物語のなかとそと
最初の投稿からずいぶんと日が経ってしまいましたが、ふと思ったことを書こうと思います。
私は「好きな小説家は?」と訊ねられると「江國香織さんです」としか言えない程度に江國香織さんの書かれる物語のなかで生きてきました。最初の出会いは映画化もされた『冷静と情熱のあいだ』でした。「あ、すごくきれいな本だな」と手に取った赤い文庫本のそれは当時の私にとっては殆ど理解できない大人の恋愛作品でした。なにせ小学生の頃に出逢ったのですから分からないのも当然です。ですがそんな当時の幼い私でも理解できた部分があったのが最後でした。こんな一文です。
マーヴの車は滑るように走る。
「あ、お父さんの車といっしょだ!」
ほとんど理解出来なかったにもかかわらずーその後江國香織さんの作品群を読んだ後に読み返して面白いことに気付くのですがーそのたった一文だけで引きつけられ、それ以来江國香織さんの小説は特に多く読んできたと思います。そんな私にとっての辞書といってもいい江國香織さんの作品群の中の、『物語のなかとそと』においてマーガレット・ワイズ・ブラウンのことと始まる散文にこんな一文があります。
彼女の言葉は湧き水のよう。小さくて勢いのいい、天然の湧き水。
私にとっての江國香織さんという小説家はあの方にとってのマーガレット・ワイズ・ブラウンのような存在で、ごくごくと飲める水のようなそんな物語を書く方だと感じるのです。