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伊藤くんAtoE【読書感想】柚木麻子

と言うわけで、柚木麻子著作の再読中です。
途中、別のイヤミスと言われている本も読んだのだけど、
文章が受け付けなかった。
読書って頭で文字が場面投影されるじゃない。強制的に。
自分の経験の映像とか蓄積された見聞から素材を集めて映像化されるので
汚い表現とか擬音とかが入ってくると
心の内側を勝手に汚されている気になるので
あんまり好ましくない物は取り入れたくないです。私。

特に下ネタ系のが擬音で表現されると嫌だな。
潔癖なとこ でちゃうわ。
柚木さんは立教大学フランス文学科卒業とのことなので、あんまり品のない表現方法はしないと信じてる。

この本は伊藤くんという
捉えどころのない夢追い系フリーター美形男子(結構な年齢)に
振り回される(愛を返されなかったり押し付けられたりする)
5人の女性のパターンを
伊藤くんA~伊藤くんEとして短編で描いている小説です。
恋愛小説なのかな?と思いきや敵対している感じです。
バチバチです。人物相関図を💗で繋ぎながら裏返ると
火花飛ばすような激しい人間模様が展開しています。

伊藤くん A 島原智美
デパートの革製品専門店で働く接客員の女性です。
長身ですらりとしたスタイルと接客員として申し分のない器量と物腰を持っている性格も良い完璧な女性です。
オートクチュールで作られた20万円のディスプレイ用の鞄に自分を重ねながら伊藤に片思い中です。
お高すぎて手に取ってもらえないとはなかなかご自負が。
デートを誘うのはいつも自分からで、決め手をもらえないままずるずると何年もあいまいな付き合いを続けている彼女です。
完璧すぎて自分に自信を持てない男性には手に余る美女の典型的なパターンなのかな。
いい友人がとても正論を言っているのでその通りにすればいいだけなのに。
なんで片思い相手の片思いの相談に乗ってるんだろう。
馬鹿にされてるわぁ。それでも連絡があればすっ飛んでいくし。

伊藤くん B 野瀬修子
伊藤のアルバイト先(コネでのアルバイト。伊藤の叔父が塾長をしている塾)にいる受付。
ぼんやりした女の子。あんまり男の劣等感を刺激しない感じの子なんだろうな。しっかりした意志主張もしないし、流されるとしぶしぶ流されるし。
発育のいい中学生に負けるような凹凸とは。
伊藤に熱烈に片思いされてて気の毒です。
はっきり拒絶したとたん噛みつかれて反撃されるし。
いやぁ。上の智美さんが欲しがっている色んなものを勝手に押し付けられてて可哀そうとしか思えない。
と同時に単なる無害な草食系男子ではない伊藤の顔が少しずつ表れてくる。
上の智美さんと表裏一体で伊藤との離別から自分の殻を脱していこうとして行きます。

伊藤くん C 相田聡子
この後の伊藤くんDに出てくる女の子がまた伊藤に片思いをしていてその子の親友がこの子。
だから伊藤から直接的な被害は受けてないんだけど。親友との友情を破壊されたぐらい。
ゆるふわ小動物系女の子って感じのイメージです。
モテモテちゃんです。恋愛経験は豊富です。寄ってくる方も行く方も成功率高いんだろうな。猛禽ちゃんってやつでしょうか。
器用な子だから「こういう反応をすると相手は嬉しいんだろうな」を忠実に行うことができるので、その戦術から相手を読み取る冷静な子です。
ゆるふわ小動物系だけどイタチのような怖さを持っているリスみたいな。
カウンターをかますあたり彼女は見所があります。
男より親友を取られる方が辛いって。だから伊藤に言い寄ったのは
ある意味 親友を守るためだったんだろうな。
自分は男性経験豊富なのに親友が男を紹介してと来たら冷めていくあたり
潔癖感を感じる。
こういう部分を描く柚木さんのキャラクターって現実味があるなぁって思ったりする。

伊藤くん D 神保実希
聡子の親友で伊藤に熱烈片思いをしていましたが、お誘いをしたところ
「処女は重い」と言う意味合いの(はっきりとは言ってない)ニュアンスでお断りをされ傷心の誕生日を迎え、親友と思っていた聡子に(とりあえず処女を脱しようと)男を紹介してほしいと言ったら軽蔑されて恥ずかしさのあまり爆破して友情を壊した実希です。それから1年後のお話。
この子の律儀(と言うか真面目ゆえの視野教唆と言うか)な部分が変な方角に出ています。伊藤に断られたことで女性としての自信が傷ついたので
とりあえず誰でもいいから処女をもらってくれと、知り合いでも有名な遊び人に声をかけてホテルに泊まりに行ってるところから話が始まります。
決して決して女性としての魅力がない子じゃないです。
潔癖的な雰囲気をまとった凛とした女子ってクラスにいたじゃないですか。
頭が良さそうで、変な男じゃ声をかけるのも躊躇するような。
要は智美タイプゆえに伊藤が敬遠したんでしょうね。
途中までいい感じだったんだけどね。処女脱出作戦。
遊びなれてそうな業界人で金も持っていて独身でサークルの先輩の通称クズケン。
後腐れなさそうな「そんな男」に声を掛けたら「そんな男」が一途に思い続けている本命の彼女が自分だったという。
逆に重くなっちゃうよね。相手の気持ちが。
しかも誰でもよかったとか口を滑らした日には。
聡子との友情爆破事案もそうだけど実希はパニックになると相手の一番傷つく急所を突くな。
いや。でもこれはラブエンドのフラグになるのでは?
相手の見かけ、ガッチリ系の坊主頭と言うことでかなり自分の好きなタイプです。イメージ的には池内博之です。
しかも金持ちで一途。いい物件ですよ。大事にしてくれそうですよ。
だけど柚木先生のシナリオでは男に行かずに女に行くんだ。
親友との絆を修復する方向に。心を許せる相手は同性なのか。

伊藤くんE 矢崎莉桜
昔よくこの人のシナリオのドラマ見たよねー。最近見かけないけど。
と言った昔はけっこう有名だったけど今は…って落ち目のシナリオライターです。前半の話にも莉桜の名前は出てくるのでやっぱり最後はここでトリの話を飾るのですね。
そして準レギュラーのクズケンも出てきます。
クズケンは遊び人風で実はまじめで親しい人には心配のあまりおせっかいをナチュラルにしちゃう気苦労系男子です。
クズケンが仕事で伊藤の欲しいものをかっさらうので伊藤の嫉妬心を煽るんだけどクズケンが私生活で欲しい物や大事なものは伊藤が雑に扱ったり壊したりするので仲悪いです。
そして捉えどころのない夢追い草食系フリーター美形男子伊藤の
正体が徐々に出てきます。
彼の正体は深海に住む謎の海底魚です。
自分が傷つくことを徹底的に排除して生きていくことを一生の目標にした彼の矜持にはちょっと理解をできないところはあるのですが。
自分は絶対に傷つきたくない。
防御を完璧にするために逃げて戦わず向き合わず成長なんぞ見向きもしないで傍観者の席から舞台を見るだけの人生です。

ある意味潔い。

そして再読して思ったのは
最初はこういう伊藤みたいな男性いるよな。と自分の心当たりもあってイライラと読み終えていたのだけど、伊藤以外の人物は傷つき、ぶつかったり、傷だらけになったり、みっともない部分をさらけ出したり、自意識を変えたり、痛い目にあって歩いて進んでいるんだなって。
伊藤くんは想像のキャラクターで実際にはいないんだけど。
彼は立ち止まってまったく動かないでみんなを見ているんだって。
彼には期待が無駄で、変わっていくこともない。

じゃあどうしなきゃいけないかと言うと
自分が変わって伊藤から卒業していく。

結果的に満身創痍ではあるものの登場人物の女性たちは次へ進んでいっていた。
伊藤くんは罪多き男なのか
現実というゲームの村人Aなのか。

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