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#314 なぜテイラー・スウィフトの政治発言は叩かれたか?

本日(2月7日)テイラー・スウィフトの日本公演が東京ドームで開催された。5年3カ月ぶり。

2018年10月のこと、彼女は1月に行われる中間選挙で民主党を支持する意向を明らかにした。これに対して当時の大統領トランプは、「彼女は何て言ったんだ?」「彼女の音楽が25%くらい嫌いになったと」とコメントした。

米国のSNSではバッシングに近いものとなった。

こうした報道に日本のメディアは「歌手の政治的発言は異例」、そしてテレビのコメンテーターは「聞いたこと無い」「あまりない」などと発言していましたね。

この日本のメディアに対して「本当かよお」「なんか変だな」と思った人は多いはず

「ロックなんか常に反体制だった」「パンクどころかニューウェーブ、ブリティッシュ・ロックなんて政治的発言しかなかった」「70年代末に恋愛の歌なんて聞いたこと無かった」「社会的発言や社会性のある歌でないとヤワイと思っていた」「いやいやフォークなんて反戦しかなかった」「ベトナム戦争当時のヒッピーだって平和主義」とね

いつから「歌手や芸能人は政治発言しないなどと思うようになった?ずーっと発言してたよ」「日本だって政治的発言するロッカーはたくさんいる」

※ ここで日本における政治的発言は、政権批判、首相批判、政治家批判、体制批判、行政府批判、議会批判、政策批判、反戦などである。個人的な応援演説、首相と懇談くらいはあってもさすがに特定の政党の支持を明言することは少ないだろう。前田武彦の共産党バンザイはTVを使ったものだし、黛敏郎の右派、日本会議設立など極端なものもあるが、9条の会なども文化人に限られる。そもそも支持する政党など無い、政治発言=自民批判程度という薄いものが日本の現状。一方、米国は二大政党制ということもあって政権批判は反対側支持となってしまう。よって米における政治発言はそのまま特定政党支持になることに注意。よって米国の方が発言の意味は高いと考えられる。それでも米有名人の多くはリベラルであるから民主党寄りが標準。共和党支持はギョッとされる。

さてさて、これはどういうことなのだろうか?テイラー・スウィフトだけの特別な扱いなのだろうか?

まずはテイラー・スウィフトの異常な人気ぶりと影響力の高さがある。「スウィフトノミクス」とも言われカネが動く。それにトランプや共和党は戦々恐々としている。民主党はそれを使おうと目論んでいる。だから過敏に反応するのは仕方ない

しかしそれだけでは説明できない。人気者はいくらでもいるし、影響力のある芸能人なんてたくさんいる。ハリウッドなんかはほとんどリベラルだからね。実際、反共和党、嫌トランプを明言なんてゴロゴロいる

答えは「裏切り」が加わるからだ。それは小さなものと大きなもの2つある

(1)一つ目は政治的発言から距離を置くと発言したにも関わらずしたからだ

彼女が有権者となった最初の投票、2008年の大統領選挙の際、オバマを支持すると表明。「皆さんがどう投票するかについて影響を与えることを自分の仕事だとは考えていません」としながらも。しかし2012年のインタビューでは「できるだけ勉強をし、確かな情報に基づいて発信するよう心がけている」「いたずらに他人に影響を与えないようにするために、政治から距離を置く」と語っている

この発言に対して米メディアから「政治へ無関心」と批判された

トランプ支持者からは、「実は隠れトランプ」「実は白人至上主義者」「(ナチスの)アーリア人の女神」と呼ばれるようになってしまった。

彼女はそれに反発するように、前述の2018年10月の民主党を支持になったのだ。女性の候補者に投票。ヘイトクライムに反対。性差別やLGBTへの差別を批判

これによって、「政治的発言は控える」はずだと思った側、「アーリア人の女神」支持者側、の両方から「裏切り」とされることになってしまったのだ

(2)2つ目は「カントリー」という出自

これは(1)のトランプ支持者からなぜ女神扱いされたか、にも関連する理由である

カントリーは主に南部の白人の音楽である。イギリス系移民が持ち込んだ音楽。民謡・バラッドがベースである
もともと東部のアパラチア山脈周辺で白人系の移民が始めた(特に19世紀の飢饉から移民となったきたアイルランド系が多い)
レッドネックの人たちの保守的な貧困白人層。農業のプアホワイトやヒルビリー(「田舎者」)。福音派 キリスト教系宗教右派である 中絶反対で進化論も信じない 聖書に書いてあることは全て正しいとする こういう白人が多いのだ

「マウンテン・ミュージック」「カントリー&ウエスタン」とも呼ばれ、ゴスペルやブルースの要素入っていて、50年代に生まれたロックンロール一部にはなっている。しかしカントリーという音楽をアメリカの黒人をはじめ有色人種は絶対に聞かない。だって考えてごらん、日本で民謡を日常的に聞く外国人ルーツの人なんて相当変わった人でしょ

特殊な例として日本だけはハワイアン、ラテンと同様にバンド系の音楽ジャンルとして存在した(小坂一也、ジミー・時田など)こともある 単なる器楽演奏のジャンルとしてだけど

↓ 黒人など全く住んでいないかのような映像でしょ(南部の奴隷制度によって黒人比率は高いにもかかわらずだ)

スウィフトの母親はスコットランドとドイツ系で、父親はスコットランドとイギリス系です。テイラーというのはWASP系の職業性ですが、彼女のテイラーはファースト・ネーム(given name)です。これは男女ともに使われるユニセックスな名前です。テイラーという名前は両親ともに好きだったジェームス・テイラーからとったらしい。スウィフトは英系の苗字です。母親の旧姓はフィンレイ(Finlay)でスコットランドの苗字です。

彼女は1989年ペンシルベニア州に生まれているが、歌手を目指すためにテネシー州ナッシュビル(カントリーの中心地)に転居している。

フランシスコ会の修道女によるプレスクールおよび幼稚園に通い、長老派教会を信仰している

祖先は3代にわたる銀行頭取。父親はメリル・リンチ、母親は投資信託のマーケティング管理(その後主婦)

やっぱりW.A.S.P.(ホワイト・アングロ・サクソン・プロテスタント)ですね。白人の支配層の保守派

ちなみにテイラーの母アンドレアは1958年1月生まれ。南部テキサス州のヒューストン大卒ですが、彼女が23歳のときカントリー歌手のジュース・ニュートンの3枚目アルバム『夜明けの天使 (Juice)』が大ヒットしています。この頃始まったMTVの初日に「夜明けの天使 (Angel of the Morning)」のビデオが流れたことは有名です。今みるとテイラー・スウィフトの原型のようです。母アンドレアを通してこのアルバムが影響しているのは間違いありません。(母親は先述のジェームス・テイラー、後述のデフ・レパードのファンでもある)

この頃、共和党のレーガン大統領になり保守思想が広まり、カントリーがブームになって映画もいくつかつくられたほどです(ジョン・トラボルタ『アーバン・カウボーイ』、ドリー・パートン『9時から5時まで』なんか)。89年にレーガン政権が終わると、RCAはカントリー歌手をリストラしました(ジュース・ニュートン、ドリー・パートン、ケニー・ロジャースなど)。その年にテーラーは生まれました。

テイラーは歌や演技のレッスンを受けていて、「シャナイア・トゥエイン」の歌を聴いて衝撃を受け、カントリー・ミュージックへの興味が出た。90年代〜00年代のカントリー歌手で歴史上最高売上記録を持つ

シャナイア・トゥエインの多くの曲は夫のマット・ラングがてがけていた。彼はブリティッシュ・ヘヴィメタルのデフ・レパードのプロデューサーなのだ。マットはXTC、AC/DC、フォリナーもやっている。テイラーはカントリーのシャナイアとメタルのデフレパードのプロデューサーが同じことに驚いたのだ。「こんなに幅広いジャンルでもOKなんだ」と思ったはずだ。

地元のタレント・コンテストで優勝し、「チャーリー・ダニエルズ」の前座として出演する機会を得た。11歳のときだ

※シャナイア・トゥエイン(1965年-)はテネシー州ナッシュビルの女性カントリー歌手。1996年『カム・オン・オーヴァー』でグラミー賞カントリー・女性ヴォーカル部門受賞している。(テイラー11歳のときだ)

※チャーリー・ダニエルズ(1936年 - 2020年)はカントリー・ミュージック、サザン・ロックの重鎮。90年代はゴスペルや宗教音楽のアルバムもリリースしている。白人保守層の聴く音楽といえば「ザ・チャーリー・ダニエルズ・バンド」が定番である グラミー"The Devil Went Down to Georgia"(1979)は映画アーバン・カウボーイで使われた。

11歳の時、母と共にカントリーミュージックで名高いテネシー州ナッシュビルのミュージック・ロウのレコードレーベルにドリー・パートン(※いわずと知れたカントリー史上最も称賛されている女性歌手)やディクシー・チックス(※カントリー・ミュージックの3人組バンド、ディクシーとは南部奴隷制の言葉)のカラオケ・カヴァーの自作のデモテープを提出

2004年RCAと契約してデビュー

2005年ドリームワークス・レコードへ。カントリー・ミュージック業界への参入

ファースト・アルバム『Taylor Swift』は音楽的に「カントリーの伝統楽器と今どきのロック・ギターの融合」と説明される

2006年シングル・リリース。Myspaceのページを立ち上げた。これは当時、「カントリー界の革命」であった。※重役スコット・ボーケタは眉をひそめたそう(SNSなどカントリーにはそぐわないから)

2007年には、3枚目のシングルである「Our Song」がカントリーチャートで6週連続1位を記録する大ヒット

第52回グラミー賞では、『Fearless』が最優秀アルバム賞と最優秀カントリー・アルバム賞に、「White Horse」は女性カントリー・ヴォーカル・パフォーマンス賞と最優秀カントリー・ソング賞に選ばれ、計4冠を獲得

カントリーミュージック協会賞のエンターテイナーオブザイヤー(最年少)とアルバム賞を受賞

「Mean」は、第54回グラミー賞で最優秀カントリー・ソング賞と最優秀カントリー・ソロ・パフォーマンス賞を受賞。スウィフトは、ナッシュビルのソングライター協会によるソングライター/アーティスト・オブ・ザ・イヤー(2010年、2011年)、ビルボードによるウーマン・オブ・ザ・イヤー(2011年)アカデミー・オブ・カントリーミュージックによるエンタテイナー・オブ・ザ・イヤー(2011,2012年)、カントリーミュージック協会賞(2011年)、2011年のアメリカン・ミュージック・アワード、アーティスト・オブ・ザ・イヤーとフェイバリット・カントリー・アルバム賞を受賞した

4thアルバム『Red(レッド)』は2012年リリースされ、ハートランド・ロック、ダブステップ、ダンス・ポップなどのカントリー以外の新しいジャンルが取り入れられた。

2014年の5thアルバム『1989』でカントリーから離れて、完全にポップ・スターに変わったのだ

テイラーはカントリー音楽ばかりの人ではないことはメタルのデフ・レパード(母親がファンだった)との共演を楽しんだことでもわかる。カナダの人気音楽テレビ番組CMT CROSSROADS(2008年11月30日)DVDにはデフ・レパード楽曲のカントリー・バージョンもある

それでもカントリー界ではスターであり続ける。2016年アカデミー・ オブ・カントリー・ミュージック・アワードではカントリー音楽界で大きな功績を残したアーティストに贈られる「マイルストーンアワード」を受賞している

要するに、テイラー・スウィフトは依然としてカントリー=南部白人保守層のアイコンであり彼らの心の中ではナッシュビルのカントリー歌手であり続けているのだ。

南部の白人保守層とはトランプの岩盤基盤である。彼らの育てた娘のようなテイラーである。

それがよりによって民主党支持の発言するとは・・・これは「裏切りだ」と

それでSNSで炎上したのだ。
ただの人気歌手が政治発言したのとは訳が違うのだ



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