【革靴のシューエ】絵本用のショートストーリー
靴を磨いてシュッシュッシュ
蜂蜜こすってキュッキュッキュ
仕上げのワックス終わらせて
忘れちゃいけない少しのお水
真っ黒、革靴、シューエくん。
いつもお洒落なシューエくんのところには、毎日の様に困ったちゃんが訪れます。さぁ、今日も誰かが来た様です。
(ぴんぽーん)
「はーい」
「どちらさまですか?...」
(ガシャっ)
「こんにちは、僕ランドセ...」
ズドドド(お辞儀して中の物を落とす)
「あらあら、こんなに汚れてしまって一体何があったんだい?」
そこに居たのは使い古されたランドセルくんでした。縫い目はボロボロで、肩掛けは今にも破れそう。おまけに背中の革もボロボロになっていました。
「さぁ、あがってあがって」
ランドセルくんを部屋へ招くと、大泣きしながら訳を話し始めました。
「実はね、明日ゆいちゃんの卒業式があるんだ。でも、僕がこんなに汚れてるから新しいランドセルを買うって言うんだ。六年間も一緒だったのに、そんなこと言われて。僕はどうしたらいいんだい?」
ランドセルくんは大泣きしながら背中の革を見せました。
「背中がこんなに汚れているから、きっともう捨てられてしまうんだ」
おんおんと泣くランドセルくんにハチミツを出してあげると、シューエくんはどうしたものかと考えました。
「そんなに汚くなってしまってはねぇ」
「そうなんだ、もっともっといつも大事に手入れしてくれれば長持ちしたのに。僕はもう捨てられるんだ」
困ったシューエくんは靴職人のおじいさんに相談することにしました。
「ランドセルくんが困っているのだけれど、ものすごく汚れてしまっているんだ。とても悩んでいるみたいだし、どうにかならないかな?」
靴職人のおじいさんはランドセルくんを連れてくるように言いました。早速ランドセルくんを連れてきて靴職人のおじいさんに汚れを見せると、紐と針とブラシと水とワックスと、それからハチミツを持ってきました。
「ここへおいで」
靴職人のおじいさんは、まずほつれた紐を丁寧に取ると針を使って新しい紐をしっかりと縫い付けました。次に、ブラシで汚れを綺麗に落としてからハチミツをたっぷり塗ると、革がさっきよりも元気になってツヤツヤになりました。仕上げにワックスでさっと磨いてから、少しのお水を垂らしてもっと手早くササッと磨き上げました。すると、どうでしょう?さっきまで汚れてボロボロだったランドセルくんが新品の様にピカピカのツヤツヤになったのです。
「一体、何をしたんだい?まるで別人になったみたいだ。こんなに綺麗になるなんて、本当にありがとう」
「なぁに、ランドセルくんを元の姿に戻してあげただけじゃよ」
ランドセルくんはとても喜びました。
「これで、僕もゆいちゃんと一緒に卒業式に出られるぞ」
「ほほっ。良かったのう。じゃが、またすぐボロボロになってしまうかもしれない。今度ボロボロになったらもう、わしでもなおしてはやれんぞ。だから汚れる前にまたわしのところへくること」
ランドセルくんは元気な声で返事をしながら走って帰って行きました。
「ほんとうにありがとう」
次の日、ランドセルくんはゆいちゃんと一緒に卒業式に出ることができました。二人ともとても嬉しそうに、最後の写真を取ってお別れをしました。
「今までありがとう」
「僕の方こそ、六年間も大事にしてくれてありがとう。卒業式にも一緒に出ることができて、とてもとても嬉しいよ」
こうして、ランドセルくんはゆいちゃんと最後まで一緒にいることができたのでした。
それから一年が経ちました。
靴を磨いてシュッシュッシュ
蜂蜜こすってキュッキュッキュ
仕上げのワックス終わらせて
忘れちゃいけない少しのお水
シューエくんが靴職人のおじいさんに綺麗にしてもらっていると
「こんにちはー、靴職人のおじいさんいますか?」
そこには、ランドセルくんとゆいちゃんの妹のあいちゃんが居ました。
「ほっほっ。今行くよ」
ランドセルくんはあれから大事に大事にされて、あいちゃんと一緒に毎日学校へ行っているのでした。
「どれどれ、また紐がほつれておるのう。今なおしてやるからな」
ピョコっと跳ねた紐をハサミで切って、ランドセルくんはいつもの様に丁寧に手入れされています。
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【お話を書くにあたって】
大切にしているものと言われて僕が一番に思い浮かべるのはリーガルの革靴です。何をするにも大体革靴で、バイクを乗るのにも革靴を履きます。だから最初は革靴のお手入れの話にしようと思いました。しかし、それと同時になぜか僕が小学生のときに使っていたランドセルのことも思い出したのです。僕は、背中の革に名札の安全ピンでかいた落書きがあったり肩の部分が切れていたりとランドセルをとても雑に扱っていました。今はもう手元にすらありません。今僕が大人になって大切にしている革靴のようにランドセルをお手入れして長く使えるようにできたら素敵なんじゃないかなと思いこのお話を書きました。あのとき大切にできなかったもの、今の僕ならきっと大切にできると思います。小学生の頃には汚いものがかっこ悪かったり新しいものがかっこよく見えたりしたけれど、手入れをして自分で綺麗にする楽しさや傷すらも愛おしくなる様な愛着を知ってもらいたい。そのきっかけになればいいなと思います。
生きてる意味なんてなくて、それは淘汰されなかった結果で。命の上に立つ自分が理由なく生きてることに憤りを感じて悲しくて。生かされるべくして生きられたのなら、そんなに幸せなことは無いと思います。毒にも薬にもならない生き方はしたくなくて、少し効きすぎたらごめんなさいm(__)m