神楽とガブリエラと、魔性のコタツ
「ねえガブちゃん……ガブちゃんには、守りたいものってありますか……?」
「突然何よ……そりゃあ勿論大事なものはあるけど、そういうあんたはどうなのよ?」
「私ですか?私が守りたいのは……この穏やかで完成された世界です……はぁ〜〜〜〜暖かい〜〜〜〜〜」
「顔も声も緩みきってるわね……」
「だって仕方ないじゃないですか〜〜〜〜〜〜」
そう、私がこんなにユルユルになるのも仕方ないことなんです。残暑が長引くかと思えば急激に朝晩冷え込むようになり、劇場の休憩室にもとうとう新世界の到来……そう、コタツが投入されたのです!
私、実のところコタツには馴染みが無くて、むぎまるで時々皆と入るくらいだったんですが……これは実にいいものですね!和むと言うか、心をほぐしてくれると言うか……ああ、天国はここにあったんですね……
「……そうやってブツブツ喋ってるの、正直怖いからやめてくれない?」
「怖いだなんて酷いですよガブちゃん……これは全てコタツの所為なんです……言わばそう、魔性のコタツ……」
「本格的に駄目そうね……」
本気でガブちゃんに呆れられている気配がします……それなのにシャンと出来ない私が憎い、いえコタツが憎い……だけど愛してる(ツンデレ)……
「けどまさか、神楽がそんなにコタツを気に入るとは思わなかったわ。こういう言い方は良くないかもしれないけど、この手の文化には興味無いのかと思ってた」
「え、どうしてですか?」
「だって神楽って趣味も生活も欧系じゃない。あたしは元々日本文化に興味があったけど、あんたは知ってる上でスルーしていたわけでしょう?」
「ガブちゃん、それは逆ですよ。日本に生まれたからには私の心にも最初からコタツへの愛はあったんです。それが今目覚めた、それだけのことなんですよ……」
「見てるとこっちまでふにゃっとしそうになるから、そのまま心に眠らせておいて欲しかったわ……」
「えぇ〜〜〜〜?そんなこと言わずに、一緒にふにゃっとしましょうよガブちゃん〜〜〜〜」
ここぞとばかりにセクハ……いえスキンシップです!密なコミュニケーションを取ることは大事ですからね、ええ!
「ああもう鬱陶しい……ほら休憩おしまい!さっさとバイトに戻るわよ!」
「え……?ギリギリまでのんびりしましょうよ……?」
「却下。ほら早く出なさい」
容赦なく私のコタツから引っ張りだすガブちゃん。新世界はかくも儚く砕かれる運命なのでしょうか。
「待って、待ってください……今ここを離れたら、もうこの子に会えない気がするんです……」
「何フラグみたいなこと言ってるの……いい加減観念しなさい」
ああ、さよなら私の新世界。次はバイト終わりに、笑顔で会えたらいいですね……