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ロスの火災に思うこと――マイク・デイヴィスを、再び

現在も続くロサンゼルスの火災の報道を見て、ある著作を思い出した。マイク・デイヴィスの『恐怖の生態学――ロサンゼルスと災害の想像』(Ecology of Fear: Los Angeles and the Imagination of Disaster, Vintage Books, 1998年)である。

デイヴィスはカリフォルニア生まれの都市社会学者で、主に『要塞都市LA』(青土社、増補版、2008年)の著者として知られる。この本はロサンゼルスをクリティカルに見つめ直したもので、太陽とオレンジとハリウッド・スターに彩られる華やかなイメージの影で、資本家や政治家に搾取され続ける労働者、有色人種、貧困地区などの実情が容赦無く暴かれている。

『恐怖の生態学』では環境問題に目を向け、洪水、地震、火災、トルネードなどによって街が破壊されてきた系譜をたどっている。その中で、ロスを襲う災害の多くを人為的なものとみなし、乾燥した南カリフォルニアの大地に(それも地震プレートの真上に)大都市を作る「無謀さ」が批判されている。おまけに、都市拡大に伴って進む環境破壊のおかげで、マウンテンライオンやアフリカバチが住民を攻撃するという「自然の逆襲」も頻発するようになった。ロサンゼルスという「文明」を、フランケンシュタイン博士が生み出した怪物になぞらえたかのような分析であった。

デイヴィスはラディカルな視点から世界を凝視しており、一部の批評家から「厭世的」で「黙示録的」でさえあると非難されてきた。しかし、現在も火の手が止まないロスの様子を見ていると、デイヴィスの考えに頷かざるを得ない。例えば、今回の火災をめぐっては防災への準備や予算の不足が指摘されているが、『恐怖の生態学』では、すでに1980年代末から消防対策が大幅に欠けていたことが指摘されている(42頁)。また、山火事が広がり続けているのは気候温暖化によって大気の乾燥が進み、それが秋から春にかけて南カリフォルニアに吹く「サンタ・アナの[強]風」と重なってしまったからとも言われているが、これも災害を「人災」とみなすデイヴィスの視点と重なる。さらに、住民への被害がこれだけ大きくなったのは、利潤の追求を優先した宅地計画によって安全性を度外視した住宅密集地が作り上げられていったからだ、とデイヴィスは声高に言うであろう。

今回のような大規模な火災は、一旦起こってしまったらそれを速やかに鎮圧することは容易ではない。したがって、災害が起こる前に入念な準備や対策を講じる必要が出てくるわけだが、現在の惨状を見ていると、それが十分に行われてきたとは間違っても思えない。ふり返れば、ニューオリンズを水浸しにしたハリケーン(「カトリーナ」)の時も、巨大な原発事故を誘発した東日本大震災の時も、事前の危機管理対策が大幅に不足していたように思う(後者の場合は原発の「安全神話」が一種の隠れみのとなっていた)。「歴史は繰り返す」、ということなのか。

『恐怖の生態学』は、災害の怖さをまざまざと見せつける仕事だ。事後処理以上に、事前の対策に力を入れるべきだと考えさせられる。

<参考文献>
マイク・デイヴィス『要塞都市LA 新増補版』(青土社、2008年)。原書はMike Davis, City of Quartz: Excavating the Future in Los Angels (Vintage Books, 1990).
Mike Davis, Ecology of Fear: Los Angeles and the Imagination of Disaster (Vintage Books, 1998).

<画像出典>
https://www.sciencenews.org/article/california-wildfire-burning-winter


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