07080053
「ちーちーは、短冊に何を書いたんですか?」
「……普通、開口一番にそんなことを聞く人はそうそう居ない。兎社会ではそれで通じたかも知れないけれど、もっと人間の会話術を学んだほうがいいと思う」
「ちーちーに言われるとめっちゃ腹立ちますね……”ちーちーは七夕の短冊飾りにどんなお願いごとを書きましたか?”。ほら、これでいいですか?」
「そもそも、ちーはよくわからない。願掛けの神事でもないのに誰へとお願いをしているのか」
「ほら、それはあれですよ。一年に一度だけ逢瀬が叶う織姫と彦星にあやかって……ってことじゃないですか」
「織姫と彦星が年一度しか会えないのは、イチャついて仕事をしなかった自業自得。ラブラブでも仕事はこなすべき」
「うわーロマンが無い……どうしてこんな子になってしまったんでしょう……」
「育て方が悪かった」
「コメントしづらいんで止めてください」
「ちなみに”年に一度と言わず一生愛しのあの人とイチャイチャ出来ますように”と書いて笹に吊るした」
「結局書いてるんじゃないですか。しかも内容がさっきの話とブーメランですし」
「お姉ちゃんが凄くいい笑顔で”この短冊はちーちゃんの分だからね!”って差し出してきたら、流石に私はいいとも言いづらい」
「それはまぁ、分からなくもないですね」
「あと、織姫と一緒にしないでほしい。織姫はイチャイチャして働かなかったから制約をかけられた。ちーは一年に一度顔を見ることさえ叶わない相手を思いながら日々身を粉にして働いている。つまりそのくらいのリワードはあって然るべき」
「そんなに働いてましたっけ……?」
「生きることは働くことなので当然」
「……まぁ、私は別に構いませんが……」
「さて、それではうづきちにも短冊に何を書いたか話してもらう。ちーが赤裸々に話した以上、当然の権利」
「それは勿論、内緒ですよ♪」
「不許可。断固抗議する」
「ダメダメ、絶対教えてあげません。だって……
乙女の秘密を覗いていいのは、一番大切な人だけ、ですから」
「……」
「そんなことより! 七夕の夜なんですから──日付変わってますけど──仲良く星でも眺めましょう♪ ぴょん♪」
「……そんなのでは誤魔化されないから」
「まぁまぁ、そう言わずに。実は取っておきのおやつがあるんですよ。つばめさんに内緒でこっそり分けてもいいんですが……」
「む。話だけは聞いておく」
「ナイス判断です、ちーちー。さ、行きましょ行きましょ」
「……今更隠すような話でもないでしょうに」
「何か言いました?」
「べつに。なにも」
【EOF】