みやびとつばめの、あおいとりのはなし
うちの青い鳥は、ずっと前に何処かへ羽ばたいて消えてしまった。
……なんて、ちょっと詩的過ぎるか。こんな都会でも、海を眺めるとどうにも感傷的になっていかんね。
「あれ、みやびさん?」
「……おや、つばめちゃんか。こんなところで会うとは珍しいね。卯月のところの仕事かね?」
「いえ、今日はひとりでお散歩してたんですけど、また迷子になっちゃって……みやびさんはどうしたんですか?」
「うちも散歩やよ。ここはずいぶん眺めがいいき、気付いたらちくっと考え事をな」
「……もしかして、妹さんのことですか?」
「む。……顔に出とったか?」
まさか見抜かれるとは。
「いえ、何となくです。ちょっとだけ、寂しそうに見えたので」
なるほど。つばめちゃんは闘病生活が長かったそうやし、そういうことに敏感なのかも知れんね。
「つばめちゃん、素晴らしい観察眼やね。将来は女探偵を目指すとえい、美少女探偵として引っ張りだこになれるよ」
「えぇ!?探偵さんなんて、みやびさんみたいに賢くないと無理ですよぉ。でも、女探偵って何だか格好良いかも……」
ころころと表情の変わるつばめちゃん。うむ、まっこと愛らしい。うちには真似出来そうにないスキルやな。
「つばめちゃんは、何ちゅうか、可愛らしい妹ちゃん、って感じやねぇ」
「え、わたしがですか?」
「他にはおらんよ。神楽坂トライナリーの看板娘、いや看板妹に相応しい」
「そうかなぁ……わたしより、ガブちゃんのほうが可愛い妹って感じですけど」
「確かにガブちゃんも、うちやアーヤにとっては妹みたいなもんやけどね。うちにはつばめちゃんのほうが”ぽく”感じるよ」
「うーん……わたしのほうが、妹さんに似てるってことですか?」
「いや、似てる似てないで言うなら二人共別人やよ」
なごちゃんの代わりは何処にもいない。いる筈がない。
「……うちにとっての妹ちうのは、ころころと愛らしいイメージなんよ。ガブちゃんも美少女には違いないが、しっかり者やきね」
「確かにガブちゃん、しっかりしてますもんね。……あれ?じゃあわたし、頼りないから妹っぽく見られてるんですか……?」
「いやいや。つばめちゃんはこう、つい手助けしたくなる子やき、それがうちにはより妹っぽく感じる……のだと思う」
思うだなんて論理的でない発言やが、たまにはえいかね。
「そうなんですか……えへへ」
「何か面白いことでも言うてしまったか?」
「いえ、違うんです。……わたし、ずっと一人っ子で──今はちーちゃんが居るけど、頼りになるお姉ちゃんが欲しいなーってよく思ってたので。だから、みやびさんがわたしのこと、そんなふうに思ってくれて嬉しいんです」
そう言って笑う顔は、まるで青い鳥が帰ってきたようで。
「……つばめちゃんを見てると、子供の頃を思い出すよ。ずっと子供でいたかった、なんて思うてしまうくらいに」
「わたしは大人になりたいです。ちゃんと、皆に追いつけるように」
──ああ、本当に。
「つばめちゃんは、模範的な妹やねぇ」