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心を動かされる珠玉のサントラ盤(4):「レイダース/失われたアーク《聖櫃》」(ジョン・ウィリアムス)

「ドラマティック・アンダースコア」のサントラ盤を毎回紹介しています。

「ドラマティック・アンダースコア」とは、映画の中のアクションや、特定のシーンの情感・雰囲気、登場人物の感情の変化などを表現した音楽のことで、「劇伴(げきばん)音楽」と呼ばれたりします。

今回ご紹介するお薦めのサントラ盤は――

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レイダース/失われたアーク《聖櫃》 RAIDERS OF THE LOST ARK
作曲・指揮:ジョン・ウィリアムス
Composed and Conducted by JOHN WILLIAMS
演奏:ロンドン交響楽団
Performed by the London Symphony Orchestra
米Concord Records / CRE-31002-02

スピルバーグ+ルーカス+ウィリアムス

スティーヴン・スピルバーグ(監督)とジョージ・ルーカス(製作総指揮)が初めて手を組んだノンストップ・アドヴェンチャー(1981年製作)。ハリソン・フォード扮する考古学者インディアナ・ジョーンズが、超自然的な力を持つ十戒の破片を納めた聖櫃(アーク)をめぐって、ナチスドイツと虚々実々の追撃戦を繰り広げる。共演はカレン・アレン、ポール・フリーマン、ロナルド・レイシー、ジョン・リス=デイヴィス、デンホルム・エリオット、ウォルフ・カーラー、アンソニー・ヒギンズ、アルフレッド・モリーナ他。

原案はルーカスと、「ライト・スタッフ」「ライジング・サン」等のフィリップ・カウフマン。脚本は「白いドレスの女」「シルバラード」「ワイアット・アープ」「フレンチ・キス」等のローレンス・カスダン。撮影はダグラス・スローカム、SFXはリチャード・エドランド率いるILMが担当。

スピルバーグとルーカスの元々の狙いは「007シリーズのようなグローバルな冒険アクション」であり、シリーズ3作目の「インディ・ジョーンズ/最後の聖戦」(1989)に、インディの父親役でショーン・コネリーが登場するのは偶然ではないだろう。1981年度アカデミー賞の作品賞、監督賞、撮影賞、作曲賞にノミネートされ、美術監督・装置賞、視覚効果賞、音響賞、編集賞、特別業績賞(音響効果編集)を受賞。

音楽は、1974年の「続・激突!カージャック」以来スピルバーグ監督作品の大半を担当し、ルーカスの「スター・ウォーズ」シリーズも手がけているジョン・ウィリアムス(1932~)。かつてのコルンゴルトやマックス・スタイナーの冒険活劇音楽にも通ずるロマンティシズムとダイナミズムに満ちた豪快なスコアで、ウィリアムスのベスト作の1つ。

勇壮な「レイダース・マーチ」は今や映画音楽のクラシックとも言える名曲だが、「地図の部屋」でインディが聖櫃の隠された場所を探し当てるシーン(「The Map Room: Dawn」)や、インディがナチスのトラックから聖櫃を奪還するシーン(「Desert Chase」)のダイナミックな音楽も、映像との組合わせにより強烈な映画的興奮を覚える。

ジョン・ウィリアムスがAFI生涯功労賞を受賞

ジョン・ウィリアムスは、2016年にアメリカン・フィルム・インスティチュート(American Film Institute)による第44回生涯功労賞(Life Achievement Award)を受賞している。この生涯功労賞は、1973年に「駅馬車」や「荒野の決闘」で知られるジョン・フォード監督が受賞して以来、ウィリアム・ワイラー(1976年)、アルフレッド・ヒッチコック(1979年)、ビリー・ワイルダー(1986年)、デヴィッド・リーン(1990年)、スティーヴン・スピルバーグ(1995年)、マーティン・スコセッシ(1997年)、ジョージ・ルーカス(2005年)といった監督や、ヘンリー・フォンダ(1978年)、ジェームズ・ステュワート(1980年)、カーク・ダグラス(1991年)、ジャック・ニコルソン(1994年)、クリント・イーストウッド(1996年)、ダスティン・ホフマン(1999年)、ロバート・デ・ニーロ(2003年)、メリル・ストリープ(2004年)、アル・パチーノ(2007年)、デンゼル・ワシントン(2019年)といった俳優が受賞しているが、映画音楽作曲家としての受賞者はウィリアムスが初めて。

授賞式にはスピルバーグ、ルーカス、ハリソン・フォード、セス・マクファーレン、ドリュー・バリモア、ブライス・ダラス・ハワード、J・J・エイブラムス、トム・ハンクス等が出席した。

ジョージ・ルーカスは祝辞の中で、この「レイダース/失われたアーク《聖櫃》」のエピソードを披露。(それぞれ「未知との遭遇」「スター・ウォーズ」という大作を世に出した後の)スピルバーグとルーカスは、ビーチに座って「レイダース」のストーリーについて話し合っていたが、彼らは全く同時に「ジョンが音楽を書くべきだ」と言ったという。スピルバーグは「いいね! それが一番大事なことだ。じゃ、ランチを食べに行ってストーリーはまた後で書こう」と。言うまでもなく、ウィリアムスは「未知との遭遇」と「スター・ウォーズ」のスコアを作曲したばかりで、前者はアカデミー賞の作曲賞にノミネートされ、後者は同賞を受賞している。

ウィリアムスに祝辞を述べるためにハリソン・フォードがステージに向かうと、当然のことのように「レイダース・マーチ」が演奏される。壇上のフォードは開口一番、「私がどこに行ったってこの曲がかかるんで、もううんざりだよ(The damn music follows me everywhere!)」。これには場内大爆笑。スピルバーグの隣で夫人のケイト・キャプショー(「インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説」でヒロインを演じた)も笑い転げている。フォードは続けて、「私がステージに上がるときもかかるし、下りるときもかかる。極めつけは、私が内視鏡検査に行った治療室でもかかってたよ」と。

式の最後にスピルバーグから賞を授与されたウィリアムスは、彼のお気に入りのスピルバーグとのエピソードを披露。「シンドラーのリスト」の音楽について話し合うため、スピルバーグがウィリアムスのために完成したばかりの映画の試写を行った時のこと。上映が終わって部屋が明るくなっても、ウィリアムスはあまりの感動に打ちのめされて話し合いを始めることができず、しばらく建物の外を歩き回り、心を落ち着かせてからスピルバーグのところに戻って、彼に言った。「スティーヴン、これは真に偉大な映画だ。君には私よりも優れた作曲家が必要だよ」これに対しスピルバーグはとても優しく応えた。「そうだね。でもそんな作曲家は皆もうこの世にいないよ(I know, but they are all dead.)」

イツァーク・パールマンの入魂のヴァイオリンによる「シンドラーのリスト」のテーマ(サントラの演奏もパールマン)。オケはグスターボ・ドゥダメル指揮ロス・アンジェルス・フィル。


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素晴らしき映画音楽作曲家たち

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