アタシが離婚した理由 ≪13≫
カサンドラの憂鬱
夫とは言え、他人の私物を
勝手に棄てるなんて常軌を逸脱している。
だけど、一緒に住めないと思った人の物を
傍に置くことを頭も体も拒否している。
傍らに置くのは「待っている」と同じだ。
夫はいったい何をしでかしたのだろう?
闇バイトに手を出したのか?
アタシは離婚すれば他人になるけれど、
娘は縁を切ることができない。
犯罪者の家族になってしまう。
不安で身悶えした。
いきなり報道されたらどうしよう?
びくびくしながらニュースや新聞を確認したが
何故だかニュースにはなっていない。
長い間、無視していた夫の私物。
手を付けてすぐ、後悔した。
この、お荷物の山は夫の脳内迷宮なのだ。
着古した服の中に紛れ込む新品。
同じデザインのシャツとトレーナー。
高価そうなジャケット、礼服、鍵。
新品と中古のクリアファイル数十枚。
数えきれない文房具や鋏
数年前の給料明細。
誰と行くつもりなのか?
トラベルガイドブック、
額縁、通帳、印鑑、亡義母の写真
何世代前か不明のパソコン、
大昔の映画パンフレット、パスポート。
卒業アルバム、資格証明書など
重要なものとゴミが混然一体となって
劣化した衣装ケース内に
ミルフィーユ状態で詰め込まれている。
ベッドの下には、
十年以上前の消防団の活動報告書など
大量の紙束が、これも埃まみれだ。
あっという間に、袋が足りなくなる。
身体が痒い。
ベッドも剥がした。
臭いを気にいていたのだろう。
シーツや枕の下に消臭シートが何枚も挟んであった。
オヤジの体臭が染み込んだ布団や毛布など
誰も使わない。
可燃ごみの袋に詰め込んだ。
この作業を夜な夜な繰り返す。
最後はベッドを粗大ごみ回収に出し
フローリング用洗剤で拭き掃除して終わらせた。
モノが減った部屋は、音が反響する。
この部屋に入居が決まって、初めて入ったとき
こんなふうに音が響いたのを思い出した。
いつか二人暮らしになると思って
少し狭い部屋にしたのだが
こんな二人暮らしになるとは予想していなかった。