
第22話「消えかけた道」
蒼一は、"向こう側"の街を歩いていた。
どこまでも続く無音のビル群。
新宿に似ているのに、まるで記憶の中にある"歪んだ夢"のような場所。
この世界は、俺を迷わせようとしている——。
ポケットの中のペンダントを握りしめる。
これだけが、彩花がまだ"ここにいる"という証だ。
蒼一は、写真の中の交差点を目指していた。
しかし、歩いても歩いても、景色が変わらない。
まるで、"同じ場所"をずっと回っているような——。
「……道が、消えてる?」
目の前のビルが、かすかに"揺らいで"いる。
いや、違う。
これは——"消えかけている"?
突然、遠くから微かな声がした。
「……たすけて……」
蒼一は、ハッとして顔を上げる。
「……彩花?」
靄の向こうに、人影が見えた。
輪郭がぼやけている。
まるで、霧の中に溶けかけているような——。
蒼一は駆け出した。
「彩花!!」
影が、ゆっくりと振り向いた。
そして——
「……っ!」
蒼一は、足を止めた。
そこにいたのは、彩花ではなかった。
人影は、誰かの"記憶"のように不鮮明だった。
顔は見えるのに、目の前にいるはずなのに、"誰なのか"が分からない。
——これは、人間なのか?
「……あなたは……誰?」
蒼一がそう問いかけると、影は小さく揺れた。
——「……誰、だったか……思い出せない……」
蒼一の背筋に、冷たいものが走る。
「名前を……忘れた?」
影は、かすかに震えながら、頭を抱えた。
「私は……ここに……いたの……?」
「……お前、消えかけてるのか?」
影は、一瞬だけ沈黙した。
そして——
「……忘れるな……」
そう言い残し、影はそのまま靄に溶けるように消えていった。
蒼一は、ただ立ち尽くしていた。
"名前を失った人間は、存在そのものが曖昧になり、やがて消える"。
それを目の当たりにした。
「……彩花……」
彼女も、このまま消えてしまうのか?
そんなこと、させない——。
「……行くしかない」
蒼一は、もう一度ペンダントを握りしめ、再び前へと歩き出した。
彼が見失いかけていた交差点は、すぐそこにある。
だが、蒼一はまだ知らなかった。
その先にあるものが、彼の"記憶"さえも揺るがすことになることを——。
次回:「存在の境界」
ついに写真の場所にたどり着いた蒼一。
しかし、そこには"決して見てはいけないもの"が待っていた——。