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【人怖】アキオくんから聞いた2つの怖い話【実話怪談】

【人怖】異食

アキオくんから聞いた、人が怖い話。

アキオくんと私は大学3回生の時からの長い付き合いです。正確には大学1回生の時にはもう出会っていたのですが、友人になったのはプレゼミが始まってからでした。

陽キャでチャラくてコミュ力の塊なアキオくんと、陰キャでインドア派で人見知りな私が、なんだかんだ腐れ縁で友人なのは、ただ1つ共通点があったからだと思います。
それは、漫画が大好きということです。
たまたま読んでいる漫画の系統が全て一緒で、マイナーな漫画でも「それ私も読んだ!」と、語り合うことができました。そういうわけで私とアキオくんは、漫画仲間として今でも交流があります。

あれは社会人になって2年目くらいの夏だったと思います。
お盆休みに入り、アキオくんからの誘いでお洒落なカフェに行きました。行き慣れているアキオくんと違い、私はどこか落ち着かなくてソワソワしましたが、美味しいスイーツやコーヒーをいただきながら話し始めると、緊張も取れていつも通りの漫画トークで盛り上がります。

その日は、当時連載していた「東京喰種」について話をしました。喰種(グール)は人間の食べ物が不味くて食べられず、人間を食べないと飢餓状態に陥る生き物です。人間から突然半分喰種になった主人公も、急に人間の食べ物が不味く感じる状態になり苦しんでいました。

「……そういえば、1年くらい前に別れた彼女が似たような感じでさぁ。」
と、突然アキオくんが言います。
「え、人間食べるの?カニバリズム?」
驚いて聞き返すと、「もう別れたんだけど……。」前置きしてアキオ君は語り出しました。

アキオくんが付き合っていた彼女はユイさんといって、ミクシィで出会った人だそうです。当時はミクシィが全盛期で、マチアプなど無かった時代に、新たな出会いの場となっていました。
とはいえ、まだまだネットで出会って付き合うということに、抵抗感が強い人も多かった時分でした。
(さすがアキオくん、最先端だなぁ。)と、感心しながら、話の続きを促します。

初めて彼女の家に遊びに行った時。
彼女らしい几帳面さが滲む綺麗な部屋に、テンションは爆上がりだったそうで、アキオくんはあちこち眺めては「お洒落!さすがユイさん!イメージ通り!」と歓声を上げたのだとか。
きっと、ベランダも綺麗に観葉植物が並べられているのだろうと思って、そのノリでガラリと扉を開けてみると……。

「なんか……なんて言ったらいいんだろう。奇妙としか言いようがないんだけど。ベランダの半分、湿っぽい土が山盛りになってて。え、なにこれ、いいの?みたいな。もう半分はプランター栽培の木と、明らかに状態の悪い何かの植物が植わっていて。木は何本もあるけど、どれもなんかボロボロで。思わず呆気にとられちゃってさ。」
そんなアキオくんとは対象的に、ユイさんはテンション高めに言ったのだそうです。
「ここはね、私の食料庫なの。」
そして言うな否や、目の前の木をバキッと折って噛み出すユイさん。
慌てて止めるアキオくんにユイさんは笑いながら、「私ね、昔からみんなの食べているものが美味しく感じないの。小さい頃、食事の時間は拷問だったな。吐きそうになりながらいつも頑張って食べてた。アキオくんとの外食も、いつも頑張ってるんだよ?」と言います。

遠くで蝉の鳴き声。

季節は夏。

山盛りの土から、ムワッと、蒸発する水の湿度を感じたそうです。
「この土が1番大好き。」
うっとりした表情のユイさん。
なんと言えば良いかわからず、土に目をやります。すると、土がモゾモゾ動いて、何かが出てきました。
小さい頃に、よく見たものです。
(あ、クワガタだ……。)
と、思った瞬間。
サッとユイさんがそのクワガタを手にして、口に入れたそうです。
今度は止めるのも怖くなり、咀嚼されるクワガタを眺めるしか無かったアキオくん。
しばらくしてペッと土の上に残骸が吐き出され、「やっぱり幼虫の方が美味しいな。」と言うユイさんを見ながら。
「……あ、うん、中に入ろうか。」
と、振り絞るように、なんとか声を出したそうです。

「それからさ、やっぱりほら、肝心の営みがどうしてもできなくて。俺はね、うん。ユイさん超可愛いし、できればもっと付き合っていたかったんだけど。俺のムスコがどうしても駄目で、つまり……結局それで、振られました!終わり!」
投げやりに言うアキオくんを見て。
(ド下ネタじゃないか……。)
と、衝撃を受けたのでした。

これは、アキオくんの実話です。


【実話怪談】紙魚

これは大学3回生の秋口の話です。

夏休みが明けて大学に行く私は、いつものことながらぼんやりしていました。貧乏学生の夏休みは、まるで社会人になったように働いて終わります。
塾講師のアルバイトで夏期講習を受け持ち、隙間時間で家庭教師……ちなみに春休みはこれが引っ越しのアルバイトに切り替わります。
慌ただしい日々の中で、大学という存在が薄れていき、いざ大学が始まってもイマイチ気持ちがついていかないのでした。
どことなく現実味の無いままゼミ室に向かいます。
(早目に行ってボケた頭を切り替えるか。)と、東浩紀の小難しい本を片手に扉を開けました。
一番乗りを確信して扉を開けたのに、先客がいます。
アキオくんです。
思わず久しぶり!と言いそうになって、止めました。そもそも、私から話しかけるような関係ではないし……アキオくんは、なんだかこちらに気付いていないようだし。
目の前のアキオくんは、丁度扉を背にして座っています。何やら本を読んでいるみたいで、やはりこちらに気付いていない様子です。
ブツブツ何かを呟きながら、本に夢中なようで、文字を指でなぞったりしています。
(驚かせてみようかな。)
気紛れにそう思い、ゆっくり背後に近付いていき、いよいよあと1.5メートルという時点になって、私はギョッとします。
アキオくんの背中に、何か大きくて半透明な虫が付いているのです。大きさは5センチほどでしょうか。
(アルビノの、虫?……なんの虫だろう。)
もう少し近付いてよく見ると、どうやらフナムシのような形状の虫で、素早そうです。
長い触覚に、ダンゴムシのような体。
北海道の大自然の中で生まれた私は、フナムシのような形状の虫が、とても素早いことを知っています。
ましてやこんなに大きい虫です。ちょっと手で潰すようにして脅かせば、サササといなくなるだろうと思いました。
(夏休み明けのボケた頭も、シャキッとなるかもしれないし。)

軽い気持ちで。


バンッ!!

虫を、叩き潰しました。

「え。」
と、私が呟くと同時に、「わぁあああ!何!?」とアキオくんが飛び上がります。
「いや、虫、潰しちゃって……。」
慌てて自分の手を見ました。
その手には、何も居ません。
「あれ、なんで……いたの!背中に虫が!追い払おうとしたら潰しちゃって。」
いや、あんなに虫が鈍臭いわけがない。きっと、気付かぬうちに逃げたのだろう。
(潰しちゃった感触があったけど。現にこうして、手には何も無いわけだし。)
「虫居たの!?どんな!?」
アキオくんが大きな声で言います。
「ホントにいたんだけど……フナムシみたいな大きくて透明なやつが。」
言いながら、どこに行ったのかとあちこち探します。あんなに大きいからすぐに見つかるだろうと思ったのに、やはり居ません。
アキオくんはそんな私を見てポカンとして、それから何故か慌てたように、さっき読んでいた本を手に取り眺めて、そして。
「ハハハハッ、ほんとだ!読める、読める!!」とまるでラピュタのムスカのように興奮したように言い、「サンキュー!」と御礼を言いました。
わけがわからず、どういうこと?と困惑していると、アキオくんは語り出します。

「いやー、夏休み中に友達と有名な心霊スポットに行ってきたんだけどさ。何もなくてつまらなかったから、書斎っぽいところにあった本を開いてパラパラ見てみたら、酷い虫食いで全然読めなかったんだよね。」
あっけらかんと言うアキオくん。
「……色々突っ込みどころあるけど、それ普通に不法侵入で捕まるからね?」
呆れて言うと、「ほんとに、駄目だよね……ああいう場所は、行くもんじゃないって懲りたよ。あれ以来どんな本を開いても、全然読めなくてさ〜。超困ってたんだよね。ゼミ課題の本もなにも読めないしピンチで。」
不思議なことを言うアキオくんに、思わず聞き返します。
「読めないって、どういうこと?」
「なんかさぁ、どんな本を開いて見ても、変な染みになってたり穴が空いてたり……全体的に文字が沈むと言うか、とにかく全然読めないワケ。でもさっき、背中叩かれて直ったから、マジ感謝。」
とても嬉しそう笑うアキオくんを見て、「それって、漫画は読めるの?」と聞いてみると、「いや、全然読めなかった……帰ったらすぐジャンプ読む。でもその前に、カフェ行かない?お礼に奢るから。」と言います。
(さすが軟派なアキオくんだなぁ。隙あらばカフェに誘ってくる。)
感心しながら「バイトあるから無理。」と即答しました。

それからゼミ室にパラパラとゼミ生が集まってきて、最後に怠そうに現れたのは友人Rでした。
「久しぶり〜。」と、笑顔で手を振る私を見るなり「うわ!なにそれ!?手を洗っ…………あぁ、いや、なんでもない。」と言ったので、慌ててすぐに手を洗いに行ったことを覚えています。

ちなみにあのフナムシみたいな虫は、今思うと、紙魚(しみ)だったかもしれません。

これは、アキオくんと私の実話です。

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