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親知らずを抜いた話

抜くか悩める人たちへ送ります。


私と歯

母が、私がお腹にいるときに小魚の大量摂取でカルシウムを蓄えてくれていたせいか、虫歯知らずで生きてきました。キャップでもパッケージでも開けられないものは全て歯で解決してきました。おかげで噛み締める筋肉は人一倍強い気がします。歯であらゆる受難を乗り越えてきたといっても過言ではないくらいです。
今から10年程前は、ぐっと我慢する良い子の性格をしておりまして、日常的に噛み締める癖がつき、就寝中にいたっては激しい歯ぎしりで起きてしまうようになっていました。同時期に顎関節症を発症し、生まれて初めて歯医者に行きました。顎の痛みは気を付けていれば徐々に良くなると言われ、実際にその通りでした。
しかしその頃です。彼らが産声を上げ始めるのは…

上の段

最初は「なんか奥に歯が増えてご飯がたくさん食べやすいな」なんてのんきに構えていましたが、どうもおかしい。歯に接する頬の内側や、下の歯肉が徐々に削られていっている。上の左右両奥に親知らずが顔を出してきたのです。これは便利なだけではなさそうだ…。幸い真っすぐ生えてきているので痛みはないものの、上の親知らずが下の歯肉を削り、埋もれていい子にねんねしている下の親知らずを掘り出しつつあります。
家の近所にある歯医者さんで、小学生の頃には学校に検診に来てくれたおじいちゃん先生の元へ行き相談しますと、「うーん、まあ虫歯になりやすくなっちゃうしね、これで歯ぎしりが改善するかはわかんないけど抜いても問題ないと思うよ。あ、あと君、食いしばりすぎて犬歯なくなっているよ」
なんと歯ぎしりのしすぎで犬歯が丸みを帯びていたのです。この人生歯だけが自慢で生きてきたというのに!「あいつも昔はとんがってたけどね、丸くなったもんだよ」よく聞くあのセリフは私の歯のことを仄めかしていたのです。
二度と糸切り歯で糸を切ることのできない私は、牙を抜かれちまった犬同然です。これ以上自分の力が暴走する前に、抑え込んでしまわねば。そう思い、左右順番に上の親知らずだけ抜いてもらうことにしました。口内を荒廃させていた奴らはすんなりきれいに抜け、あまりにも立派なその姿は、おじいちゃん先生に「持ち帰ってペンダントにするかい?」と言われるほどでした。

嘘みたいだろ?歯なんだぜ、それで。

痛みも腫れもなく、なんだこんなもんか、そう思った大学2年の春でした。
笑った時に頬骨がむくっと出るタイプでコンプレックスだったのですが、今では気にならないほどになっています。加齢の問題なのか、抜歯のおかげかは正直わかりません。

下の段 本音の巻

そして昨年、何だか最近下の土台(骨格)が強くなって、歯ぎしりが悪化している…以前上の親知らずが掘り出した下の窪みに食べ物が詰まる…と気になり始めました。嘘です。いや半分本当なんですけど、要は小顔になりたい!ただただ顔が丸い。抜歯で筋肉が衰え、その影響で顔がスッキリするなら抜いちまえというのが本音です。
前々から近所のおじいちゃん先生に、下の親知らずを抜きたいと訴えていたのですが、「まあ抜かなくてもいいんじゃなあい?まあ抜くなら大学病院紹介するけど~」なんてのらりくらりかわされつづけ、私も私で「まあ痛いのは嫌だしな」と、いつかやろういつかやろうと先伸ばしにしてきました。

ネットを探せば、抜歯後、食べる牧場ミルクのキャラクターのようになっている人たちがうようよいます。でも、大体みんな盛ってSNSにあげているのでは…?風邪をひいてちょっと微熱が出ているときの大げさな男のようなもの(偏見)なのではないか…?そう思い、会社の仲良し同期にヒアリングしてみることにしました。いつもおっとりなOちゃんに聞いたところ、「小学生の時に矯正の為に親知らず4本全部抜いたよ、それから歯並びの為にあと追加で4本抜いたよ~」Oちゃんは穏やかで菩薩のような笑顔なのですが、アルカイックスマイルの境地に至るまで修羅の道を歩んできていたのです。正直怯みました。

抜歯のことを思い返すOちゃん

まあ何事も経験だし?Oちゃんより抜く本数少ないし、口の中なんか狭い気がするし?(小顔になりたい)、その思いで会社の近くで口腔外科のある歯医者さんに行くことにしました。予約した後、またしてもネットを漁り、「親知らず抜いたら小顔になるの?」という質問に高須先生が「小顔になりたいなら、親知らずなんかじゃなくて、ボトックス」と発言されているのを見て、まあそうっすよねー、これは歯ぎしり改善のためっす、と誰に聞かれてもいない言い訳をしながら新しい歯医者さんへ向かいました。

下の段 いざ!の巻

両下親知らずは完全横向き、上の歯にほじくられたせいで少し見えてきているといった感じです。
とりあえず一本ずつ抜いていきましょうと、一本目の抜歯が始まりました。
痛いのには強いけど、怖いのには弱い。というか未経験なもの嫌い。いざ始まると、口の中にR2-D2でもいます??って音がする。なんかうちのアールツーめっちゃ怒ってんすけど。

怒れるR2-D2

先生の「頭こっち向けて」という指示に応えているつもりだけど、「頭は向いているけど口がこっち向いてない!」などとお𠮟りを受ける。ひょっとこ。昼下がりの都内で、狂えるR2-D2を口内で飼ってるひょっとこOLなんて私だけs…、ん?なんだかしぶきが顔に当たる。先生の「あれ?おかしいな」助手「おかしいですね」という掛け合いに血の気がどんどん引いていく。怖すぎてどんどん手が冷たくなっていく。
「はい、終わったよー」の言葉がかかった時には魂抜き取られていましたは。レミゼのアンハサウェイもこんな感じだったのかな。大きくなってから怖くて涙流すとかなかったすは。顔に当たっていたしぶきは自分の返り血だったのでごしごし拭き取られましたは。8月の午後だったんですけど、茫然自失で暑さとか感じられなかったです。
痛みとしては、血は流れ続けるけど、ロキソニン飲んでいれば何とかなりました。気になる腫れもなく、次の週に抜糸に行ったときに「腫れなかったのは何かの奇跡です」と言われました。痛いより怖い、でももう乗り越えた。この調子でいってみよう!と文字通り調子に乗っていました。

下の段 いざいざ!の巻

「2本目は、1本目より深く埋まっているので、前回の倍の時間はかかります、大変だよ」と言われながらも、まあ経験しとるし余裕っしょ!私は痛みより未経験に恐れるタイプだしの!ってな具合で、前回よりもペンチで引っ張られたりしたけど乗り切れました。今回はアンハサウェイの気持ちにならずに済みました。「よく頑張りましたね」と先生に褒められ、胸にピカピカのバッヂをつけてもらったような気分です。相変わらず流血しつつもロキソニンのおかげで痛みの治安は守られていましたが、翌朝、マムシにかまれた犬みたいな顔になっていました。

笑いごとじゃないのよ

内側が痛いというよりは、外側からふれると痛い、骨格の土台の部分がヅキヅキする状態が3日くらい続きました。
抜糸に行ったときに先生から状況を聞かれ、「ちょっと腫れて痛かったです~じゃないですよ、あなたは骨折したのと一緒なんですよ」なんて言われたけどなんやかんやで無事親知らずの撤去が終了しました。

悩める人たちへ

全親知らずを抜いてみて口の中の面積が増えたというか、もともと頬肉が多いタイプですが、動かしやすくなったので、抜いてよかったと思います。あと、下の親知らずを抜いたら、歯が抜けて空いているところにご飯落ちないの!?って不安もあったんですが、別に落ちませんでした。普通に取れる。

抜歯後の穴にごはんが落ちるイメージ

肝心な小顔効果はあんまりよくわからないので高須先生の言うようにボトックス一択だと思います。歯ぎしりも抜いた直後は息をひそめていたけれど、今では普通に、あ、自分歯ぎしりしてんなーって寝ながら気づくほどです。
いい年して大人になったなーってのは変な話ですが、なんか人間には、二種類の人間がいるというか、この世は親知らず抜いたことある人間か、そうでない人間かさ、などと変な自尊心だけが生まれました。
あくまで自己責任ですけど、私は抜歯してよかったと思います。

悩めるあなたに、参考になれば。


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