野は幼い頃、住んでいた家の近所にあった教会のステンドグラスを思い出した。
彩色がとても美しく、よく見惚れていた。
ずっと見ていても飽きない。
蝶野の考える「美」の根底にはそのステンドグラスがあった。
そこには聖母マリアが描かれていた。
蝶野:(マリア様も鮮やかな血を流すのだろうか)
蝶野はゆらゆら立ち上がると、ペインティングナイフを懐に忍ばせ外に出た。
蝶野は第4号のことが気に食わなかった。
鮮やかな芸術をつくり上げる未確認生命体を殺すからだ。
何者かは知らないが、自分の活躍を誇示しているようにしか思えない。
思い通りの色をつくり出せないことが蝶野の心を波立たせていた。
彼はあてどもなく歩いた。
途中居酒屋で酒を飲み焼き鳥を食べたが、全く味がしなかった。
店を出てまた歩く。
その女はたまたま目についた。
黒く艷やかな長い髪をした女だった。
もしかしたら、マリア様に少し似ていたからかもしれない。
さっきまで会食をしていたのだろう。
友人たちと別れ、ひとりで歩き出した女の後をついていった。
女は駅に向かわず、住宅地へと歩を進める。
近くに住まいがあるのかもしれない。
女が人気の無い高架下のトンネルに入った時、背後から襲い掛かった。
切れかかった蛍光灯が点滅している。
女が悲鳴を上げる前に口を塞ぎ、ペインティングナイフを振りかざす。
驚愕に目を見開く女の首筋にナイフを突き立てた。
女:げ…ひぃ…ぃ…
深々と刺し、抜いた瞬間。
鮮やかな血しぶきが勢い良く噴き出した。
蝶野:これだ。この色だ!
返り血を浴びながら、求めていたものに出会えた喜びに蝶野の心は沸き立った。
そして不思議なことに、自分がなんだか強くなれたような気がしたのだった。
※
2020年2月13日 午前8時11分
坂道市坂道町 住宅街
坂道市の中心部から少し外れた住宅街にパトランプの赤い光が無数に瞬いていた。
高架下トンネルに血まみれの遺体があると110番通報があったのは午前7時50分頃。
通報者は散歩していた近隣住民だった。
美波はパトカーを停めると現場に入った。
美波:お疲れ様です
所轄刑事:お疲れ様です
美波はシートが掛けられた遺体に手を合わせた。
所轄刑事:殺されたのは近所に住む女性で、首を刃物で刺されたことによる失血死。死亡推定時刻は昨夜の午後11時から翌日午前1時の間とみられます
美波:あたしが呼ばれたということは、通常の殺人事件ではない可能性があるんですね?
所轄刑事:はい。これなんですが…
刑事は証拠品保管袋を見せ、
所轄刑事:現場に落ちていました
美波は保管袋を手に取り、中身に見覚えがあることに気づいた。
以前、未確認生命体のアジトに突入した際に見つけた腕輪の玉にそっくりだ。
美波:これは未確認生命体の装飾品に間違いありません
所轄刑事:やっぱりそうでしたか…
刑事は「参ったな」という調子で後頭部を撫でた。
美波:ご遺体を見て構いませんか?
所轄刑事:どうぞ
美波はシートをめくった。
驚愕の形相が痛ましい遺体を検分する。
首筋に刺し傷があり、壁に飛び散った血液から見ても相当量の出血だったことが分かる。
美波は手口に違和感を覚えた。
どう見ても、人間の手による犯行に思えるのだ。
しかし現場には未確認生命体に関係する遺留品があった。
美波:目撃者は?
所轄刑事:残念ながら、見つかっておりません。現在機捜が周辺の防犯カメラ映像を収集しています
この辺りは夜になると人通りが殆ど絶えるエリアらしい。
美波:分かりました。私は一旦本部に戻って報告します
美波は釈然としない想いを抱えたまま現場を去った。
※
同日 午前9時38分
坂道市 蝶野の自宅アパート
蝶野:どういうことだよ…
蝶野はネットニュースの記事を読んで愕然とした。
昨日の殺人が未確認生命体の犯行の可能性があると報道されていたからだ。
彼は混乱した。
未確認生命体と誤解されることをした覚えは無い。
しかしこれは好都合だと思った。
蝶野の脳裏には昨夜の鮮烈な赤が刻み込まれている。
またあの赤を見たい欲求が彼の胸を焦がしていた。
捕まるわけにはいかない。
自分のやったことが勝手に未確認生命体のせいになっているのであれば動き易い。
また今夜も「作品」をつくり上げたい。
蝶野はイーゼルの上のペインティングナイフを見つめた。
※
同日 午前10時25分
坂道県立坂道高等学校 2年C組
休み時間。
心昭:はぁぁ…
天:どうしたの? 溜息なんかついちゃって
心昭:俺は今とっても憂鬱なんだ…
天:なんか悩みごと? 良かったら聞くけど
心昭:天よ。明日なんの日か知ってるか?
天:バレンタインデーだね
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心昭:そうだ! バレンタインデーだ!
天:急にデカい声出さないでよ
心昭:今年こそ…今年こそは! 本命チョコをもらいたい!
天:なーんだ、そんなことか
心昭:そんなこととはなんだよー。これは男子にとって死活問題なんだぜ
天:はいはい
心昭:誰か本命チョコくんないかなぁ
上目遣いで天を見る心昭。
ねだるような視線にドキリとしてしまう。
天:な、なんだよー///
心昭:くんないかなー…
天:だーれがあんたなんかにあげるかっ///
照れ隠しに本心とは裏腹のことを言ってしまい、心がチクリと痛んだ。
心昭:そっかぁ…
すごく残念そうに顔を伏せる心昭の姿に罪悪感を覚えてしまう。
天:(ごめん、心昭…ちゃんと明日あげるからさ…)
※
同日 午後3時6分
坂道大学 考古学研究室
さくら:はぁぁ…
古代文字の解読の手を止め、眉間を揉んだ。
うーんと伸びをし、カレンダーを見やる。
さくら:2月14日か…
今年もこの日がやって来る。
さくらは、バレンタインデーやクリスマスなどのイベントごとに一喜一憂するタイプではなかったが、
○○と出会ってからは少し事情が異なって来ている。
ここ毎年はイベントごとに何かをしようと思いはするのだが、生来の引っ込み思案が邪魔をして、全く行動に移せていない。
さくら:どうしよ…
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こういう時、うじうじ悩んでしまう自分が嫌になってしまう。
さくら:今年こそ…
さくらはスマホを手に取って手づくりチョコのつくり方を検索し始めた。
◯◯:こんにちは!
さくら:ひゃあ!
突然やって来た◯◯に驚いてスマホを取り落としてしまった。
◯◯:あらあら
◯◯が拾ってくれたが、画面を見られてしまう。
◯◯:手づくりチョコのつくり方…?
さくら:み、見ないでぇ///
恥ずかしさのあまりスマホを奪い取るようにしてしまった。
さくら:あ、ごめん…ありがと
◯◯:いえいえ。あ、そっか。明日バレンタインデーですもんね。誰かにチョコあげるんですか?
さくら:ふぇっ!? いや、その…
◯◯:さくらさんからチョコもらえるなんてその人幸せものっすねぇ
さくら:み、美波さんに、あ、あげるやつだから…
◯◯:あぁ、一条さんにですか…
◯◯が少しだけしょんぼりしたような気がしたのは気のせいだろうか。
さくら:今日はどうしたの五代くん?
話を逸らすことにした。
◯◯:みたらし団子買って来たんですけど、良かったら一緒にどうですか?
さくら:わぁ。ありがとう! 食べよ食べよ。お茶淹れるね
さくらはお茶の用意をしながら静かに溜息をついたのだった。
※
同日 午後8時21分
坂道市 五代家
◯◯:お先ー
風呂上りの◯◯がキッチンを覗くと、エプロン姿の天がせっせと何かをこしらえていた。
長い髪を後ろで束ねている。
◯◯:何やってんの?
天:チョコつくってんの
◯◯:なるほど。バレンタインデーだもんな
天:兄貴の分もちゃんとあるから期待しててね
◯◯:いつもありがとな。天だけだよ、兄ちゃんにくれるの
天:どういたしまして
◯◯:ん? 兄ちゃんの分「も」ってことはまさか別に本命が…
天:さぁどうでしょう
◯◯:いよいよ天もそういう年頃になったのかぁ
◯◯は腕組みをしてうんうんと頷いている。
天:何しみじみしてんだよー
◯◯:付き合うってなったらちゃんと兄ちゃんに紹介するんだぞ
天:うるさいなー///
◯◯:俺は天の父親代わりでもあるんだから
天:はいはい
天は溶かしたチョコを混ぜつつ、
天:(小声)ってか兄貴もよぉく知ってるヤツだし…
◯◯:え、そうなのか!? 誰だ誰だ!?
ボソッと呟いただけなのに聞こえてしまっていたようだ。
天:もう! あっち行っててよ!///
キッチンから◯◯を追い出した天は溜息をつきつつ、調理に集中する。
兄貴って恋愛系の話になるとほんと鈍感だよな、と天は思った。
※
同日 午後11時17分
坂道市康町 高架下
ペインティングナイフを首から引き抜くと女が膝から崩れ落ちた。
蝶野が壁を彩る鮮血に見惚れていると、背後から声を掛けられた。
ぎょっとして振り向くと、白シャツにジーンズ姿の青年が立っていた。
ワニルである。
蝶野がペインティングナイフを構えると、
蝶野:誰なんだよ、お前…
ワニル:まぁまぁ落ち着けよ、リントのお兄さん。君と似た存在、とでも言っておこうか
蝶野:は…?
始末すべきだ、と蝶野は直感的に思った。
殺人を見られたのだから。
ワニル:美しいね…
ワニルが壁に飛び散った鮮血を見て、うっとりしたように呟いた。
蝶野:うつく、しい…?
ペインティングナイフを繰り出そうとした手の力が緩んだ。
ワニル:あぁ。とても美しい赤だ
蝶野はペインティングナイフを落とした。
分かってくれるヤツがいた。
ワニル:こんなにも芸術的な行為が罪になるなんてね
喜びにへなへなと路面に座り込んだ蝶野にワニルは手を差し伸べた。
ワニル:俺たち、仲良くやれそうじゃないか
蝶野はワニルの手を掴んで立ち上がった。
蝶野:どころでお前、何者なんだ?
ワニル:君らが未確認生命体と呼ぶ存在だよ
蝶野:まさか。冗談だろ
ワニル:証拠見せようか?
ワニルは一瞬にして怪人態に変化した。
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蝶野:うわぁっ!
蝶野は尻餅をついて後退った。
ワニルは人間態に戻り、
ワニル:安心してよ。あんたのこと殺す気はないから
蝶野:も、もしかしてお前か。殺しの現場に未確認の遺留品を置いたのは
ワニル:ご明察
蝶野:どうしてだよ
ワニル:さっきも言ったろ。仲良くやれそうだって。俺とあんたは同じ匂いがする。だから助けてやってたのさ。こういうの、リントは事後共犯って言うんだろ?
未確認生命体と知ってさすがに驚いたが、生まれて初めて自分を理解してくれた者に出会えた喜びは何物にも代えがたいものだと思えた。
鬱屈していた心が嘘のように晴れていく。
ワニル:もっと楽しまないか、俺と
蝶野:あぁ…
ワニルの差し出した手を迷わず握った。
ワニル:それでさ、提案があるんだ
蝶野:なんだい?
ワニル:すっごく楽しいと思うよ
ワニルは常から温めていた企みを蝶野に語り始める。
やがて時計の針は2月14日、午前0時を指した。
to be continued…