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中小企業診断士試験の独学受験録


受験まで

 自身の雑多な職業経験を企業支援などに活かせないものかと、2017年ころから中小企業診断士に関心を持つ。縁あって2020年から先輩診断士の下で修行中。現在53歳。その独学受験と合格までの顛末記。

一次試験

 令和3年度(2021年)と令和4年度(2022年)を受験。

令和3年度(2021年8月)

 見習い仕事が精一杯で、勉強時間をとれず。見送ろうかと悩んだが、場慣れだけでもと受験。試験は8月21日と22日。会場は、葛飾の東京理科大学。天井が高くて明るい教室。同じ長机の隣席は、科目合格者らしく、ほとんど空席だった。気負わずに受けたせいか、久々の試験で楽しい。解答は、一問あたり1分とか2分とか決めて、まずは全問に答え、迷った問題は、マークシートに印をつけ、残った時間で見直した。昼食をとった隣の公園の青々とした芝生が気持ちよかった。
 結果は、経済学・経済政策40点、財務・会計60点、企業経営理論62点、運営管理62点、経営法務48点、経営情報システム68点、中小企業経営・中小企業政策50点(自己採点)。予想外の4科目合格。情報でSQLデータベースの命令文が出たのには驚いた(不正解)。これまでの職務経験や、大昔の大学受験で身につけた技術も奏功したか。棚ボタの4科目合格で、きちんと学習しなかった報いは、後になって受けるのだろう。

令和4年度(2022年8月)

 残る3科目を受験。初日の8月6日は、最初の経済学・経済政策のみ、2日目は、最初の経営法務と3科目目の中小企業経営・中小企業政策。会場は、昨年とは打って変わって、渋谷の古いビル。暗くて天井の低い部屋、前後のスペースも狭く、あまり快適とは言えず。受験した部屋の面々は、初年度より年齢は高めか(科目合格者が多かったか)。2日目は、2科目目とお昼休みで2時間半も空くので、駅近くのチェーンの喫茶店でホットドッグを食べながら中小企業政策の復習。長居したせいか、途中からエアコンの風当たりを大変強く感じる。中小企業政策では、試験時間を60分と勘違い。回答を終えて終了を待つが、終了コールがかからず、そこで90分だと気づく(逆でなくてよかった)。
 結果は、経済学・経済政策52点、経営法務68点、中小企業経営・中小企業政策66点(自己採点)。経済が振るわなかったが、3科目合計で6割を超え、一次試験クリア。ただ、7科目で7割超えが一つもなく、二次試験が不安。

勉強方法と教材

 最初に買った本は、現在のスタディング社による下記の2017年版。当時は全科目を1冊にまとめた本は他になく、全体を俯瞰するための入門用として。内容は絞られているが、この内容を全て覚えて、少しの運をプラスできれば、多くの科目で60点をとれるのでは。1年目の受験までは、ほぼこれ一冊だったと思う。法改正もあり、受験2年目に買い直し。2017年ごろから少しずつ、書き込みをしながら1.5周くらい読んだ(相当に遅い)。

 これに加えて、下記の2020年版(上巻のみ)を買い、上記では足りない過去問の内容を辞書的に補った。全てを補えるわけでないが、ほとんどをカバーできれば十分。ただ、板書スタイルの構成・書体は読みにくい。ネット情報でも十分に補える。2次試験の勉強の際にも使用。

 2年目の3科目は、経済には馴染みがなく、法務と政策はいずれも暗記中心で苦手(加齢のせいもあり)。それぞれ5年分の過去問を規定時間で解き、知らない項目をピックアップし、本やネット情報などで重点的に学習。結果を伴わなかったが、特に経済の試験では、既視感のオンパレード。過去問をしっかりやって、わからない項目を潰していくというのは、よい学習方法だと思う。法務や政策は、上記のほか、試験範囲の法律(改正内容)や政策の資料(白書や予算案)を各省庁のHP等から入手して読む。

二次試験

 令和4年度(2022年)と令和5年度(2023年)を受験。

令和4年度(2022年10月)

 試験は10月30日。10月を勉強期間にあて、過去問5年分などを解き、ピカピカの付け焼き刃で挑む。会場は武蔵大学。近所に住んでいたので、少し懐かしい。会場の校舎は古く、トイレは遠く、パイプ椅子を少し引くと後ろの机に当たる。渋谷ほど窮屈ではないが、どうしても最初の理科大と比べてしまう。
 事例1では、解答欄ににじんだ手汗を汚れだと思い、消しゴムで擦ったら穴が空きそうに。事例3までは、とにかく解答欄を埋め、すっかりできた気になる。事例4。開始5分でほとんど解けないことが判る。最終問のデリバティブを空欄にしなかったのが、ささやかな抵抗。当時のTwitterで、同志の悲鳴を追いながら、混みそうな江古田駅を避けて、小竹向原駅まで歩く。
 結果は、事例1が64点、事例2が59点、事例3が54点、事例4は明らかに補正された40点。合計217点で、6割を超えたのは、事例1のみ。後の席の方(同世代か少し上か)は合格していた。難問、難題であろうが、受かるべき人は受かる。

令和5年度(2023年10月)

 試験は10月29日。二次試験を受けられるのは、あと一回。落とせば、振り出しに。何度も挑戦された方々の体験記を読み、自分にそこまでの想いがあるのかと問われると自信がない。一次再受験は避けたい。自分にかけたプレッシャーは、思いの外、大きかったようで、試験前夜はほとんど眠れず。朦朧とした状態で会場の早稲田大学へ向かう。座席はゆったりとしているが、これまでと異なり、教室前方に時計がない。手元の時計を見ながら進めるのは案外不便。
 試験が始まると、最初こそ手に力が入らなかったが、頭は回りはじめ、シャープペンシルで与件文のSWOTなどにマルバツをつけながら、解答欄を埋めていく。隣の人はマーカーペンを積み上げていた。時間内で色分けをして、下書きまで作る人の頭の中はどうなっているのか。受験テクニックの「問題冊子の表紙を外してメモ帳」は、昨年、破ってみたもののほとんど使わずで(そんな時間ない)、今回は破らず。いずれも時間ギリギリまで解答欄を書いては消し。眠くならないように各休憩時間に少しずつ栄養補給(事例4では眠気が)。
 「サブスク」だともっぱら評判の事例2の問2は、どうにもスポーツ用品をサブスクで双方の費用を抑えられるとは思えず(だってグラブは痛むし、安くないし)、悩んだ結果、「買取で値引き」と書いた。事例4は、固変分解でポカミスしたが、コツコツ学習の成果か、問2、問3を埋めることができた。逆に問1と問4は不完全な状態に。全事例とも題意を読み切れたとは言えず。全体的な手応えは、五分五分といったところ(運がよければ受かるかも)。
 1月11日、結果は合格。正直、喜びよりも再受験を回避できそうな安堵の方が大きい(まだ口述試験はあるが)。

勉強方法と教材

 2年目には、ほぼ1年をかけて、全く歯が立たなかった事例4を基礎からコツコツ学習。9月からの2ヶ月間は仕事をセーブし、ほぼ勉強にあてた。事例4は、問1の経営分析と問4の記述を確実に押さえて、問2と問3の管理会計の計算問題は部分点を狙うという指南も多いが、きちんと理解しておいた方がよいに決まっている。合格者は、特定の事例に偏ることなく勉強した人が多い、とどこかに書いてあった。
 そこで意気込んで噂の「イケカコ」に手を出すが、多くの先人が書かれているように、1限目からいつまで経っても抜け出せない(試験にはおそらく必要ない)。

 そこで、イケカコを一旦閉じて、管理会計の入門としてこちらの本(の初版)を2周、例題などを解きながら進める。

 わからない箇所は「管理会計の基礎」やネット情報で補う。しかし、どの分野も広く、深い。

 その後、イケカコを規定の3周。3周しても理解度は怪しいが、確実に足腰は鍛えられた。イケカコの勉強には、いのし様のブログが大変参考になりました(ありがとうございました)。

 さらに、イケカコではカバーされていない試験範囲を補うため、こちらも定番の「30日完成」を2周。時間内に解くのは意外とハードルが高い。「事例IVの全知・全ノウ」は1年目に使用。受験に限れば、イケカコではなく、こちらだけで鍛えるのもアリだと思う。

 10月に入り、事例4の計算訓練を終わりにして、「全知識」で、自分なりの各事例のまとめを作成(ファイナルペーパー的な)。昨年も作成したが、ほぼ記憶から消えている。

 続いて過去問。規定時間で解答して「ふぞろいな合格答案」で採点。与件文の着眼点(加点ポイント)や解答の型を書き出して学習。事例4は、10年分を2周。事例1〜3は、日数が足りなくなり、12年分を1周。事例4を時間内にほぼ全問解答できるようになった(正誤はともかく)。事例1〜3は解答のバラつきが残ったまま。平成24年度の事例2の「コーズリレーテッド・マーケティング」にピンとこず(ああ、CRMか。今じゃ顧客管理だけど)。流行語は怖い。本番じゃなくてよかった。

 解き方は、事例1〜3では、先に問題文に目を通してから、与件文を読んでSWOTや課題をチェック。事例4は、与件文を読み、問題の構成をざっとみたら、問1から順番に解く。本番も同じ。
 試験本番の問題冊子はB5、解答用紙は見開きのA3(確か)。過去問は、いずれもA4に100%で両面印刷。問題冊子はページ関係が正しくなるように2ページ目に空白を追加。解答用紙は、二次試験の指導をされているAAS様のサイトからいただきました(ありがとうございました)。

 二次試験は、試験案内に書かれているとおり、「経営革新・改善」や「新規事業開発(既存事業の再生を含む)」に対する「診断」と「助言」がテーマ。各事例のテーマとともに、ここを意識することがとても大切だと知った。この診断と助言は、中小企業診断士の業務として法律で定義されているらしい。

中小企業診断士の業務とは?
 中小企業診断士の業務は、中小企業支援法で「経営の診断及び経営に関する助言」とされています。

一般社団法人 中小企業診断協会「中小企業診断士ってなに?」

事例4との向き合い方

 事例4は、与件文が他の事例に比べて短い反面、各設問の問題文が長く、そのボリュームに圧倒され、混乱して、心が折れてしまいがち。
 今後に変わる可能性はあるが、事例4の与件文に関係するのは、問1の経営分析と問4の記述(理由や根拠として)である場合が多い。問2と問3は、それぞれ独立したCVPやNPVの計算問題として冷静に読むと、複雑な計算を省けるように工夫されたシンプルな問題である場合が少なくない。

口述試験

令和5年度(2024年1月)

 口述試験は1月21日、会場は立教大学。10時24分の開始(12分おき)。時間は受験生ごとに指定され(遅刻は受験不可)、その30分前に受付。「早い組は質問も比較的穏やか」との噂を信じたい。午前中は冷たい雨。雪にならずによかった。最寄駅では列車遅延のお知らせがあったが、ほぼ予定通り池袋に着く。都内在住というだけでアドバンテージはかなり大きい。お正月の能登の地震や羽田の事故、雪の予報もある中で、遅刻が許されない県を跨いだ移動は、相当なストレスなのでは。
 会場に着くと、大教室で待機。案内の方々はこれまでになく親切で丁寧な印象。会場全体にどこかアットホームな雰囲気。試験が進むにつれて、若い人が多くなると聞いたが、教室の後ろから頭髪を眺めた限り、自身を含めて年齢層は高め。多くはコートを脱いでスーツ姿で座っているだけ。復習している人は意外と少ない。
 10分ほどで受付時間となり、受付の教室に移動。受験票を見せて、Cと書かれた首下げカードをもらう(Cは3巡目)。そこで数分間待機し、さらに別の待機部屋に移動。試験部屋ごとに並んで座り、順次、案内役の先生に導かれて試験の教室に向かう。私の次の方が「システマチックですね」と言っていたが、カンバン方式のような感じ。全国1,557名の筆記合格者のうち、およそ6割の959名が東京地区。試験をする側も相当大変。受付の教室で「まだ2名が来ていません」といった通信が行われていた。
 廊下の椅子で数分待ち、前の受験生が出てくると、程なくして入室を促される。試験官の先生は、いかにもベテランという雰囲気のお二人。特に威圧感や、聞き取りにくい感じもなさそうで、少し安心する。試験官の先生がやや早口だったのにつられ、解答も早口になってしまう。4問とも追加質問を受けた。「質問を繰り返して時間を稼ぐ」テクニックは、忘却の彼方に。話し始めると、何を聞かれていたのかわからなくなる。おそらくいろいろと脱線したはず。
 質問は、事例1と事例2から2問ずつ。事例3か4のどちらかは来ると構えていたので、その点ははよかった。ただ、4問目のナナメからの質問にはうまく答えられず、試験官の先生に相当誘導していただくこととなった。質問はおよそ次の内容だった。

  1. A社の売り上げが減少した理由

  2. A社と経営統合するX社の留意点

  3. B社への来店頻度を上げるための施策

  4. 女子野球チームのHPに掲載する情報

 解答は、いずれも両先生を交互に見ながら行い、先生方の軽い相槌や「〜ということでしょうか」「そうです」といった会話調の流れもあり、厳しくも暖かい雰囲気。改めてこうした先生方にも教えを乞いたいなぁ、などと思いつつ終了。お礼を述べて退室。会場を出ると、実務従事の勧誘をする人たちがチラシを配っていた。

勉強方法と教材

 口述試験の合格率は99%以上。多くの先人曰く「時間に行って、何か話せれば受かる」。しかし、その最初の例外になる恐怖はどこまでも拭えない。話せるほどの事例の記憶も残っていない。知識問題が来たら答えられるだろうか。
 まずは、さまざまな勉強会のブログやYoutubeで情報収集。試験の流れや雰囲気に想いを馳せ、先輩方の苦労が自分に再現されないことを祈る。模擬面接を受けた方がよいという情報が多かったが、苦手なので見送る(高を括った面も否めない)。およそ1週間でやった内容は以下。

  1. 模範解答を入手して、各事例の着眼点などを振り返る。

  2. 各社の概要とSWOT、課題を各1枚にまとめ、さらに4事例を1枚にまとめる。

  3. 各事例の与件文・問題文を声を出して読む(毎日1回ずつ)。

  4. 想定質問集をいくつか入手し、知識問題や筆記試験とは別の視点を学習。

  5. 知識問題対策に筆記試験のファイナルペーパーを読み返す。

  6. タキプロ様のYoutubeで想定面接(声を出して答える)。

 話すためには、より深い理解が必要。与件文の音読は、新しい発見があり、新しいアイデアに気づく。それらを適宜、各社のまとめに反映する。事例4の知識問題対策は、CVPや投資判断の式などを学び直す機会に。Youtubeの想定面接は、十分に緊張感を味わえる(タキプロ様ありがとうございました)。また、諸先輩のブログやYoutubeに大変に勇気づけられる。こうした情報を上げてくださる各社、各氏に深く感謝(フリーライドですが)。

筆記用具など

 普段は、鉛筆や消しゴムを使わないので、慣れるのが意外と大変(加えて、左利きなのが、悩ましい)。問題形式に慣れるだけでなく、道具にも十分に慣れておく必要がある。

一次試験

(鉛筆)0.9mmシャープペンシル/B芯。
(消しゴム)モノライトSなど。
 いずれも手持ちの文房具。定規なども持っていったが、使わなかった。

二次試験

(鉛筆)初年度は製図用0.5mmシャープペンシル/B芯。2年目は製図用0.3mmのシャープペンシル/B芯。
 回転機構や送り出し機構のものも買ったが、左利きは、文字を押しながら書くため、こうした機構は芯先がグラつき、書きにくい。結局、芯先がしっかり固定される製図用に落ち着く。解答欄のマス目には0.3mmの芯は書きやすい。ただ、芯の減りが早く、鋭利になって解答欄に刺さる。
(消しゴム)モノライトSなど。
 マス目の文字や事例4の計算欄を消すのに、ペン型なども使ってみたが、使い分けが大変で、最終的にブロック型の消しゴムの一辺をカッターで斜め60度くらいにカットして使用。
(電卓)カシオの12桁タイプJF-120GT-N。
 メモリやグランドトータルは慣れておきたい。同機の予備があった方がよいのだが、試験中に出しておけるのは1台。試験後に2台も必要ないので、電池を新品に交換し、予備に小型電卓を持参。
 道具を使い分ける余裕がないので、マーカーペンや定規は使わなかった。

結果

 1月31日、結果は合格。この10日間は、大丈夫だろうとは思いつつ、一抹の不安を拭いきれず。まずはよかった。
 ところが翌2月1日。合格通知とともに送られて来た筆記試験の点数。事例1が46点、事例2が70点、事例3が78点、事例4がまさかの48点で計242点のギリギリ通過。C判定が2つもある。事例4は、空欄ばかりだったという方が、70点だったとXで報告されていた。7〜8割程度は回答したが、去年のほぼ空欄40点から8点しか上がっていない。もっとも手応えのなかった事例3の78点もナゾ。事例1は、去年AからCに(そんなに外していたのか)。事例2は、サブスクじゃなくても70点。いろいろとナゾ。管理会計を勉強したのもいずれ役に立つと信じよう。

受験を終えて

 生来、自分のペースが好きなのと、時間や費用面の制約もあり、独学という方法をとった。今は書籍だけでなく、ネットの情報が充実しているので本当に助かる。
 点数がいろいろと低調だったが、資格試験は、恐らく試験勉強で資格に必要な素養を身につけさせるのがその目的。資格取得をゴールとするなら、必要最小限の最短経路がよいが、資格取得をスタートとするなら、できるだけ網羅的に学んだほうがよいのだろう。過去問不要論もあるが、過去問は、資格に必要な内容を明示しているので、これは押さえたい。繰り返し問われる重要テーマも見えてくる。もちろん、コーズリレーテッド・マーケティングや、サブスクリプションなどの新たな知識も要求されるが、それは一部に過ぎないので。
 今後は、夏の実務補習などに参加し、年内の登録が目標。何か強みを活かせるダブルライセンスにも取り掛かりたい。

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