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短編小説 | 向日葵

メッセージアプリを開き、ピン留めされたトークルームを長押しする。1週間以上前に送ったメッセージに「既読」の文字は見えない。背景に映る満開の向日葵はいつみても美しい。

全て忘れてしまえればよかったのに。

そんな風に思わずにはいられなかった。あの時、声をかけない方が良かったのではないか。私に誘われるのは迷惑なのではないか。本当は断りたくてもノーと言えないだけだったのではないか。返事がないのは今回に限ったことではないが、それでも考えてしまう自分がいる。
日付以外何も決まっていない予定を記した、カレンダーの星印に視線を落とす。部屋に溜息が響く。

わかっている。
私にとって貴方は特別な人だけど、貴方にとって私はそうではないのだろう。わかっているけれど、もう期待はしていないのだけれど、願うことはやめられない。向日葵がよく似合う貴方のことを想い続けている。


私はもっと貴方と仲良くなりたいのです。もっと貴方を知って、もっと貴方を好きになりたい。私に興味を持って欲しい。私をもっと知って欲しい。欲を言えば私を好いて欲しい。
例え、比べようがないくらい私の愛の方が重かったとしても、同じ意味で私を好いてくれなくても、それでもいい。
私が人生で持っている全ての運を使い果たしてもいいから、貴方の側にいさせてほしい。

今日もきっと夢をみる。特別に可笑しなところはないけれど、ちょっとだけ私の思い通りな世界で、私はきっと貴方を探すのだろう。私が望む言葉を囁いてくれる貴方を前に、夢から覚めたくないと願いながら朝を迎えるのだろう。


手にしたスマホから振動が伝わってくる。


×××
1件のメッセージ


数ヶ月前に私が撮った写真。アイコンに映るのは、向日葵を抱えながら笑っている、夏がよく似合う人。
私の大切な人。

本当にずるい人だ。もう諦めようと思った瞬間、見計らったようなタイミングで届く返事を、何度目かわからない長押しで確認する。

明日の私は水族館に行くらしい。今日は、久々に会えるあなたのことを想いながら早く寝るとしよう。できるなら万全のコンディションであなたに会いたいから。

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