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中小企業診断士実務補習の受講実録

 昨年1月の試験合格から半年をあけて、7月、8月、9月と3回の実務補習を受けた。受講前はただただ不安のみ。しかし、終わってみれば、得られたものは非常に多い。日常では恐らく知り合う機会のない方々と、最終日には旧知のようになる。少なくとも一回は実務補習を受講した方がよいと言われるのは、全くもって同感。


申し込み

 試験合格後、中小企業診断士として登録されるには、試験合格後の3年以内に15日間の実務補習か、実務従事が必要。これまた金銭的、時間的、体力的に負担が大きいと専らの評判。今後は15日間で2社(8日間で1社など)に変更されるが、今年度までは15日間で3社(5日間で1社)を受講するのが標準コース。修行中の立場を利用して実務従事も考えたが、受講できるのは今だけ。募集開始日に協会サイトから7月、8月、9月の各5日間コースをまとめて申し込み(新設された8日間コースの申し込みに出遅れ)。20万円ちょっと(税込)を振り込む。この実務補習が開催されるのは、全国で7地区のみ。東京は回数も多く、会場もそれほど遠くないので助かる。二次試験然り、地方から参加される方々のご苦労はいかばかりか。
 6月にテキストや受講心得、財務分析ツール「McSS」の案内が送られてくる。一通り目を通すが、何がどうなのかピンと来ない。McSSは、何かを間違うと料金が発生すると書いてある(初回の財務担当はパスしよう)。

7月コース

案内来る

 今回の7月コースは、7月5日(金)が初日。4〜5日前になると指導員の先生からメールで案内が来るらしい。こんなギリギリラッキー合格者がついていけるのか。いや、無理に違いない。日に日に不安が募る。どこまでも。
 6月30日、指導員の先生から案内が来る。メンバーは6名。自己紹介メールを見ると、4人は若く、不安な上に気後れ感がのしかかる(実務従事にすべきだったか)。最後の1人が同世代と判って胸をなでおろす。資料はDropboxで共有。
 前日夜にZOOMで顔合わせ。これはやっておいてよかった。ただ、受講生側の自主開催が原則。参加を強制してもいけない。担当パートは事前に募った希望から調整。今回は第1希望とした「マーケティング」。全員が初めての受講で、概ね各自の希望パートに就く。

初日(2024年7月5日)

 初日は、午前中に各パートの担当とヒアリング内容を決め、午後には訪問先でヒアリングという強行スケジュール。なので、事前の顔合わせは、初日のハードルを相当に下げる。
 この日は両国の会場に集合。同室に複数の班がいるが、他班との交流はなし。メンバーや先生と名刺交換をして、進め方や訪問先企業へのヒアリング内容の検討に入る。Slackを初めて使う。
 自席で持参した昼食をとり、訪問先へ移動。まだ移動中の会話がぎこちない。ヒアリングでは、提案めいたこともたくさん話してしまったが、控えるべきだった。
 訪問を終え、翌日の作業に向けて、訪問先最寄り駅のカラオケボックスでメンバーだけで打ち合わせ(他に場所がなく)。「カラオケボックスにしよう」と誰が言ったのか覚えていないが「機転が効くなぁ」と感心。報告書の方向性やタイトルを決める。「一曲だけでも歌っておけばよかった」と話しながら帰路につく。

2日目(2024年7月6日)

 両国の会場も使えるが、先生のご厚意で顧問先の1室をご提供いただく。ホワイトボードにプロジェクター、周りを気にせず作業ができる至高の環境。
 この2日目は最重要日。ヒアリング内容をまとめてSWOT、提案方針、報告書の各担当の小見出しまでを全員で決める。なかなかタイト。次回には、各自のパートを書いて持ち寄るので仕方がないが、今後に15日間で3社を2社に変えるのは、こうした事情からか。
 毎回、先生が各パートに関係するトピックを講義してくれる。メンバー間も少しずつ距離が縮まって議論も活発に。4名が残って会場近くで先生と懇親会。

自主学習(2024年7月7日〜13日)

 各自で担当パートの原稿を書く期間。報告書は、90±20ページ。よって、各パートは15ページが基準になる。それぞれ、分析、課題、提言の3部構成とするのがお作法。この班は私を筆頭に心配性(あるいは堅実派)が多かったようで、期間中に4回もZOOMで進捗確認(任意参加)。作業は早い人もいれば、私のような後半追い上げ型もいて、各者各様。自由業の私は昼間も作業できるが、お勤めの方々は大変そう。それでも短時間で驚くようなクオリティで仕上げてくる(すごい)。
 最後に一冊にまとめる(マージする)ので、記述ルールやフォーマットも共有する。今回は訳あって2章立てとなり、先生提供のWord書式を真似て2章立て版を作って配布。しかし、後々までこれの修正に振り回される。

3日目(2024年7月14日)

 前半に続き、同じ部屋を使わせていただく。まず、各自の原稿を共有。内容のすり合わせ、クロスチェックを経て、各自の修正作業へ。

4日目(2024年7月15日)

 作業の最終日。報告書以外の書類作業は他のメンバーにお願いして、Hさんと2人でマージ作業。PDFに書き出す度にWordの元ファイルの体裁が崩れる。
 このマージ作業は常に鬼門らしい。目次の自動生成を諦めて、本文を確定させてから、手作業で目次を作る班もあるとか。役所勤めなどのWordマスターが班にいると捗るらしい。
 本来はこの日に印刷・製本して明日の報告会に備えるのだが、先生のご厚意に甘え、夕方ギリギリまで修正作業。Wordから書き出したPDFを全員で確認し、作業終了。明日の午後には、訪問先企業で報告会となる。
 ところが。自宅に帰り、食事を済ませてデータを見返すと、表紙と目次にページ番号がある。表紙と目次にはページを振らないのがルール。慌てて修正を試みるが、これまた一筋縄にはいかないのがWord様。先生に電話で状況を伝え、結局、表紙と目次のページはデータ上で白片を載せて隠すことに。こういう不便さは何十年経っても改善されない(さすがM$)。

5日目(2024年7月16日)

 最終日。両国会場に集合。先生は我々の作った報告書を協会に提出して審査を受ける。我々は報告会の練習。今回の報告書は、2章立てでページ数は上限の110ページを超えている。先生は「事情を話して審査を通してくる」と仰っていたが、認められず。協会提出分は第2章を削ることに。修了証をもらい、自席で昼食をとって、訪問先へ向かう。
 先方では新たな取り組みを様々に行っており、多くの提案で新鮮味はもう一つといった手応え。訪問先近くの居酒屋で打ち上げ。先生からは、これだけ盛り上がった班も珍しいとのご評価。明日から顔を合わせなくなるのが何だか信じ難い。
 そして「これ、5日間じゃなくね」と申し上げておきたい。

8月コース

そして案内来る

 今回はお盆明けの8月23日(金)が初日。帰省先で新たな指導員の先生から案内メールを受ける。今回のメンバーは5人。後に1人のキャンセルがあったと知る。そして副指導員の先生が入る。今回の先生はあまり自己紹介などを促さない。年齢や経歴もわからない。やるべきことのみが伝えられ、前回とはまた違った緊張感が漂う。資料はDropboxで共有。
 前日にZOOMで顔合わせ。今回は戦略(班長)に手を挙げて就任(ええい、ままよ)。初回となる1人を除いて4人が2回目の受講。私以外の全員がお勤め。世代が近そうな方が1人、2人は40前後、1人は30前後といったところか。班長、戦略の経験者がいて心強い。ただ、自主学習期間中のすり合わせやコミュニケーションなどは、全員が渋い反応。経験者3人とも前回の班では集合日以外のコミュニケーションはなかった様子(班によって全然違うんだね)。

初日(2024年8月23日)

 今回の会場は神田。隣の班との距離がやたら近い。やるべきことは前回と同じ。ホワイトボードはなく、プロジェクターは先生が持参。今回は班長ということで、無意識に仕切ろうとしてしまうが、全員の意見を聞くように先生から諭される。訪問先へ移動。今回もまだ会話がぎこちない。最寄駅で降りて中華料理店で昼食をとり、訪問先へ。ヒアリングを終えて、商店街の居酒屋で軽く反省会。正・副指導員の先生はかつての実務補習の同期だったとのこと。我々も長くお付き合いが続くように願いたい。

2日目(2024年8月24日)

 この日も会場は神田。どう進めたらよいか分からず、つい1人で長々と話してしまう。迷走すると班長経験者(同い年と判明)が、方向修正してくれるので助かる。今回の先生は作業前にご自身の企業支援の方法論を講義してくれる。理解するのに苦労したが、このあとの作業に大変役立つ。理解の早いメンバーもいて感心するばかり。お昼はお蕎麦。大盛り無料。夜は天狗で反省会。

自主学習(2024年8月25日〜30日)

 今回の班はこの期間のコミュニケーションがないので、前回とはまた違った不安との戦い。担当する戦略パートは全体のダイジェストなので、2日目に全員で決めた全体戦略や、先生の講義メモなどを読み返しながら、組み立てていく。

3日目(2024年8月31日)

  会場は両国に移る。自主学習の成果を報告。ほとんど作業時間の取れなかったメンバーもあり、進捗度はまちまち。私は修正が少なくて済んだので、報告書以外の書類づくりなどに回る。副指導の先生もいろいろとサポートしてくれる。昼はお蕎麦とかつ丼セット。夜は高架下の居酒屋で反省会。前回の班では昼食を持参したが、こうしてみると両国の会場周辺にも食べるところは結構ある。

4日目(2024年9月1日)

 今回のマージ作業は、手を挙げてくれたメンバー(同郷)がいたので助かった。クロスチェックなどを経て完成。ただ、今回の報告会は先生からPowerPointのご指定。個人的にはこれが一番厄介で、時間内に終えられず自宅作業に。この日の昼は昨晩の居酒屋で定食。夜の反省会はなし。

5日目(2024年9月2日)

 早くも最終日。両国に集合し、先生は報告書の審査、我々は報告会の練習。協会加入は迷っていたが、先生が推薦人になってくださるとのこと。これもご縁と申し込む。修了証をもらって訪問先へ移動。初日と同じ中華料理店で昼食をとる。報告会には信金の偉い方も同席され、また違った緊張感。PowerPointの出来の問題もあり、全体的に十分に伝えきれなかったと反省。
 早々に最寄駅の居酒屋で打ち上げ開始。これまでで3本の指に入る(にぎやかな)班とのご評価。用事のある1人を除いてカラオケへ。また半年後に集まりましょうと手を振って解散。

9月コース

案内は来た

 初日は9月13日。8月コースの後、10日ばかりを挟んでのスタート。前週の金曜日に指導員の先生から案内が来る。メンバーは6人。60超えの先輩が2人、50代は私のみ、40代2人、30代1人と年齢は高め。40代1人と30代1人が初回であとは3回目。訪問先の情報は週が明けても来ず(実施4〜5日前までなので期限内)。不安になってメンバーに尋ねると来ていないという。
 その夕方に訪問先情報のメールが来る。先方の決算書や各種書式も今回は初日までなし。あまり準備はしなくて大丈夫という。担当決めも初日に。
 一方、班内では希望パートを決めておこうという話に。狙っていた財務は事情あって熱望するメンバーに。今回は生産を希望する。

初日(2024年9月13日)

 初日の会場は神田。先生も含めて初顔合わせ。スケジュールは過去二回と同じ。今回はホワイトボードもプロジェクターもないのでZOOMで代用。ファイル共有はDropboxに。担当は希望案で決定。3人が前回も同じ班だったと判明(3人も続けて一緒ってあるんだね)。
 自席で昼食をとり、訪問先へ。ヒアリング後、最寄りのターミナル駅まで移動し、居酒屋で改めて顔合わせの懇親会。

2日目(2024年9月14日)

 今日も神田会場。ヒアリングのまとめとSWOT。それから提案コンセプト、章立て。意見は活発に出るが、ややお互いの主張が目立つか。そして隣の班が大変賑やか。

自主学習(2024年9月15日〜21日)

 連休の関係でこの期間が今回は一日長い。平日作業の難しい財務担当は、初日で20ページの草稿を上げてくる(す・ご・い)。今回は原価計算について財務と重複しないように構成するので大変助かる。こちらは一日を残してなんとか草稿完成。

3日目(2024年9月22日)

 今回も後半は両国の会場に移る。それぞれの草稿を発表。すり合わせとクロスチェック。今回も修正が少なく済み、コソコソと報告書の表紙作りにいそしむ(メンバーに気に入ってもらえてよかった)。続いてマージ作業へ。

4日目(2024年9月23日)

 マージしてみるとフォントや表現の違いが意外と多い。しばしの修正作業。他のメンバーは報告書以外の書類作成など。マージ版を全員でチェックし、再び修正作業。印刷・製本は明朝にキンコーズ集合(外部での印刷は初めて)。帰宅後に各自で再度チェックし、20時からZOOMで最終確認。ZOOMでいくつかの修正を行いPDF変換。さらにPDFをチェックして完成(Wordからの変換はいつまでもどこまでも信用できない)。

5日目(2024年9月25日)

 6時頃に起床し、自分のパートに目を通す。1箇所に誤りを発見。直すか直さないか。気持ち悪いので直す。PDFを慎重に確認しバージョン違いとして格納。先生とメンバーにメールで通知。最終版を勝手に変更して申し訳ない。
 キンコーズに向かうと開店前の店先にメンバーが集まっている。変更については気にしてない様子。少し遅れて先生。データは差し替え済みとのこと。印刷物を数名でチェック。製本依頼をして両国の会場へ。
 私を含めて今回で3回目の4名には、修了式と登録申請がある。登録申請は代表して4名分をまとめて申請。11時からは修了式。今回は81名もいるという(午前の部。午後の部は30名くらいだったとか)。各班1人が代表として修了証(のコピー)を受け取る。受講生から3名がその場で指名されて挨拶。同じ班の先輩1人がトップバッターで指名を受ける。実に流麗なスピーチ。前回の同い年メンバーと修了を喜ぶ。
 キンコーズで製本された報告書を回収して訪問先へ。先方にも表紙を喜んでもらえて嬉しい。ただ、全体の反応はもう一つか。お礼を述べて終了。
 最寄りのターミナル駅まで移動してワインバルで打ち上げ。先生から報告書の完成度が高いとお褒めの言葉をいただく。残る2人が修了したら、お祝いの会を開こうと解散。

実務補習を終えて

 当然ながら経営者の方々は、自社について日々考えられている。売り方も作り方もお金も人も。時間の制約で仕方ないが、聞きかじりの提案では響かない。
 そして実務補修は実に「各班各様」。慣れれば、この班でよかったと思える。ただ、新しい班では新しい先生の下で心機一転、ゼロスタートがいい(過去の班を引きずるとお互い苦労する)。メンバーとは少し感情的になっても終わればノーサイド。自賛するつもりはないが、どのメンバーも年齢・経験に関係なく賢いし、自発的に動ける。当然、どのパートでも担当できる。
 受講生は、お勤めの方(企業内診断士志向)が圧倒的に多く、独立派は今回の3つの班では先輩2人と私だけ(+潜伏中2名)。若いうちから勤めながら資格取得ってすごい(しかも2つ、3つと難関資格を持つ人も珍しくない)。
 なお、班の番号は3回とも20番代。思い出すのに実に紛らわしい(成績順という冗談もあったが果たして)。一桁班への憧れは叶わず。
 そしていよいよ登録を待って船出となる。期待半分、不安半分。困った時にはこうした仲間と先生がまず頼る先となる(皆様、何卒よろしくお願いいたします)。

その後(後日談)

 11月には、無事に登録となり、協会や支部にも入会。
 これまでに何度か再会したメンバーや先生もおり、会えば、実務補修中のような関係に戻れるので、大変ありがたい限り。
 ただ、登録で何かが変わったかといえば、ほとんど何も変わっていない。支部などのイベントが増え、交際費だけは確実に増えた(人見知りの私にはこうした場での心理的負担も無視できない)。そして、企業支援の機会を得て、生計を立てていくのは、なかなかハードルが高そうだということもわかった。
 企業内診断士が圧倒的に多いのは、踏み出せる環境が整っていないのも一因なのだろう。東京は、企業数も多いが、診断士の数も突出して多い。また、支援が必要な中小企業は多いとされるが、そのマッチングの機会は、正攻法であれば、公的機関の窓口業務など、非常に限られる。その窓口業務に就くことも容易ではなさそうで、その後に継続支援できるケースも限定的と聞く(ウデ次第ではあるようだが)。
 一方で診断士側の経験不足も問題のようで「使えない」との悪評も少なくない模様。然るに少なくとも協会や支部で信頼を得ずに、公的支援の機会を得るのは難しいということになる。他方、5年後の更新には最低30日の支援実績が必要である。
 例えば、公的な医療保険のように、経営支援に適用できる公的制度があったらいいのだが。中小企業経営の皆保険。3割負担ならもう少し気軽に使ってもらえるのではないか。診断士側も経験を積む機会が増えて、全体の質が上がって、Win-Winになりそうなのだが。
 いや、ボヤいてないで、当面の課題を解決するのです。はい。

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