とある会話(もしくは頭の中)
「つまり、扉みたいなものだと思うんですよ」
「扉?」
「そう。扉は境界、場所と場所とを繫ぐもの。開いた先にあるのは、宇宙だったり、剣と魔法の世界だったり、何処かで見たことある町だったり…」
「だれかの心の中、だったり?」
「うん、きっとそう。だからね?物語を紡ぐことは、新しい扉を──扉の向こうにあるものを形にする作業なの。不確かな空想に、輪郭をつけて、色を乗せて、想像を創造する。そうやって生まれた世界はきっと、どんなものでも尊い。私はそう思います……そう思えるように、なりました」
「それが、ただ妄想を書きつけたような世界でも?」
「もちろん。だって、そう願ったってことでしょう?”そうだったかもしれない”世界がそこに生まれたなら、そこで生きたあなたと私もいるかも知れない。いつか巡り巡って、そこに辿り着くかもしれない。扉の数だけ、可能性はある。そう思わない?」
「──それは、素敵だな」
「そうでしょう。この道に関しては私は先達で、しかもプロフェッショナルですからね。どんどん頼ってくれていいんですよ?」
「うん、頼りにしてる」
「よろしい。で〜〜〜〜も〜〜〜〜?それよりも先に、私に何か言うべきことがあるんじゃないですか?」
「ああ、うん。そうだね。誕生日、おめでとう」
「ありがと〜〜〜〜♪でも遅〜い。一日遅れなんて人としてどうかと思う」
「ごめん。何も渡せないし、何て言ったらいいのかもよくわからなくなって」
「そんなに気にしないでもいいじゃないですか。婚約指輪!とかふたりの愛の巣!とか大きく出ておけば何処かで本当になるかも知れませんよ?新しい扉開いちゃおうぜホラホラ」
「そこまで無責任なことは言えないかな…」
「つまんなーい」
「じゃあ、とりあえず先ずはケーキを。それ以外は、話し合って決めさせて欲しいな」
「あ、ならあそこのケーキが良いです!新作の──」