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現代漂流、ポケットにはミュージック -山田亮一の比喩と言葉遊び

漢検2級の四月です。本当です。

このあいだハヌマーンを勧めた友達が間違えて「ハマヌーン」と覚えていてちょっとウケた。ウケたので訂正しないでいたんだけど、このあいだその友達のいる場で別の人に「煙草、セブンスターなんですね」と言われたので「ハヌマーンっていうバンドの、あ、今はバズマザーズっていう別のバンドやってるんだけど、そのボーカルの山田亮一って人の真似をしていて」と説明したら、件の友達が「今この瞬間までハマヌーンだと思っていた」と恥ずかしそうにしていた。好きなバンドマンと同じ煙草を吸っちゃうイタさに関しては触れないで欲しい。

好きなものって人に教えたいけど、好きすぎるものってあんまり人に教えたくない。好きなバンドは?って聞かれたらハヌマーンとかバズマザーズって答えるけど、お勧めのバンドは?って聞かれたらそうは答えたくない。でも、ときどき、誰かと一緒に山田すげえって話をしたいなって思ったりもする。わかられてたまるかという気持ちとわかってほしいという気持ちが混在している。ワガママです。
その、ときどき、のために、自己満足で書き始めました。キリが無くて早速後悔しています。本当は「山田亮一の好きな歌詞」みたいな記事にしようと思ったんだけどそんなことすると全曲全歌詞を載せなければいけないのでやめました。そんな壮大なもん誰が読むんだ。この記事ですら現時点で5000字超えてる。レポートかよ。※追記 最終的に7000字超えた。

でももう書き始めちゃったから最後まで書きます。書き終えちゃったら読んじゃって欲しい。他人の好きなもんの話なんてつまらないけどさあ。愛してくれたら嬉しいよ。


若者のすべて(ハヌマーン)

青年と走る鉄塊は交差して
赤黒い物体と駅のホーム
復旧を告げる放送を聴きながら
その光景を持って身震いする

基本、歌は歌詞よりメロで聴きがち。「曲調が好き」から入って、しばらくどんな歌詞かあまり注目せずに聴いて、あとから「こんなこと歌ってたんだ」とより一層好きになったり、まあそうでもなくなったりする。
この曲も歌詞を意識して聴くようになるまでしばらくかかった。で、なにかのタイミングできちんと歌詞を見て、ハ?となった。ハ?なんだこれは?人はあまりに良いもの(格好良いとか、美しいとか)を目の当たりにするともう「なんだこれは」としか言えなくなる。なんだこれ?どうなってんだ山田の脳みそ。
気がついてからというものの、最初の2行で毎度感動してしまう体になりました。もう戻れません。書きながら今もわけわかんないよって思っている。「死」という言葉を使わずに人が死んだことをこんな風に描写できる人間をわたしは他に知らん。もう、なんか………無理。やってらんないよ………。

時間は過ぎてく
その現実に眼球を何時まで逸らすつもりか
逢えない誰かを想うとは失念の念を贈る事さ
心で歌うな 喉で歌え
オンボロになって初めて見える価値
that's killed me 歌うのだ 失望の望を怒鳴るのだ

生きるしかないなあって思う。希望の歌です。こんな歌詞で希望を歌う人、他に知らんよ。


アナーキー・イン・ザ・1K(ハヌマーン)

部屋で俺、思想犯
アナーキー・イン・ザ・1K
部屋で俺、革命犯
アナーキー・イン・ザ・1K

この曲を好きになったばかりの頃に、ハヌマーンを勧めてくれた人に「あの曲いいね」と言ったら「あの曲はね、人生。」と言われてウケた。スケールがでけえ。
でも言いたいことはわかる。いつだって部屋の中だけでは「一人残らず呪い殺してやるぜ」と思って生きてる。思ってるだけだけど。みんなそうでしょ。良い人ぶらないでいいよ。


ワンナイト・アルカホリック(ハヌマーン)

日暮れ 路面電車に飛び乗って 現実逃避を計りまして
流れる景色を見る様な 窓にうつる自分を見る様な
およそ空っぽの頭の中 やけに響く英語のアナウンス
ビルを超えて 山を越えて あの娘が住む町を越えて
気付けば夜に変わっている 静かに時は流れている
通りの向こう灯る店の 侘しい光に呑まれていく
胸の辺りで二回転半 グラスに注いだ毒を廻す
知らない町の知らない人 覚えたばかりのソレを飲めば
誰もが馬鹿に想えます

好きすぎて一番の歌詞まるまんま載せてしまった。
情景としては、「なにか嫌なことがあった男が現実逃避の為に路面電車に飛び乗り、テキトウな知らない町で降りて居酒屋で酒を飲んでいる」っていう感じなんだと思います。それだけの風景をこんなに叙情的に書かれたらたまったもんじゃないぜ。宮沢賢治もびっくり。ごめんそれは言い過ぎた。

ちなみに一番好きなのは二番の歌い出しの歌詞。

訳アリっぽい男女の番が 何やら耳打ちで話出して
「どうして?」の問いに 「愛してる」って
答えになってないぜ 兄さん

お洒落が度を過ぎてる。なんなんだよもう。


スクールカースト(バズマザーズ)

シラフで卒アルを開いて笑える人間が、この世に五万といる事も
率先して同窓会の幹事をする様な、人間が事実いる事も
越権だ、お前がそれを否定するのは 受け流してりゃ良いと想う
人生なんて、騙し絵みたいなもんさ、お前の焦点が合う世界を信じてりゃ良いと想う

高校時代にこの曲に出会っていたらこのアフロに全財産を捧げていた可能性すらある。

この曲の話したすぎて、「騙し絵みたいなもんさ」の「みたい」を比喩ということにしてこの記事に捻じ込みました。力技すぎる。
お前らみたいに暗いやつもいるんだから、お前らが否定する明るいやつらだって当然存在するんだよ!人それぞれだよね!みたいな歌詞なんだけど、それを、なんか、こういう言われ方をされてしまうと、むしろ許されたみたいな気持ちになってしまう。卒アルをマジで燃やそうか悩んだこととか、成人式のあとの同窓会に出ずに帰ったこととかを。
なにかのインタビューで山田亮一がこの曲について『青春時代ってほぼ全員が「みんな俺の事好きになって!さもなくばこの場で皆殺しだ」という、訳のわからない躁鬱状態なので、もっと気持ち悪い歌があるべきなんです。それを表現したかった』みたいなことを言っていた。マジで月並み且つ気持ち悪いこと言いますけど、山田のいる時代に生まれて良かったわたしは。

ちなみに、この曲は曲自体の編成もなんだか難しくて、プログレみたいなギターで始まったと思ったら歌いだしでいきなりキャッチーになって、かと思うと一番が終わってすぐノイズだらけでなにを言っているかわからなくなる。この「なにを言っているかわからない」の部分でなにを言っているか知ったとき、わたしはちょっとだけ泣いた。

残念ながら、ズレてるのはお前だ この歌もクラスの大多数に否定される
だから誰にも奨めなくて良いよ お前が百万回聴いてくれたらそれで良いよ

山田のいる時代に生まれて良かったわたしは………。キモくても良いです。百万回聴く。


アパルトの中の恋人達(ハヌマーン)

予定のない今日の月の形
夜にかじられたようなそんな形
あの月はなんて名前なのかな
理科の授業もっとちゃんと聞いとけばな
星屑の点を線で繋ぐように
あなたとの日々も意味を持つかな
臥し待ち月が出てるからでしょう?
やけに叙情的になってしまうのは

月の名前も知らず、ぼんやりと脈絡のないことばかり考えているテキトウな男と、「臥し待ち月」を見上げて現実的な不安に思いを馳せている女。

一番の歌詞が男性目線、二番の歌詞が女性目線、みたいな歌詞の書き方はクリープハイプがよくやっているイメージ。ちなみにクリープハイプのそのパターンの歌詞では2LDKが圧倒的に好きです。同棲解消の歌なんだけど、一番で男が「僕の為に料理をする君の為のキッチン」と歌い、二番では女が「君の為に料理をする二人のキッチン」と歌う。「君の」と「二人の」というたった3,4文字で「擦れ違ってんなーーーー!!!!」と思わせて来るのヤバイ。

話が逸れました。この曲もそれに近いところがあって、恐らく一回性行為をした後の、事後の二人を男目線と女目線で歌っている。んで、この後の歌詞の中にそれぞれの目線で「夜の信号」が出てくるんだけど、

誰も知らない所で虚しく色を変える夜の信号は
まるで今の自分そのものだった
もたげる首の角度までおんなじだった
守られるか無視される以外には用途のない夜の信号は
ああなりたくないと思う女子そのものだった
不憫そうな姿までおんなじだった

対比の仕方がえぐくない?だからどういう脳みそしてんだよ

ちょっとこの曲は好きすぎるのでもう少し書きます。
この曲の本当に好きなところは、この後最後のサビで性行為のことを男が「愛し合うと言うにはおぞましいほど醜い行為に果てた後で ざらっとする後ろめたさはなんだろう」と歌った後に、床に転がる彼女のぬいぐるみを見て「所詮中身はスポンジと綿だし 涙ぬぐい取るそのオンボロみたいに僕はなりたい」と歌って終わるところです。

あのー、「愛のない行為」っていう表現がね、あるけども、そもそも行為自体が愛だのなんだのとはあんまり関係ねえもんだろって思う時がね。あります。突然どうした。その話このまま続けても大丈夫か。親も上司も昔の恋人も読んでるぜこれ。
まあ続けます。ハイ。「愛する」っていう目的のもとそれをする人ももちろんいて、でも「傷つける」とか「支配する」とか「搾取する」とかそういう目的の場合だってあると思う。恋人同士であったとしても。だって徹頭徹尾純粋な愛だけでやり抜けるものじゃないだろうよ。ねえ。やだーもう。イタイね?
少なくともこの曲の中では「愛し合うと言うにはおぞましいほど醜い行為」で、終わった後にあるのは幸福じゃなくて「ざらっとする後ろめたさ」で。それはこの二人の関係性がもうそんなふうになってしまっているとかいう話じゃなくて、そもそもそういうものなんだと思うんです。もともと。と、いうふうにしか思えないときって、あるじゃん。そんないいもんじゃねえよなって。いや別にいつもそんな悲しいこと思ってるわけじゃないよ。でもそういうときもたまにあるじゃんっていう話です。
だから男は、彼女に愛以外のなにかをぶつけずに済む、ただ涙を拭ってあげるだけの薄汚れた人形になりたいと願っていて。

ハー。そんなん愛じゃん。それこそが!(ここまで全部早口)

色んな人の解釈を見ていると、この曲の男女の間にもう愛と呼べるものはなくて、特に男の方は惰性でそばにいるみたいな解釈が多くて。まあそうなのかもしれんけど。実際に2LDKみたいに「擦れ違ってんなーーーー!!!!」となる描写も多いし。
でもわたしは、彼女をこれ以上傷つけず彼女からなにも奪わずただそばにいて涙を拭うだけの存在になりたいという気持ちは愛でしかないだろって思います。

ていうかこの曲に割いてる行数だけ異常じゃないですか?大丈夫ですか?ついてきてくれてますか?


ネイキッドチャイニーズガール(ハヌマーン)

アヘンなんかよりずっと遅れたひどい娯楽で
愛情なんかよりずっと清潔なABC

山田亮一は風俗だのなんだのを世界一文学的に表現することでおなじみ。いや知らんけど。
中国人風俗の歌なんですけど、この直球も直球なタイトルからのこの比喩。なんなん?わたしが山田の嫁だったとして、こんな風に歌にできるなら家計を圧迫してでも風俗に行っていいよと思ってしまう。もう好きにしてほしい。でもたまにはわたしのことも抱いてほしい。ハ?なんなんだよ。書けば書くほどキモい。もうやめたい。


ヤンキーズカーシンコペーション(バズマザーズ)

飛べない鳥のあざとい看板 量販店の駐車場
安いホラー映画の冒頭で伏線も無く死ぬ様な
ヤンキーズカーが行き交う

「ドン・キホーテでたむろしているヤンキーが怖い」という歌。ただそれだけの歌。それだけのことをめちゃくちゃ格好良く歌いあげている。
ドン・キホーテの看板のペンギンを「あざとい」と半ば馬鹿にし、たむろするヤンキーのことを「安いホラー映画の冒頭で伏線も無く死ぬ様な」とこれまた格好つけた比喩でコケにしておきながら、

だからBaby 俺はずっと感情の無いフリをしてたんよ
夜はヤンキーズシンコペーション
目が合いそうで、只々狼狽

いやめちゃくちゃ怖いんかい。
特にラスサビの歌詞がすごく好きで、

するとどうだい、奴さんと来たら入口付近でたむろ
ダルマさん転びっ放しで 俺、動けずに只々狼狽

「一歩も動けない」を「ダルマさん転びっ放し」と例えるお洒落さ。どういうことなんですか?
でも結局のところヤンキーが怖いということしか歌っていない。すげえよ。メッセージ性もクソもない。良すぎ。


ロックンロールイズレッド(バズマザーズ)

連日のショーと車中泊で 悲鳴を上げて軋む関節
「果たして意味はあるか味」の飴をずっと舐めてる気分さ
引き延ばして来たせいで、水色になった青い春を、機材を、旅情を、楽団を乗せて走る拘束の飢え

カラオケでわたしが一番歌うバズマザーズの曲といえばこれ。ロックンロールイズレッド。知らんがなという話ですが。
音楽を続けていく葛藤みたいなもんを歌っている曲だとわたしは思っていますが、この「引き延ばして来たせいで水色になった青い春」という表現がいい。山田亮一の歌詞の好きなフレーズランキング上位に入る。詳しくは書かないけど、わたしにもある。ずっと引き延ばして来てる夢みたいな野望みたいなやつ。25歳にもなってそれを青春と呼んでなにが悪いかよと思う。思うよ。思うだろ。諦めの悪い大人はみんな聴いてくれ。

拘束の飢え」が「高速の上」とかかってるのもいいよね。バクのコックさん(ハヌマーン)の「歌が割れる」と「疑われる」とか、サレンダー(バズマザーズ)の「今夜おれはお前のもんさ」と「今夜お前はおれのモンスター」とか、吃音症(バズマザーズ)の「あー、また言葉に詰まる 伝えたい言葉など詰まるほどないのに」と「つまらない」がかかってるのとか、山田亮一のそういう言葉遊びが好き。


恋のデーデン(バズマザーズ)

卑猥目合い痛い位に愛撫を
体面、気丈、政情に荒廃
退屈凌ぐにゃ恋しかないよ
Baby俺と一緒に不幸になろうよ

恋が!\デーデン!/でお馴染み。別に馴染んでねえ。山田亮一ギャルの皆さんはサビの「Baby俺と一緒に不幸になろうよ」でいつも100万回頷いていることと思います。そんなファンだけを集めてバトルロワイヤルを開きたい。
ちなみにわたしもあります。そりゃあそうなのよ。

バズマザーズはハヌマーンのころと比べて格段に言葉遊びが増え、それに伴い歌詞が聞き取れないことも増えたんだけど、この曲のサビはマジでなに言ってるかわからん。で、改めて歌詞を見て「アーーーーー!!!」となる。多分みんななった。これ、二行目、すごくない?全部性行為の体位なんですよ。「対面、騎乗、正常に後背」ね。えっっっっっっろ。なにそのギミック?強い。ここ太文字にするの恥ずかしかった。

この歌詞を筆頭にして「山田亮一のエロい歌詞」という別の記事を書こうか真剣に迷った。それはさすがに書いてて照れてやめたので、ここで軽く触れておきますが、ワイセツミーの「イカれた愛欲に咆哮する夏至の夜」っていうフレーズと、あの頃モダンバレリーナとの「あの子の匂いだと思っていたものは市販のシャンプーの匂い アレの匂いだと思っていたものは俺の涎の臭い」っていう歌詞が好きです。後者のエロ生々しさ、とてつもねえ。もうやだ。


魔法使いの猿達へ(バズマザーズ)

「誰も孤独」と嘲笑う自分が、浅ましくて、くだらなくて、泣きたくなる
それでも転がり続けていくさ 懐古心はいつに増して名残雨に濡れるが、もう手を離すよ、
何処へだって飛んで行けよ、気紛れには思い出せよ
魔法使いの猿達へ  歌うよ 愛を、光を

タイトルが既に比喩。数少ない、前バンド・ハヌマーンへの想いを歌った曲です。ハヌマーンが解散した時、死ぬつもりで故郷の北海道へ向かったという話を聞いた上で聴くといつも辛くなる。
「ハヌマーン」というのはインド神話かなんかの猿の神様らしいんだけど、それを踏まえて曲名が「魔法使いの猿達へ」なのが、もうずっと辛い。魔法使いだったんだよな。

この曲では、ハヌマーンのメンバーのことを「容易に会える距離にいて、恐らく二度と会わない人達」と歌っていて。今年ハヌマーンのサブスク解禁にあたって「鬼自粛の頃に、皆退屈してるだろうと想い、三人で何か出来ないかと考えて」と山田亮一がツイートしたのを見て、サブスク解禁よりも「三人で」の文字が嬉しくて泣いた。ありがとうございました。本当に嬉しかった。


おまけ

バクのコックさん(ハヌマーン)

洗って何度も使う内に 右左脳に悪い水が溜まる
駄目になってしまうなら それでいーやって想う
生きる程嘘は重ばってく それでも明日を夢見て寝る
獏肥ゆる青い春 仰いだら赤い血の恥
笑って明日を迎えに行く 「死ぬよりマシだ」と吐き捨て行く
いつか良い事あるから それが何だって想う
歌声が夜を擦り抜け行く あなたの不安を殺しに来る
駄目になってしまうなら それでいいじゃないかと笑う

全歌詞載せたかった。比喩という観点で解説できる自信がなかったです。クソ!脳がキャパオーバーだ。でも明日も生きてやろうって思うよ。


なんかもうこのへんにしておくことにしました。この記事を書くにあたって改めていろんな曲を聴き返して歌詞を確認したけど、なにかの比喩なんだろうけどなんのことかわからんみたいな曲だらけで困った。こんなタイトルにしなきゃよかった。
こんなタイトルにして内容を限定したせいで書ききれなかった好きな曲も当然たくさんあるけど、それはもう、今度イヤホンをはんぶんこにして一緒に聴こう。そうしよう。そうでもしないともう収拾がつかないし。これを読んでそうしたいと思ってくれた人全員のところにわたしは飛んでいくよ。月でも城崎でも何処へでも。任せなよ。

好きすぎるものってあんまり人に教えたくないけど、もう教えちゃったからね。ここまで来たら全員一緒に好きになってくれよ。じゃあね。

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