ガブリエラと千羽鶴と、ちゅうがくせい
「そう言えば、あの日もこんなふうだった」
「はい?」
「──なんてふうに突然切り出すと、何だかいい雰囲気で話が始まると思わない?」
「ごめんなさい、ちょっとよく判らないわ」
いや、本当にわからない。この子突然何言ってるのかしら……
「って言うか、どうしてあんたまでここに来てるのよ?」
「ここはツンデレっ娘の貸し切りじゃないのだから、ちーが来ても何もおかしくない」
「ツンデレ言うな。──まあ、そりゃそうだけど」
そうだけど、あたしの時間に踏み込まれたような気持ちになってしまう……なんて、流石に直接言えないわよね。炬燵の中の足を、ちょっともぞもぞさせてしまう。
そう。あたしは今むぎまるの炬燵に入ってる。後からやって来た千羽鶴と向かい合いながら。
「むぎまるは、あたしのお気に入りだから。他の皆がひとりで来ることってあんまり無いのよ」
「ガブ子の好きなお店だってことは知ってる。だから来た」
「は?何でよ?」
「親睦を深めるため」
「──別に、今の距離感でも十分仲はいいと思うけど。前にも浅草を案内してあげたりしたじゃない」
実際、仲は悪くない……あたしは仲良くしてるつもり。色々あったのは確かだけど、今はつばめの妹だしね。だけど、ひとりで居たい時間とか場所もあるでしょう?
「私たちには、もっと仲を深める素養がある。だって私たちは、二人とも中学生!」
やたらと意気込んでそう言う千羽鶴。はい?
「いや、あんたはつばめと同い年でしょ?」
「確かにそういう設定になっている。だけどちーは逢瀬つばめ──お姉ちゃんじゃなくて、私とお姉ちゃんの大元だった”逢瀬つばめ”に仕込まれた自意識からクランとして発生した。その頃の逢瀬つばめは中学生。つまり、ちーは高校生でありながら中学生であると言っても過言ではない。一挙両ちー!どーん!!」
どう考えても無茶苦茶な話よね。けど、凄い勢いでまくし立ててくるから、気圧されてしまう。
「……つまり、そのぶん高校生なのに子供っぽいってこと?」
「ちーは子供じゃない」
ピシャっと言い切る千羽鶴。そういうところが子供っぽく見えるんじゃないかしら……
「ふふっ」
あの時はあんなに恐ろしく思えた相手が、今は何だか可愛らしいくらいに思えてしまう。そのことが何だか可笑しくて、少し嬉しい。
「何が可笑しいの」
「何でもないわ。──で、一応続きを聞くけど二人とも中学生だと何なのよ?」
「よくぞ聞いてくれた。中学生女子はユニットを組んで一緒に遊んだり、その様子をSNSに投稿したりするらしい。そういうのがやりたい」
「それ、もうつばめとか神楽とやってないかしら?何に影響されたの?」
まぁいいか。輪の中で普段はあたしが年下扱い──いや、実際年下なんだけど──されてるから、同い年同士みたいに盛り上がるのは新鮮で悪くないかも。そんな風に思った。
「早速ユニット名を決める。”がぶちー”だと何だか普通だから”がぶがぶちー”って言うと、可愛らしくて良いと思う。……でも、これだとガブ子がふたり居るみたい。ガブ子、分身出来る?」
──いや、さっさとここから消えてしまったほうが良かったかしら……。