百森インターン ―西粟倉村滞在記―
初めまして
神戸大学の松本萌恵と申します。
5月中旬に百森さんで10日間ほどインターンをさせてもらっていました。
簡単に自己紹介をすると、出身は広島県廿日市市、現在大学4年生で卒業論文において西粟倉村の森林を対象に研究をしています。好きな食べ物は豆、特に小豆、趣味は走ることです。
地図とコンパスを持って、山や公園、市街地などを走ってタイムを競う競技をやっており、先週まで世界大会出場のためデンマークにいっていました。8月にも世界大学オリエンテーリング選手権に出場するためスイスに行ってきます。
早速ですが本題に…
今回のインターンでは、林業の現場を知るということを目的に、百森さんで行われている様々な業務に同行させていただきました。
同行した業務は次の通りです。
・ナラ枯れ対策
・広葉樹の苗木生育
・劣勢木間伐現場の監督
・間伐地区の除地測量
これらの業務の中でも今回は特にナラ枯れ対策業務に携わらせていただきました。まず初めにナラ枯れについて簡単に説明したいと思います。
ナラ枯れとは、カシノナガキクイムシがブナ科樹木の幹に入ることにより、樹木の大量枯死が起こることを呼びます。カシノナガキクイムシの共生菌(通称ナラ菌)が主な原因であり、この菌の作用により、樹木は水分を吸い上げられなくなって枯れてしまいます。カシノナガキクイムシは、5月末から6月に成虫して夫婦で同じ穴を掘って木の幹に侵入し、樹木を攻撃したのち、幹の中で何千・何万匹もの子供を産みます。1年で親は死んでしまいますが、その子供たちが翌年の6月ごろに親の掘った穴から出ていき、周囲の樹木を攻撃することにより、伝播します。ブナ科樹木の中でもミズナラが特に弱く、西粟倉村の若杉天然林だけでもすでに約1000本の木がやられているということでした。
これに対して、百森さんでは、数年前から若杉天然林に存在するすべてのミズナラの調査し、ワクチン接種等の予防対策を行っています。ナラの木も人間と同じで、耐性菌をつくって防御することができるようです。それに加えて、本年度から、感染してしまった木のシート被覆も行うことになりました。感染してしまった木の幹には、カシノナガキクイムシが多く存在します。そういった木を翌年の5、6月まで放置してしまうと、その木を起点として、多くのカシノナガキクイムシが周辺のミズナラに広がっていき、集団枯死が起こる可能性があります。そのような状況を回避するため、カシノナガキクイムシが主に生息している根本付近をシートで被うことで物理的に外に出ていけないようにするのです。
私は2週間のうち雨以外の日はほぼ毎日この作業に参加させていただきました。朝9時前に若杉天然林に移動して、17時過ぎまでみっちり山の中で作業しました。1本のミズナラの立木をシートで被うのに、2~3人で作業して1時間半から3時間くらいかかりました。木によって立地条件が違うので、作業のしやすさが異なります。かなり急斜面に生えている木や、根を大きく張っている木の被覆にはかなり苦労しました。さらに大変だったのは、被害を受けた倒木のシート被覆です。カシノナガキクイムシは地上に近いところに入るといわれているので、立木の場合は根本付近だけを覆えばいいのですが、木が倒れてしまうと幹の全範囲が地上と近くなるため、ほぼ全範囲がカシノナガキクイムシの攻撃を受けます。それらを切断し、集め、シートで被覆をするのですが、ナラ枯れの被害を受ける木はかなりの大木である(直径25㎝以上のみきに入ると言われている)ため、切断にも、集積にもかなりの労力を要しました。遊歩道近くの被害木に対しては、伐採処理も行いました。枯れた木がもし倒れて歩行者に当たることがあれば大惨事です。
ただ伐採するといっても若杉天然林は保護すべき植物がたくさんあるため、一本の木を伐採するにも周りの植物を傷つけないように工夫する必要がありました。木に登って、先に上の方の枝を切り落として、できるだけ細い一本の棒にしてから倒します。どの枝を先に切るのか、枝を降ろすワイヤーをどこにひっかけるのか、経験と力学の問題です。自然を守るために知能と体力をフル活用して働く姿は、とてもかっこよかったです。
私は普段から運動はしている方だとは思うのですが、毎日業務を終えた後はへとへとでした。ナラ枯れ対策の作業は、業務の中のほんの一部にすぎず、この作業を終えた後に別の現場へと向かう山守さん達の体力には脱帽です。
その一方で、この作業に取り組む中で少し疑問に思っていたことがあります。それは、ここまでの労力をかけてナラ枯れの保護をするべきなのだろうか、もっといい方法はないだろうかということです。どうしても自然のことなので、これらの対策をしたからといって、完全に防げるとは言えないです。ミズナラは食料生産の一部でも、木材生産の大部分を占めるものでもなく、また、枯れるのは大木=古い木であるため、自然に任せて枯らしてしまってもいいのではないかとも思ってしまいした。確かに、木が枯れてしまうと、貨幣価値では測ることができない森林の生態系が崩れたり、地盤が緩んで自然災害が起きやすくなったりといった問題が発生する可能性があるとは思います。これらのリスクと、対策にかかる労力やお金の面とのバランス、より良い対策方法については、これからさらに考える必要があるかもしれないです。何か、考えるヒントを知っている人がいたら教えてほしいところです。
この2週間は、毎日山に実際に行くことができて山好きの私にとってはとても楽しかった一方、森林管理の理想と現実のギャップを知り、その厳しさに心を痛めた部分もありました。でも、山への愛にあふれている百森の職員さんのおかげで多くのことを学び、充実した日々を過ごすことができました。この経験を今後の研究に生かしていきたいと思います。最後になりましたが、今回の研修のためにお世話になったすべての方々に心から感謝申し上げます。これからもよろしくお願いします。
番外編 西粟倉村の休日
インターン期間中、1度だけ週末をはさんだので、その時のことをすこしだけ。
土曜日の午前は、宿泊を受け入れてくださっていた「むらまるごと研究所」で開かれていたマルシェに参加しました。フリーマーケットや村の農家さんの野菜販売、地元のかばん屋さんが淹れたコーヒー販売、子供たちによる横断幕の作成等いろんなイベントが開催されていて、村の人たちのコミュニティースペースになっていました。
夕方には、村の北の方にある大茅のキャンプ場へ。キャンプ好きの百森職員さんにご一緒させてもらいました。手羽元とチーズと野菜たちに自家栽培のハーブを散らして、焚火の上でぐつぐつと。幸せな味がしました。そのあとは温泉でほっこり。
日曜日は、印刷してもらった赤色立体地図をもって駒ノ尾山登山へ。広葉樹と針葉樹の植生界がとてもきれいで感動しました。
こんなに自然の近くで毎日過ごせるのは最高ですね。