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ガブリエラとみやびと、思いの届け方

 海に向かって叫ぶ夢を見た。海の向こうの、その先よりずっと先へ向けて叫ぶ夢を。ありったけの想いを叫んでいるはずなのに、何故かあたしの声はあたしの耳に届かなくて。それがもどかしくて、もっともっと、って力を振り絞るけど、それでも聞こえるのは波の音ばかり。まるで、あたしの気持ちが足りないって言われてるみたい。
 「おぉ、海へ叫ぶ美少女。青春って感じやね」
 そんなとぼけた声が聞こえて振り向くと、そこにみやびが居た。
 「期待してたのと違う、ちう顔やね。振り向いたらそこにあの人が……みたいなのが良かったかね?」
 うっさいわね、いいじゃない別に。
 「じゃあそんなガブちゃんに、思いを伝えるとっておきの方法を教えてあげようかね」
 え、なにそれ?そんなのあるの?教えて!早く!
 「えいか?まずは……」
 まずは?
 ねぇ、黙ってないで教えてちょうだいよ。
 どうしちゃったの?
 …………
 ……

 そこで、目が覚めた。

 「──もう、教えるならちゃんと教えなさいよバカぁ!」

 「おや、ガブちゃん今日はずいぶんとふくれっ面やね。美人が台無しやよ」
 学校で、みやび(本物)が顔を合わせるなりそんなことを言う。
 「みやびのせいじゃない、まったく……」
 「む、うちが何かしてもうたか?ええと、どれが原因かねぇ……」
 「そんなに心当たりがあるの?やめてよ本当……そうじゃなくて──」
 言い方が悪かった。実際のみやびに何かされたわけじゃないんだし、ちゃんと言わなきゃわからないわよね。
 「……なるほど、ずいぶん青春っぽい夢を見たね。乙女のガブちゃんらしくてえいと思うよ」
 「何がいいのかさっぱりわからないんだけど……」
 「夢に見るほど悩むのは、青春の特権と相場が決まっとるんよ」
 「みやびだって充分青春の年頃でしょ……」
 訳知り顔で何言ってるんだか。
 「いやいや、うちは88のお婆ちゃんやきね」
 「……それ気に入ってるの?」
 「ただの事実やが?」
 なんだかこう……みやびと話してると時々、何もかもはぐらかされてるような気がしてくるわ。
 「まあまあガブちゃん、そう嫌な顔せんとき。……そや、夢の中のうちが失礼したお詫びに、現実のうちがちゃんとえいことを教えよか」
 「何よ、何だか胡散臭いわね」
 「……ガブちゃん、うちはサンドバッグやないき、何を言われても傷付かないわけやないんよ?」
 渋い顔のみやび。流石にちょっと言いすぎたかしら?
 「まあえい。これを知ったらガブちゃんも手のひら大回転でうちに感謝すること間違い無し、やきね」
 「ふーん、ずいぶん自信あるみたいだけど、良い話っていったい何よ?」
 「それは、ガブちゃんの夢に現れたうちが教えんかったこと──海に向かって思いを届ける正しい作法、ちうやつや」

 海を前にして立っていた。今度は夢じゃない、本物の海に本者のみやびと訪れた。
 「実際に海に来たのはいいけど……結局、作法って何なのよ?ここまで来たんだから、いい加減教えてくれるんでしょうね?」
 普通、することも教えないでこんなところまで連れてくるかしら?失礼しちゃうわ!
 「うむ、海に叫んで届かないならやることはひとつ。つまり……これやね」
 そう言ってみやびが取り出したのは、瓶だった。
 「声が届かんなら文字情報。合理的やろう?」
 「──って、要するにボトルメールじゃない……」
 「不満かねガブちゃん?媒体に残るぶん、叫ぶよりえい案やと思うたが……」
 真面目そうに言われると反応に困るわね……。
 「それに、てっきりガブちゃんはこういうのが好みと思っちゅうたよ」
 「そりゃあ、勿論ロマンチックなお話は好きよ。だけど、現実の海に瓶を浮かべたって思った場所には届かないでしょう?」
 「ガブちゃん、まるでうちみたいなこと言いゆうねぇ」
 おかしそうにするみやびに思わずムッとしてしまう。
 「何よ、実際みやびだってそう思ってるんじゃないの?」
 「んー……案外そうでもないよ?」
 ちょっとだけ真面目な顔になって、みやびは話を続ける。
 「瓶が流れていく先なんて、うちらには判らんきね。見えなくなったその先でどうなるかは重ね合わせ、ちうやつや。近くの浜に打ち上がるのも、どこぞの船員に拾われるのも、西海岸まで辿り着くのも、はたまた何処ぞの異世界に転移して偶然何処ぞのbotの頭にぶつかるのも、可能性は等分や」
 「……何で頭にぶつかるのよ」
 「足元に転がっても気付かんで蹴飛ばすかもしらんが、頭に当たれば多少鈍くても気付くやろ?」
 ドヤァ。
 「──何それ」
 その顔がおかしくって、笑った。

 「さて、じゃあ中に入れる手紙を書くとしようかね。言い出した手前、うちも何か書かんと格好つかんな……」
 そう言って手荷物から便箋やらを取り出すみやびに、ちょっとだけ尋ねてみた。
 「さっきの話だけど」
 「ん?」
 「本当に届くかも知れないって思って、海まで連れてきたの?」
 「……それが半分かねぇ」
 じゃあ、もう半分は?
 そう聞く前に、普段見せないような柔らかい表情でみやびは言った。
 「もう半分は……ガブちゃんと、こういうロマンチックなことがしたいと思ったんよ」
 その姿が、何だか少しくすぐったかった。

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