希望はいつも遅れてやってくる

第4章:再生への一歩

隆司は田代の才能を再び世に出すべきだと考え、小さな計画を練り始めた。田代のピアノを聞ける場を作る――そうすれば、彼自身が再び音楽と向き合えるのではないかと考えたのだ。しかし、田代は初めは頑なに首を振った。

「もう弾くことはない。俺にはそんな資格はないんだ。」

田代の言葉は重く、隆司にはそれ以上踏み込めなかった。それでも諦めきれない隆司は、自分なりにできることから始めることにした。

まず彼は、地域のコミュニティセンターに通い、小さな音楽イベントの開催を提案する。参加費無料で、近隣の人たちが自由に楽器を演奏できる場を作る計画だ。コミュニティセンターの担当者も快く協力してくれたが、隆司には肝心の出演者がいなかった。

「田代さん、ここで一曲だけ弾いてくれないか?」
ある日、彼は再び田代に頼み込んだ。何度も断られたが、隆司の真剣な目を見て、田代はようやく小さくうなずいた。

イベント当日、田代は一人だけ参加者のいない会場の隅に座っていた。緊張しているのか、目を閉じて微動だにしない。やがて会場に少しずつ人が集まり始める。隆司はマイクを握り、「今日は皆さんのために特別なゲストをお呼びしました」と紹介した。

最初は渋々ピアノの前に座った田代だったが、鍵盤に触れると彼の表情が一変した。静かに始まった旋律が会場全体に響き渡ると、誰もがその音色に聞き入った。田代自身も、久しぶりに自分の中に眠っていた音楽への情熱を思い出したのか、涙を流しながら演奏を終えた。

演奏後、田代は観客からの拍手を受けたものの、複雑な表情で「こんなものは自己満足だ」とつぶやいた。しかし隆司は微笑みながら言った。
「そうかもしれない。でも、その自己満足が誰かの希望になることだってある。」

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