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【イベントレポート】五反田、下北沢、長野 それぞれの土地で芽吹いた「場の編集」の価値

2022年4月9日、株式会社Huuuuの長野オフィス「窓/MADO」がお披露目となりました。MADOは「仕事場として使えるコミュニティスペース」。グランドオープンを記念し、トークセッションが開催されました。

ゲストにお迎えしたのは、東京・五反田のコワーキングスペース「Contentz(コンテンツ)」を運営する有限会社ノオトの宮脇淳さん、「下北沢BONUS TRACK」企画統括マネージャーを務める散歩社の桜木彩佳さんのお二人。お相手を務めるのはHuuuu代表・徳谷柿次郎。
 
五反田、下北沢、長野、それぞれの町で「編集のタネをまいている」三人が語る、「場づくり」と「編集」の持つ力とはなにか。当日の様子をレポートします。

「編集のタネ」をまいていく

柿次郎:桜木さんは、Huuuuの東京メンバーが利用している「下北沢BONUS TRACK」でカルチャーと共にリアルな場を運営されている方。宮脇さんは、僕がもともと働いていた編集の会社「ノオト」を経営しながら、コワーキングスペース、スナックと、僕がやりたいことを全部やっている、いわば「編集」の師匠です。

柿次郎:全国のローカルの現場で、若い人から「場をつくりたい」っていう話をよく聞くんですよ。編集の種まきすぎ!なお二人と、ノウハウ的な話ではなく、「場のいい話」を軸に今日はお話できたら面白いのかなと。

その場にいなくても「エア銅像」ができる

宮脇:ローカルでいうと、地元和歌山の話があります。コワーキングスペースを作った人と知り合って、僕も地元でなにかやりたいなと「和歌山経済新聞」というメディアを立ち上げたんですね。
 
コワーキングスペースという「場」と「和歌山経済新聞」という「メディア」。ハードとソフトの二つの「編集の場」があることで結束が生まれて、うまく成り立ったんです。

宮脇:そうやって「場づくり」をやっていると、「エア銅像」みたいなのができるんですよ。

桜木:エア銅像! パワーワード……!

宮脇:こういう人がいたんだよ、って話で伝わるようなね。実際に自分が和歌山にいなくても、たまに遊びに行ったりすると「あっ、よくお名前聞いてます!」なんて仲良くしてくれたりして。

コワーキングスペースを始めたことで、全国のコワーキングスペースの管理人同士の関わりもできましたね。人のつながりは財産ですよね。

桜木:「種まき人飲み」みたいなのがあるんですね。

柿次郎:「〇〇県人会」みたいなね(笑)。

「NOT コワーキング」でコミュニティをつくりたい

宮脇:運営者側もやっぱり悩みがあるんですよね。「場づくり」ってものすごい収益が出るわけではないし、人間関係の整理整頓とかも大変だし。

柿次郎:整理整頓?

宮脇:語弊があるかもしれないんですけど、ようはちょっと変な人も来るんですよ。

桜木:ひらいてる分ね。

柿次郎:そこはめちゃめちゃ掘り下げたいところですね。「MADO」って 「NOTコワーキング」的な言い方をしてるんですよ。「コワーキングスペース」だと、月額に対してのサービスを求められる。それってだるいじゃないですか。

宮脇・桜木:(笑)

柿次郎:だから僕は、「コワーキング」じゃなくて「コミュニティ」だと言っていて。

まずHuuuuのオフィスを作ろうとしていたら、その隣の部屋が空いていたんですよ。すぐ横に全然文化の違う会社が入ったらやだなーと思って。だったら、外の人が週に2〜3回出入りする、「外の風」を感じるような場所があってもいいんじゃないかなと思って「MADO」を始めたんです。

柿次郎:会社として「変な人」への対応コストをなくしたいっていう、ピュアな動機が根っこにあって。わかります?

宮脇:わかりますよ。「Contentz」も会員制なので、ドロップインはとても限定的にしかやっていないんです。

桜木:この方はお断りしようとかそういうのはあるんですか?

宮脇:まぁ、よっぽど変な人じゃなければ大丈夫ですよ!(笑)。

柿次郎:「よっぽど変じゃない」のラインが言語化できないし、言語化すると失礼なんですよね。

宮脇:そうそう、難しいですよ。自分たちと仲良くできる人が出入りしてたほうがいいですよね。「MADO」は、そういう思想がちゃんとしているなと思います。

柿次郎:ローカルな場では、人と人との距離が近いので誰かを「拒絶する」というのが難しい。町で会ったりもしますから。その時にお互い嫌な気持ちになるぐらいだったら、早めに強い結界をつくって「なんか違うかもな」って思わせたい。

宮脇:僕と柿次郎はそこの思想が近いので、桜木さんにもお伺いしたいですよね。

あえて余白をつくり、「種まき」の場に

柿次郎:「BONUS TRACK」は、東京のオアシスか!っていうくらい、めっちゃくちゃ気持ちいいんですよ!

桜木:「日記専門店」とか「発酵専門店」みたいな尖ったお店が多いんです。その空間に、インスタグラマーっぽい女の子がいたり、ただ座ってるだけのおばあちゃんがいたり。すごく一般的な言葉になっちゃいますけど、「多様性」みたいなことが体現できていたらいいなと思います。

桜木:余白をつくるために、「なくてもいい広場」があるんです。そのスペースをお店にもできるけど、そこで毎週末マルシェをやったり、お店をやってみたいけど、まだブランドだけ持っている状態の方が出店できるような、そういう「種まき」の場にしています。

チャレンジする人をプッシュする

宮脇:入ってくるテナントのルールというか、基準はどうだったんですか?

桜木:それは施設の名前自体にも反映されていて。若い方には伝わらないかもしれないんですが、CDっていうのがあったんですよ……。

柿次郎:わかりますよ!!(笑)。

桜木:「これめっちゃやりたいんだよね」、「ニッチなのは分かってるんだけど、どうしても入れたい」みたいな。そういう「余白」の部分を体現できる施設にしたい、という思いを込めて「BONUS TRACK(ボーナストラック)」。

桜木:例えば「大浪漫商店」というお店があるんですが、もともと音楽制作をやっている人たちのお店なんです。台湾でライブハウスを作った時に、台湾のフードが絶対日本で受ける!飲食業はやったことないけどやってみたい!と、始めたお店。

そういう、チャレンジの気持ちをうまくプッシュできるか擦り合わせていって、テナントさんを選びました。

柿次郎:僕も余裕があれば出店したいくらいです。

桜木:「シンカイ」みたいな?

柿次郎:シンカイ、4年間ずっと赤字なんですけどね(笑)!

タコツボ化していく人間関係をひらく「場」の力

柿次郎:「シンカイ」は、一切お金儲けのためにはやっていなくて。僕は全国あちこちに旅をしているので、365 日置いてある広告みたいな感じにしています。

僕が長野にいなくても、「『シンカイ』って柿次郎さんがやってる店だよね」って。宮脇さんの「エア銅像」的な感じ。

僕の知らないところでシンカイを通じて誰かと誰かが出会ったり、ふるさとワーキングホリデー制度を使ってインターンする人がいたりとか、つながりが生まれている。

柿次郎:僕は今年で40歳なんですけど、「場」をやっていなかったらもっと人付き合いが偏っていただろうなって思います。

宮脇:人間って歳を取るとタコツボ化していくんですよね。それを「ひらく」ためにも「場」を持っていると、めちゃくちゃいいことがある。

ずっと赤字、でもそれが「看板」になればいい

宮脇:「品川経済新聞」なんて15年間赤字ですよ。

柿次郎:おっ、赤字の大先輩だ!

宮脇:15年ずっと赤字でも、それが看板になってるんですよ。品川エリアを15年取材し続けていて、1年で200記事以上は作っているんです。記事の数だけ、関係性が生まれているんですよ。

柿次郎:すごっ。

宮脇:何千人単位で知り合いが増えるわけです。それを積み重ねれば、なにかしらには生きるだろうってことで、別に赤字でもいいんですよ。お金は別で稼げばいい。

柿次郎:「品川経済新聞」は、ノオトの新人研修の場でもあるんですよね。僕も、Huuuuの若手が訓練できるようなメディアを持ちたいと思うんですけど、「シンカイ」も赤字なのにさらに赤字のメディアをできるかっていうと……。

宮脇:それは別に、Webメディアを作らなきゃいけないわけじゃなくて。シンカイをうまく地元の「お店メディア」にすればいい。このMADOも、「つながりの場」として機能するんだったら、全然ありじゃないですかね。

「お店」を「メディア」と捉えている私たち

桜木:ここまでお話をしてきて、私たちってずっと「お店」を「メディア」と捉えていますよね。BONUS TRACK運営メンバーでも、よく施設を「雑誌」に例えていて。

宮脇:面白いですね。

桜木:例えば、毎日営業しているテナントさんは、「連載」。連載が面白いことで、いい雑誌になる。

ただそれだけだとフレッシュさが減っていくから、月ごとにバランスを見ながら「特集」としてイベントを組む。トレンドとか、地域の方の声を拾ったりとか、なにかやりたい方を探したり。

資本主義のバイブスと非合理性

宮脇:どのテナントを入れるか選んでいくのは「台割り」ですね。実に編集的。下北沢の文化・伝統に合ったお店を選んでいくやり方って、ほかの商業施設ではなかなかできないことだと思います。

桜木:大手の商業施設さんだと、オープニングだけ派手で、経営が厳しくなるとテナントが抜けてしまう。じゃあ次はこれだ!って、とにかく話題性のあるお店を突っ込んで……、そういう「資本主義のバイブス」があると思うんですけど。

柿次郎:資本主義のバイブス!(笑)

桜木:「ハコ」を作って終わりではなく、どう続けていくのか。

柿次郎:非合理性を選んだほうが、合理的に長い時間軸で価値が返ってくると思うんですよね。

宮脇:ほんとそうなんだよ! 「町が活性化する」っていう目的があるとすると、さすがに赤字はまずいにしても、トントンくらいにはなりますよっていう「トントン感」を町で出すのはありだと思います。

柿次郎:「BONUS TRACK」という非合理的なものを作ることで、改めて「下北沢っていい町だよね」って価値観が生まれて、それが結果人の流れを生んでいる。 

あえて言いますけど、長野は「ハコモノ」ばっかり多くてソフトが全然なんですよね。

編集者がどう町に潜り込むか

宮脇:ソフトをつくるのはやっぱり「編集」の仕事だよね。うまくマッチアップしなきゃいけない。編集者がどう町に潜り込むか。

桜木:どうしたら潜り込めるような立場になれますか?

宮脇:それはもう、やっぱり政治家に働きかける!

柿次郎:最後はね! 政治っていうのも町の機能のひとつですよね。

宮脇:僕は柿次郎より10歳上で、もうすぐ50になるんですけど、周りの見え方がちょっと変わったなと思うんですよ。
いままでずっとペーペー感があったんです。でも最近ようやく、あれ、俺ってもしかしてちょっと偉い人に見られてきてるのかなって思えてきて。

桜木:ちょっとだけ?(笑)

宮脇:こないだ品川区さんと仕事した時も、すごく気を使ってくれたんですよ。ビビらずに「もっとこういうことやっていきましょうよ」って言える環境がようやくできてきたのかな。

柿次郎:なるほど〜。

宮脇:それは、やっぱりずっと「編集」をやってきたから、力が溜まったんだと思うんです。

柿次郎:結構「大きい人」に見えているという。

宮脇:上の世代がきちんと意見できると、今度は若い人たちにお願いできるじゃないですか。以前はなんでもかんでも自分でやっちゃってたんですけど、いいバランスになってきた。

パソコンに向き合う仕事だけでは生まれない時間がある

柿次郎:そういう役割分担ってすごく大事だと思っていて。情報ばっかり触ってるとバランス崩れちゃうんですよね。ただただ記事だけ作っても実体がないというか。
 
「場をつくる」って、結局は人と接しないといけない。今日このグランドオープンの場をいいものにするために、「俺の好きな酒を買いに行く!」って酒屋に酒を仕入れに行って、グラスも買って、みたいな。そういう時間がめっちゃ好き。

宮脇:わかります。遠足の準備みたいなね。
 
柿次郎:目の前の原稿をやったほうが効率的かもしれないですけど、パソコンに向き合う仕事だけでは生まれない時間があるんですよ。
 
買い出しに行くとか、なんでもない時間にこそ自分の考えが整理されるし、世の中の経済のリアルな末端も見られたりする。今後も実体とともに仕事したいからこそ、「場の編集」を一個持っておくとすごくいいぞ、っていう。

「インターネット」と「リアルな場」

桜木:質問してもいいですか? 柿さん的には、Webメディアだったり、「実体」に触れないお仕事を長くやってきたからこそ、「リアルな場」を求める反動が大きかったんですか?
 
柿次郎:いい質問だなぁ!
 
桜木:私はもともと、ライブハウスから始まったアナログ場所オタクなんですよ。カルチャー系のハコは、部分的に閉鎖的だと感じるところがあって。それが町にひらいてると面白いな!と、だんだん拡張していった感じなんです。

宮脇:僕は結構、桜木さんと真逆に近くて。どっちかっていうと僕はネット民なんですよ。自分自身がインターネットによって人生が変わった一人なので。
 
ネットに触れて、いろんな世界が広がった。ネットのいい部分を、人にちゃんと伝えていきたい、活動していきたいというのが根底にあるんです。
 
ただネットの中だけにこもっていると、世の中の見えない部分はたくさんある。生きているのは「リアル」な土地じゃないですか。僕はネットが最初の居場所としてあって、リアルの場も大事だよねというのが後から来ているのかもしれない。

「同じ土俵」に立たないと同じ言葉で喋れない

柿次郎:僕も宮脇さんと同じで「インターネットに救われた人間」です。長野に移住してからも、ずっと東京のWebメディアの仕事をやってたんですよ。
 
長野の好きな友だちは、みんなお店を持っていたり職人さんだったりする。長野で最初に「シンカイ」という場をつくろうと思った動機は、「彼らと同じ土俵に立たないと、同じ目線の言葉で喋れない」と思ったから。
 
僕、HIPHOPが好きなんですけど、ラッパーって30過ぎくらいでお店を構えると、ちょっとその世界で生き残れるんですよ。

宮脇:えっ?どういうこと??
 
柿次郎:日本のHIPHOPってそれだけでは食えないので、27〜28歳のライフステージが変わるタイミングで、みんな辞めちゃうんですよ。そこから、お店をやることによって「編集者」になるんです。
 
みんなと目線を合わせて喋りたいのと、そういうお店への憧れがあった。基本的に僕は、すべての物事は「対等に話すために」やるんです。やると見えてくる。特に長野だとお店同士の会話がすごく大事で。
 
桜木:私はすごく好きなミュージシャンがいて、以前は「接近したい!」っていうミーハーな心が動機として強かったんです。
 
柿次郎:接近したい!!(笑)
 
桜木:とにかく近づきたかった。でも、私が企画したイベントにその方に出演してもらって「企画してくれてありがとうございます」と言われる側になった瞬間、すごいクライシス感があって。私がこの場を設けなければ、この時間は生まれていないという面では「対等」なんだなと思えました。
 
柿次郎:会社も一緒ですよね、経営者になることで、経営者の言葉が話せるようになる。そうやってひっくり返っていく感覚がすごく気持ちいい。
 
宮脇:僕もそれは身近な感覚ですね。コワーキングスナックを作った時に、自分もスナックに行くようになりました。いろんなお店の人と仲良くなることで、今まで見ていた目線じゃない世界が見えてくるんですよね。リアルな目線を仕入れることができた。それはやっぱり「場」があるからだと思います。

下北沢で「続く祭り」をつくりたい

柿次郎:なるほど〜〜。ここで一回話題を変えたいと思うんですが、「場づくり」において「これを一番やりたい!」ってこと、ありますか?
 
桜木:……盆踊り!!

柿次郎:すぐ出てきたなぁ! めちゃくちゃいいっすね!
 
桜木:「BONUS TRACK」は住宅街にあって、音の問題は結構シビアなんですよね。地域のご理解がないと実現は難しい。でもやっぱり下北沢といえば音楽。いくつもライブハウスがあったりミュージシャンが住んでいたり、そういう文脈がある場所だからこそ、「祭り」をやりたい。地域の小学校の和太鼓クラブに、一緒に盆踊りやりませんかとお話してみてるんですよ。
 
柿次郎:あっ、もう種まいてるんだ!
 
桜木:新しい施設で、これからも続くお祭りがつくれたらなぁと。
 
柿次郎:盆踊りができた時点で、町との相互理解が深められたという意味にもなるわけですよね。
 
桜木:前に関わっていた「下北沢ケージ」は、初めから3年で終わることが決まっていたので、「瞬間風速命!」みたいなところがあって。BONUS TRACKでは、長い時間軸でちゃんと地域に根ざして、新しい価値をつくっていきたいですね。
 
柿次郎:宮脇さんはどうですか。来年50代を迎えるにあたって。
 
宮脇:50代はねぇ、まったく見えていない。でももっと、周りで「なにかやりたい」と思っている人たちをサポートできるようになりたいですね。自分自身がやりたいことってないんですよ僕は。モチベーションゼロで仕事できるので。
 
柿次郎:モチベーションゼロ! 宮脇さんの発言の中でもすごい衝撃ですね。
 
宮脇:ゼロなんですよ。ある瞬間から、自分じゃなくて周りが喜んでくれればいいやと思うようになって。50代はそっちに振り切りたいです。

柿次郎:日本に一番必要なおじさん像ですね、それ。絶対必要。
 
桜木:私も初めは公私混同な欲求で動いていましたが、ふっと周りを喜ばせるほうが面白い!と気づいた瞬間があって。そこからスンッて自分が透明になりました。
 
宮脇:それって実に編集者っぽい気がするんですよ。ライターさんと編集者の関係って、野球で例えるとピッチャーとキャッチャーで。ライターさんにいいピッチングをしてもらいたいんです。自分はずっとマスクを被っていていい。
 
ちゃんとみんながそれぞれ良い仕事をしてくれるようにするのが「編集」だと思っています。これからの50代は、活躍したい人や、やりたいことがある人をバックアップできる立場にはなりたいなと。

「自分のやりたいこと」、「町」、「行政」三つのバランスをどう取っていけばいいのか

柿次郎:ありがとうございます。さぁ話はだいぶいい感じなんですけど、もし質問があれば! おっ、どうぞ。
 
会場の男性:「町にとっていいものをつくる」、「自分たちでやりたいこと」、「行政と一緒にやっていく」この三つのバランスをうまく取っていくにはどうすればいいんでしょう。

柿次郎:目の前の課題をどうこうするのではなくて、自分の中にいろんな価値観の物差しを持っておけば、その土地に合わせたものをちゃんと作れる、はず。インプットのほうが大事な気がしますね。
 
いきなり尖ったことってできないから、町や行政に納得してもらえるように、日々の時間の中でコミュニケーションを積み上げていきたいなと思います。
 
宮脇:実はこれまで意図的に行政との絡みを避けていた部分があって。民間でできることは、まず民間でやりましょうっていうスピリッツだったんですね。行政ありきで考えずに、どういう理想をもってチャレンジできるか、やれる範囲を自分自身で考えてみればいいんじゃないかな。
 
桜木:それぞれの解像度とか視野がちがうから、一緒にいろいろやるのムズくね?って話ですよね? いきなり肩組むのは難しくても、まとまりきらない部分をろ過していって「こうすればみなさんオッケーですよね?」っていう具体的な提案をするのがたぶん編集者な気がします。
 
宮脇:プレーヤーが多くなるとね、合意形成をするのが難しいんですよね。自分の力やリソースで、どこまで引っ張ってやりきれるか。町とか行政はあとから付いてくるものな気もしますね。

「風通しのいいコミュニティ」のつくり方

柿次郎:ほかに質問は……、あっ来てますね。
 
配信視聴者からの質問:場をつくる上で、身内ノリにならず風通しのいい、気持ちのいいコミュニティとして発展していくコツはありますか?

桜木:「BONUS TRACK」は、個別にお声がけしたテナントさんも多いんですが、公募枠を設けることで身内ノリにならず、新しい出会いが生まれるようにしました。
 
柿次郎:そもそも「風通しのいいコミュニティ」ってどういう状態なんですかね。
 
桜木:入りやすいこと?
 
宮脇:最初に集まってきた人たちが固まっちゃうと、途中から入りづらい。
 
柿次郎:会社も一緒ですよね、ある程度人の出入りがあったほうがいい。
 
宮脇:それの解決策なのか断言はできないですけど、イベントで工夫することはできますよね。「Contentz」では2015年から、都度トークテーマを変えた「#ライター交流会」というリアルイベントをやっていて。毎回来てくれる人もいれば、興味ある回にピンポイントで来てくれる人もいる。そうやって、うまく人の出入りを変えてみるとか。
 
柿次郎:なるほど。全然違う属性の人が集まる仕掛けをどんどんつくっていくっていう。

違和感に気づけるかどうか

柿次郎:これで最後の質問にしましょうか。
 
配信視聴者からの質問:イベントやコミュニティの中で、場の空気を変えたいと思ったときに行うことはありますか?
 
桜木:場の空気のよどみとか、ちょっとした不快感みたいなものにはめちゃくちゃ敏感かもしれないです。例えば、「ちょっとお尻痛いな」って思ってそうな人がいたら「クッションありますよ」って差し出す、みたいな。マイナスになっちゃってる人がいないかは、すごく気にするようにしています。
 
宮脇:今の質問からすこし外れるかもしれないですが……お店をやるんだったら、店主はちゃんと全部の席に座るべきだと思うんですよ。自分にとっての居心地の良さがちゃんと再現できてるかをチェックする。細かいことを放っておかない。違和感があったらちゃんと対処する。
 
柿次郎:すべての「場」とか「お店」において、すごく重要なことですよね。違和感に気づけるかどうか、アップデートしてより良くしていけるか。

桜木:マイナスをなくしてあげることと、「この人たちは次こう望むだろうな」って先のことを想像した導線を自然につくってあげること、この二つがあるかもしれないですね。
 
柿次郎:いい質問をありがとうございました。それでは、これから「場をつくりたい!」「場の編集をしたい!」という若者に一言物申して終わりましょう。

やれば全部わかる。やらなかったらなにもわからない

桜木:柿次郎さんは物申さないんですか?
 
柿次郎:僕ですか? 「やればいい!」やれば全部わかる。やらなかったら、なにもわからない。 
 
桜木:それに近いですが、「やる or DO」! とにかく、やらないのが一番ダメ。やって失敗するのはオッケー。とにかくやる!

宮脇:僕からは、「他人の意見をどこまで聞くか」ですかね。まずは自分自身の理想を求めてみる。でもどこかで、調整しないといけない部分はでてくるから、そこをどう見極めるかが大事。自分のブレない芯を持つっていうのが大事かなと思います。
 
柿次郎:お二人とも、ありがとうございました。  
 
会場:(拍手)

イベントを終えて

場づくり、編集、コミュニティ。10年前はあまり聞くことのなかった言葉が、ここ数年で存在感を増してきました。
 
コロナ禍で「人と会うこと」自体にタブーな空気感があった2020年。「自分が人の集まる場所に行ってしまえばいい!」と、長野市のど真ん中にあるゲストハウスで働きだした私も、三つのキーワードをあとから意識しはじめた一人です。トークセッションを聞いているうちに、自分もこの町でいつの間にか「編集者」になっていたんだなと気づきました。
 
好きな映画にまつわるイベントを企画したり、町で見かけた同年代の子に声をかけてお店に呼んだり、お菓子作りが得意なお客さんを誘ってプリンの食べ比べ会をやったりと、手探りで毎週イベントを企画し、人を集めることに奮闘していた最初の数ヶ月。
 
次第に、イベントを通じて人と人が出会ったり、Instagramの投稿を見てやってきてくれたお客さんが、うちでワークショップを行うようになったり、「ここにくれば友だちができるって聞きました」と、人が集まってくるようになりました。
 
私が「お店」という「場」を通じてやってきたことは、実は編集の種まきで、少しずつ花が咲いてきた実感があります。
 
人と人をつなげるのも、編集。「場」をまだ持っていなくても、誰しもが町の編集者になりえますし、編集者がたくさんいる町はきっとどんどん面白くなるはずです。
 
MADOができたことで、新たに「種まき人」たちが長野で出会う。ここでまかれる種は風にのって各地のローカルにも広がり、じっくり時間をかけて花を咲かせていくはずです。
 
あなたが、私がいることで、ここはどんな場所になる? さぁ、編集の種、まいていきましょう。

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構成:風音


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